日本学術会議任命拒否がなぜヤバいのか

日本近代史の先生方により、菅総理による日本学術会議任命拒否の撤回を求める署名が開始されました。どうぞ、ご賛同のほど宜しくお願い致します!
http://chng.it/7YgdsbGv2q


菅総理が日本学術会議の会員のうち、6名の研究者の任命を拒否しました。これは明らかな違法行為であり、学問の自由に対する侵害です。
しかし、私のFBでの反応を見ても、何が違法なのか分かりにくい事例のようで、多くの人が
【1】なぜ任命権があるのに拒否するのはダメなのか?
【2】拒否されても学問はできるのではないか?
と疑問を持つのを見ています。
いつもロムってるだけだけど投稿見てるよ、という皆様にぜひ賛同して欲しいので、私なりに簡潔な説明を試みます。


【1】なぜ任命権があるのに拒否するのはダメなのか?
→「任命する=任命を拒否できる」ではありません。
【2】拒否されても学問はできるのではないか?
→「それくらいいんじゃないか、まだ研究はできるでしょう」というのが、実はものすごいマズイ。


【1】なぜ任命権があるのに拒否するのはダメなのか?
→「任命する=任命を拒否できる」ではありません。

・日本学術会議は独立した機関

「日本学術会議は、独立して左の職務を行う。」(日本学術会議法第3条)

そもそも日本学術会議は独立した機関で、メンバーを総理大臣が自由に任命することはできない。

・分かりにくいけど、任命を拒否する権限はない

「会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(日本学術会議法第7条第2項)

あくまで推薦に基づいて任命する仕事があるのであって、内閣総理大臣に会員を自由に選んで任命する権限はない。

任命について、似た書き方の法令を探せば、憲法第6条があります。
・天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
・天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
もちろん総理大臣を決めるのは国会で、天皇に政治の実権はなく、この任命は任命する相手を選ぶ権限ではありません。
この例はレベルが違いすぎるんじゃないかという話もありますが、法律上の任命を「任命の拒否もできる」と解釈していくととんでもないことになるのは確かです。その説明のために出しました。


【2】拒否されても学問はできるのではないか?
→「それくらいいんじゃないか、まだ研究はできるでしょう」というのが、実はものすごいマズイ。

歴史上、政治権力が学問の自由を一歩でも侵害するのを許したらマズいんです。
政治権力が、書籍を燃やす(焚書)・特定の思想や少数派を攻撃する、といった一般市民に関係なさそうな迫害を許すと、その後困るのは社会全体です。ナチスドイツの例を挙げます。

『彼らが最初共産主義者を攻撃したとき』
ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は共産主義者ではなかったから
社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
私は社会民主主義者ではなかったから
彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は労働組合員ではなかったから
そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった

今回、菅総理は特定の政策に反対した人文学系の研究者のみを拒否しました。
それくらいいいんじゃないか、と受け入れることは、いつか自分が攻撃されるのを受け入れることです。
それくらいいいんじゃないか、と受け入れることは、攻撃で排除された人と「それくらいいいんじゃないか」という日和見の人を徐々に増やし、かつ徐々に「声をあげたら自分も排除されるんじゃないか」という恐怖を社会全体に高めます。
あなたが排除される時に誰かが助けてくれるために、研究者は学問の自由の中でいつも最初の砦になってくれています。

「それくらいいいんじゃないか、まだ研究はできるでしょう」というのがものすごいマズイのはそういうことです。それこそ権力者の思うツボです。
特定の政策に反対した人文学系の研究者を拒否したら、次は研究予算に口を出してくるかもしれません。特定の研究や思想を直接否定してくるかもしれません。あなたの人権や財産を否定してくるかも
今回、ヤバい手の出し方をしてきたなと思うのは、少数の人にだけ焦点を絞って攻撃してきて、まさに「それくらいいいんじゃないか、よくわからないし」という人たちがスルーするのを待っているようだからです。


いつもながら結局簡潔じゃないのに読んでくださってありがとうございます。
この署名にある研究室の書棚と思われる写真が、ずっとそのままであって欲しいと心から願っています。

最後に改めて、ご署名を宜しくお願い致します。
http://chng.it/7YgdsbGv2q

そしてこちらの記事が素晴らしいので、興味を持たれた方はぜひご覧下さい。


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