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家族のゆがみを整えると、個人の問題が解決する!?【家族心理学と家族療法】

こんにちは、野口嘉則です。
今日は、【家族のゆがみを整えると、個人の問題が解決する】というテーマでお話をしていきます。

個人の問題って、実際いろいろな問題がありますよね。
子どもがひきこもりになったとか、対人恐怖症になったとか、あるいは妻がうつ病になったとか、夫がアルコール依存症になったとか。実は、そういう個人の問題の背景には家族のバランスのゆがみがあったりするんですね。

今回は家族心理学、家族療法の話をします。家族のだれかに問題が起きやすい家庭の特徴や、健康度の高い家族の作り方についてもお教えしますね。



<個人療法と家族療法>



心理学というのは、元々個人のこころを研究するところからはじまりました。その個人にアプローチする手法として、個人療法というものがいろいろ確立されていきました。ユング心理学やアドラー心理学もそうですし、精神分析や認知行動療法なんかもそうですね。

だけど、その個人へのアプローチだけでは解決できない問題もたくさん出てきたんです。そこで新たなアプローチとして登場したのが、家族全体を見て、家族にアプローチしていく【家族療法】なんです。

たとえば、ある家庭で子どもが不登校になった場合。
そういうときに、個人療法では、子どものこころにアプローチして子どもを変えていけないだろうかと考えます。あるいは、子どもを育ている母親にもカウンセリングをして母親のほうにも働きかけていく、といった方法をとったりもします。これを母子並行面接(母子並行カウンセリング)と言います。

ところが、それでは状況があまり変わらないといったケースもあります。そんなときは、家族療法の出番です。家族療法では、子どもに問題があるわけじゃないと考えます。母親の育て方の問題でもないと考えます。家族療法では、「家族全体のバランスにゆがみが生じていて、そのゆがみを表に出す役割をだれかが担わなければいけない。それを子どもがいま引き受けているんだ」っていうふうに考えるんですね。

なので、家族全体のバランスを整えれば、子どもはその役割から解放されるわけです。
そんな感じで家族全体にアプローチしていくことで、子どもの問題だったり、個人の問題だったりが解決していく。これが家族療法です。


<全体を見る>


家族療法では、家族全員に集まってもらう「家族へのカウンセリング」というものをします。こうすると、個々と面接しても見えてこない、家族全体の問題というのが見えてくるんです。

たとえば4人家族のメンバー1人1人と面談をするとします。そうすると、それぞれが、うちの家族はこんなことが問題なんですって語ります。だけど、全員からいろいろ話を聞き出したとしても、家族の本当の問題は見えてこないんです。なぜかというと、家族の中にいる家族メンバーには、家族の問題は見えないからなんです。

日本生まれ日本育ちの人が、海外に行って初めて日本という国の特徴に気づいたりすることってありますよね。つまり、中にいるとわからないけど、外から俯瞰して初めて見えることがある。家族全体のバランスがゆがんでるのか整ってるのか、家族1人1人と面接してもわからない。けれど、家族全体を外から見ることで、初めてわかってくることがある、ということです。

「全体は部分を足し合わせたものではない」といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。家族も同じで、単純に全員の話を足したものが家族のすべてではないんです。そんな考え方のもと、家族全体を見ていくのが家族心理学、家族療法ということになります。


<直接的因果論>


家族のメンバー個々では、全体を見ることがむずかしいという話をしましたが、そもそも僕たちは、全体を見ることが苦手です。なぜなら、「Aが原因でBが起きた」といった直線的な見方をついついしちゃうからです。
これを【直接的因果論】といいます。

わかりやすく例をあげてみましょう。

<例>
毎晩仕事終わりに居酒屋で飲んで帰ってくる夫と、それに対して小言を言う妻の場合

(直接的因果論)

夫の考え「妻が口うるさいから家でリラックスできない。だから飲んで帰るしかない。問題は口うるさい妻だ」
妻の考え「夫が毎晩飲んでくるから、言いたくもない苦言を言わなければならない。問題は毎晩飲んで帰ってくる夫だ」

このような直線的因果論でものごとを切りとっているかぎり、本質が見えないんです。そして、直線的因果論からのアプローチをした場合、結局らちが明かないことが多いんですね。

上記のケースで言うと、夫と妻っていうのは、お互いに影響し合ってるわけです。どちらか一方が原因ということではないんです。あえて言えば、どちらもが原因でありどちらもが結果であるとしか言いようがないんです。
ところがおたがいが、相手に原因があるという前提で会話をするので、会話をすればするほど問題がこじれてしまう、ということになりがちです。こういうのを、家族療法では悪循環とか偽解決(ぎかいけつ)と言ったりします。

そんなわけで、僕たちはものごとを直線的因果論で切り取って見てしまうクセがありますが、そのような見方を脱却して、全体を俯瞰する必要があるんです。


<健康度の高い家族の共通点>


それではここで、家族療法によって発見されたものの中から、ミニューチンという家族療法家が発見したものをお伝えしましょう。

もともと児童精神科医だった彼は、子どもの問題がおきた家族をたくさんサポートしていました。その中で彼は、健康な家族には健康な家族の共通点、そして問題が起きやすい家族には問題が起きやすい家族の共通点があるということに気づきました。

ミニューチンが気づいた健康な家族の共通点。それは【世代間境界】がしっかりあるということです。世代間境界とはつまり、親世代と子世代の間を分ける境界線のことです。この世代間境界がしっかりしていない家庭では、家族のだれかに問題が起きやすいということを彼は発見しました。


<世代間境界>


世代間境界とは、親世代と子世代の間の境界です。
具体的な例を挙げるとしたら、夫婦間だけで共有されて、子どもの耳にいれない情報がある、というのも世代間境界です。
たとえば、夫婦おたがいへの不満や家庭の事情。夫婦間で不満があるときにそれをぶつけ合うのはいいんですが、それを子どものいないときにするとか。あるいは、家計が厳しいという話や実家と揉めている話のような、子どもが聞かなくていい話は、親世代内でキープされている。つまり子どもの耳には入らないようになっているとしたら、これも健康な家族なんです。

あと、世代間境界にはこういうものもあります。家族の重要な決定事項は親がちゃんと決めている、というものです。たとえば子どもが、「友達みんな持ってるからゲームを買ってよ」と声を大にしてうったえたら、そのゲームを買ってもらえる、なんて場合ですね。これは、お金の使い道という重要なことにおいて、子どもがかなりの意思決定権を持っていることになります。これだと、世代間境界が壊れていると言えます。

実は、こんなふうに家族の中で民主的に決めるっていうのは、子どもにとってはすごい心理的負担がかかるんです。かと言って、親が親の意見を高圧的に子どもに押し付けるのも問題です。

親は子どもに対してやさしく接するに越したことはありませんし、子どもの意見にも耳をかたむけたらいいんです。だけど、意思決定は親の基準で親が行うことが大切です。

もちろん、家族で旅行するときの旅行先なんかは1人1票みたいに民主的に決めてもかまいません。一方、注意するのは、お金の使い道とか、家族の引っ越しとか、実家との問題とか、そういった重要なこと。これに子どもを巻き込んだり、意思決定権をシェアしたりしていると、これは世代間境界が壊れているということになっちゃいます。親は養う側、子どもは養われる側ですから、ここに当然、階層差がある必要があるんです。


<秩序の中の安心>


実際に、子どもがひきこもりになった家庭によく見られるのが、子どもに意思決定権を明け渡してきたという傾向です。

これは一例ですが、子どもが今日は魚を食べたくないって言うと、魚は翌日に延ばされるとか。そんなふうに、家族の食生活の根本である献立すらも、子どもの主張によって親が振りまわされたりする例があります。

子どもにとって、親が親としてちゃんと意思決定権を発揮してくれると、そこに「秩序」ができます。「枠組み」と言ってもいいです。この枠組みがあると、子どもは安心して甘えられ、さらには安心して反抗できるんです。そのプロセスによって、子どもの心はとっても健康的な成長発達をしやすいんですが、逆に、秩序のない家庭だと、子どもは安心して甘えられないんですね。

良質な秩序・階層が家族の中にない場合、子どもはやがてそれを外に求めるようになります。

暴走族に入る子の家庭は、放任的な家庭であるケースが多いです。放任的ときくと、子どもにとっては気楽な環境に聞こえるかもしれません。ところが、ここぞというところで叱ってくれる人がいない、いざというときにブレーキをかけてくれる存在がいないというのは、実は子どもにとってすごく不安な状態なわけです。そんな中で、暴走族にでも入るとものすごい明確な階層差がありますよね。トップには総長、その下には幹部、そして先輩後輩、といったかんじの階層差があります。そうすると、暴走族に入ることでその階層差に安心できるっていう構造ができあがるんです。

家庭の中に健全な階層がないと、不健全な階層でもいいから外に求めるようになっちゃうということですね。


<夫婦連合>


さて、世代間境界をひくためにとても重要なものがあります。
それは【夫婦連合】です。

夫婦連合というのは、夫と妻という対等な関係による「横の連合」です。これが中心にある家族は、健康な家族です。逆に言うと、母と子による母子連合、あるいは父と子による父子連合、こういう「縦の連合」が強いと、世代間境界が壊れている、不健康な家族ということになって実際に問題が起きやすいんです。

夫婦連合についてよくわかる例をみてみましょう。

<出来事>
仕事から帰宅した父親がめちゃくちゃ不機嫌である。
「飯がまずいな!」「お前たちどうせ勉強なんてやってないんだろう!」とさんざん家族に八つ当たりし、お風呂にむかった。

<夫婦連合が出来ていない例>
父親が部屋を出ると、母親は子どもに「お父さんったらどうしようもないね、八つ当たりなんかして」と話しかけた。その結果、母子連合が強化された。

<夫婦連合が出来ている例>
父親が部屋を出ると、母親は子どもに「お父さん仕事がんばってストレス溜めてるから、つい八つ当たりしちゃうんだと思うよ」と話しかけた。そして、後で2人きりのときに夫に文句を言った。こうして夫婦連合が保たれた。

夫婦連合がちゃんとできてる場合、子どもの前では、妻は夫の弁護をします。夫婦間の争いに子どもを巻き込まず、後で2人きりのときに思いっきり夫に文句を言えばいいんです。

ほかにも、下のケースのような嫁と姑の対立問題でも、夫婦連合ができてるといいんです。

<出来事>
仕事から帰ってきた夫に、妻がこんなことを言った。
「さっき、あなたのお母さんから電話があったわ。うちの太郎のことでいろいろ言ってきたの。塾に行かせたほうがいいんじゃないかとか、家庭教師もいいんじゃないかとか、もうイヤになっちゃう。あなたのお母さんの心配性は病的だよね」

<夫婦連合ができていない例>
夫は「おふくろだって孫がかわいいから言ってるんだろう、悪口言うなよ」と妻に言った。

<夫婦連合ができている例>
夫は「そりゃ嫌な思いをしたな。よし、一緒におふくろ対策考えようか」と妻に言った。

夫婦連合ができていないパターンでは、夫が自分の母親と母子連合を作ってしまっています。そうすると、自然と世代間境界が壊れ、夫婦連合も壊れてしまうということになります。

夫は自分の母親と母子連合を組む。そうすると妻は自分の子どもを巻き込んで、子どもたちと母子連合を組む。
鶏と卵のような話で、どっちが先とも言えません。
妻が子どもたちと母子連合を組んでるから、夫が自分の母親と母子連合を組んじゃう。

とにかく、そんなふうに母子連合 VS 母子連合になると、家族のメンバーに様々な問題が生じるようになるわけです。


<去勢体験>


この夫婦連合は、子どものこころの発達上もすごく大事だっていうことがわかっています。

息子っていうのは、ある年頃になると、「僕はお母さんにとって一番の存在になりたい」って無意識に思うようになるんですね。

そんなとき夫婦連合がしっかりしていると、子どもはがっかりする羽目になります。
「お母さんのパートナーは僕じゃないんだ、お母さんにとってのナンバーワンはお父さんなんだ」とがっかりできるんですね。これを去勢体験と言いますが、実はこれは心理的に大人になるために必要な通過儀礼なんです。ここでちゃんとがっかりすることで、この子は心理的に成長自立していけるんですね。
お父さんにはかなわないっていうふうに思ったときに、父親を尊敬するわけです。そして、その尊敬する父親から男性性を取りいれて、大人の男性にむかって成長していけます

ところが、「お父さんには期待していないの、私が期待するのは息子のあなただけよ」みたいな、強烈な母子連合を作っている母親だと、もう子どもは父親を尊敬する機会がないですよね。
結果、大人の男性から男性性を取りいれ、自立していく機会を失ってしまいますので、いわゆるマザコンのような、自立できない大人になるわけです。


<夫婦連合の作り方>


このしっかりした夫婦連合を作るには、どうすればいいと思いますか?
それは、夫婦がおたがいに父親と母親の役割だけじゃなく、夫と妻の役割で接すること、です。お金を稼いで、家事をやって、子どもを育てるという、親ととしての役割だけでの結びつきは、脆いですし長続きしません。

夫婦って、平均的には子どもが巣立った後、さらに30~40年ぐらい一緒にいるわけです。だけど、父親と母親の役割だけでつながっていたら、子育て後に2人を結びつけるものがなくなっちゃいますよね。なので、夫婦でデートをしたり、映画見に行ったりとかできるといいですね。あるいは、おたがいの趣味の話に耳を傾け合ったり、おたがいの悩み事の相談に乗ったりなんていうのもいいですよね。そういったパートナーとしての役割をいっぱい育んでいくこと、が大切です。

ところで、夫婦連合という言葉を使いましたが、夫婦がそろっていなくても大丈夫です。シングルマザーの方やシングルファザーの方でも、しっかり世代間境界を保って、重要な意思決定は親が行う、ということをやれたら大丈夫なんです。

また離婚をされた方は、できれば別れた相手の悪口を子どもに聞かせないほうが好ましいんですね。いろんな事情があっていろんな思いがあると思いますが、それは子どもにあえて聞かせえなくて済むんであれば、聞かせないに越したことはないです。余計な情報をいれなければ、子どもは勝手に親を理想化して尊敬したりします。そうすることで、子どもは父親をまたは母親をモデルにして心理的に成長していけるんです。


<まとめ>


さて、子育てをされている方の中には、今日の記事を読まれて、「なんだかズキッとしたな~」「私はできてないなー」と思った方もいらっしゃるかもしれませんね。どうかご自分を責めないでくださいね。
完璧な親になんて、誰もなることはできませんし、知っていてもできないことだってあるのが人間です。
なのでご自分を責めないでください。
ぜひこの機会に、これからできることは何かを考えていただけるとありがたいです。

<まとめ>

・個人の問題=家族のゆがみを表に出す役割、という考え方
・家族カウンセリングで全体の問題を発見する
・直接的因果論を脱して、全体を俯瞰してみる
・健康度の高い家族の共通点は世代間境界
・夫婦連合が出来ていると世代間境界もできる
・夫婦がそろっていなくても世代間境界は作れる

僕のnoteでは、読めば読むほど「自己肯定感が高まり」「人間理解が深まり」「人間力が養われる」コンテンツをお届けしています。

これからも確実に自己実現へ向けて進みたい方、ぜひフォローをしてたくさんのヒントを受け取ってくださいね!

次回は、深層心理学(特にユング心理学)について紹介しながら、【人生の謎解き】になるような話をする予定です。人生の中で大きな悩みや問題にぶつかることがありますが、その悩みや問題には深い意味があり、そこから恩恵を受け取ることができるんです。そんなこともお話ししたいと思います。
ぜひ、お楽しみに!


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