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堀慎吾の成した押せる手牌。鈴木たろうの系譜

(会報コラム「ボーダーライン」第2号/2022.7)

日本プロ麻雀協会に入って21年目になる。

長く在籍して何か自分が劇的に成長したというわけではないが、
時代によって変化する麻雀のトレンドというものを、肌で感じることは多いと思う。

周囲の打ち方の変遷に対応したり、自身の麻雀も変化させたりすることができなければ、
この世界で生き抜くことは難しいのではないだろうか。

かなり昔は手役・打点重視で進行が遅かったのが、15年くらい前に先手・リーチを狙う戦法が流行し始めた。
愚形のドラ1程度でも、先制リーチこそが有利であると、現在有名なポーカープレイヤーでもある小倉孝や、ライターの福地誠氏が唱えた時代があった。

現在でもそれはある種間違いではない。

ただ、打ち手のレベルが格段に上がった昨今では、相手の受ける能力も斬り返してくる強さも、そう軽んじて見積もることが少なくなった。

早いテンパイだけが良い結果を生むとは限らない、と思われるようになったのである──。

そして、今のトレンドの礎を作ったのは、かつて協会に君臨した絶対強者・鈴木たろうであったと思う。

いわく、「先手を受けても押せる手組にせよ」と。

自分が張っていなくてもいい。押す価値のあるイーシャンテンを作る。

ずっと昔の麻雀への原点回帰に近いかもしれないが、
当時は過度に手役を追ったり、迷彩を施しての出アガリ重視だったり、
効率的にはバランスが悪かった選択もあったかもしれない。

打ち手の思考の引き出しも増えて、その塗り重ねで円熟した現代のトレンドは、強い麻雀としてこれからも戦術の中心になると思う。

さて、その鈴木たろうと同じ考え方を最初から持っていた選手がいた。

彼はずっとたろうの店で働いていたし、一緒に過ごす時間も多かったので、
その「早いテンパイより押せるイーシャンテン」という主義をどちらが先に持っていたのかはわからない。

元より資質が近かったのか、たろうに与える影響もあったのか。

とにかくその、堀慎吾という選手が今、協会の麻雀を牽引する存在であるのは論を俟たないだろう。

4月2日に行われた第21期雀王戦A1リーグ第1節、1回戦南1局の場面である。

まずは53700点持ちダントツの東家下石がリーチ。
5sが入り目の、2mと4mのタンヤオシャンポンリーチである。

そしてそれを受けての北家堀は、この手。

テンパイだが7mも8mも通っていない。
9mも3枚切れで、どう取ってもリスクとリターンは見合うとは言い難い。

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