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【第2話】獣をこの手で殺して喰っておきたい

 グハハハハー、お前ら皆殺しじゃぁ~! なんて襲いかからないのでご安心を。今回は、自給自足とかそういう方面の話である。

 先日、夫から「田舎に移住する&自給自足だ」と宣言されて焦ってはみたものの、例えば、獣を狩って殺して食べることなんかは、「死ぬまでに一度は経験したいリスト」に元々入っていたことだ。だって、考えてみたらおかしくないですか? 我々だってオオカミやミジンコと同じ地球生物。スーパーで真空パックにされたハム298円をプラスチックの籠に入れることが、本来の捕食行為だとは到底思えない。当たり前だけど、あれは屠殺(とさつ)場の人が代わりに殺してくれている。人間、特に先進国の人間たちは、壮大な分業システムを採用しているおかげで医療とかアートだとかを発展できてる訳で……、だから仕方ないことではあるんだけれど、やっぱり「相手を殺った」という十字架を背負わない捕食なんて、軽く卑怯だし、本来の「(命を)いただきます」というありがたみも薄い気がする。

 と、ちょっと道徳めいたことを並べたけれど、要は「生きもの本来の食事」を味わってみたいということなのだ。あと、しめたての生肉って美味しそうですよ。テラッテラの鴨肉をあてに、焼酎飲みたい……。

 というわけで、実は「移住紛争」が勃発する以前に、狩猟免許を取ってました。

(苗字は戸籍上の本名なので、一応伏せておく)

 一般人が鳥や獣を獲るにはこれが必要で、使う得物ごとに資格が4つに分かれている。①網猟、②わな猟、③第一種銃猟(散弾銃など一般的な猟銃)、④第二種銃猟(空気銃)。私は銃にひよって「わな」を専攻したところ、イタチやハクビシンしか獲れないクソゲーだったことが判明し落胆したのだが、一緒に講習を受けた農家さんから「いいエサ食っているハクビシンは旨い」と聞き、再び闘志を燃やす。ちなみに夫は第一種。ゴルゴ13に憧れているらしく、迷わず選んだ。

 夫の猟銃は、ガンマニア御用達アニメ『BLACK LAGOON』でもお馴染みベレッタ社製。さすがイタリア、無意味な場所に気合い入れまくっている彫刻がとにかく格好いい!

(弾は、一度に800発まで購入が可能です)

 自分の手で獲りたいのは、獣だけではない。2年前からはじめた家庭菜園。完全とまではいかなくとも、ある程度の自給自足は我々夫婦の共通した願望ではあったのだ。

(1坪の畑でも、大玉スイカが採れる! マーベラス!)

  しかし、猟友会のセンセイや、一緒に試験を受けた農家さんが口を揃えて言っていたのは、「秩父あたりのシカやイノシシは、放射線量が高くて喰えない」ということだ。奴らは山を越え川を渡りとんでもない距離を移動するので、線量の高いところから遠征してくるんだそうな。一度や二度の遊びならそれでもいいだろうが、そこでの狩猟肉が常食となると、さすがにキツイかもしれない。

 というわけで、移住という選択肢は常に我々夫婦の会話にちらついてはいた。 でもやっぱり、まだ今じゃない。あと一年、いや半年でいいから待ってくれ!

 しかし時の神様というのは、無情である。夫が履歴書を送った八丈島町役場の書類審査。合格通知の日は、数日後に迫っていた。

                            (続く)


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