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【詩】風の中に立つ

変容をうながす風は
否応なくすべてを押し流し
もと居た場所から見えた景色が
どんなふうだったのかも
すっかりわからなくなってしまった

私たちの五感には
いま手元にあるものだけが
鮮やかすぎるのだろう

この世界には
リアルな手触りのあるものしか
もはや存在しないと言った風情
かつて通り過ぎた場面は
実感を伴わない虚構となって
夢か映画のシーンのように
おぼろにたゆたっている

加速している
風の勢いが
押し流す力が増している
眩暈がする
しかし渦中に佇んでいると
押し流されていることも
わからなくなってしまう

たよりない私という存在が
広大無辺の宇宙の中で
迷子にならないように
オレンジ色のブイでもつけて
見守っていてくれ

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