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ジョン・ハッティ『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』(第5章)家庭要因の影響【349】

 ジョン・ハッティ『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』を読んで学んだことを記録しています。私たちが教育について経験上無意識に価値を置いてしまっているけれど、再考する必要があるもの、逆にこれからの社会の変化に合わせて考えていく必要があるものなど、新たな視点を提供してくれます。この書籍から学んだことや新しく発見したことについて書いていますが、内容について興味が湧いた方はぜひこの書籍を読んでいただきたいと思います。

【第5章 家庭要因の影響】

 保護者の収入、学歴、職業は、学習者の学力に対して顕著な影響があると考えられています。これはそれらが高いから子どもの学力が高くなるというよりも、子どもへの教育的関心が高いことが背景として考えられます。

「3000万語の格差」研究

社会経済的資本が学力に与える影響

就学前4年間で触れる語彙の延べ数は、低SESグループの児童は平均して250万語、高SESグループの児童は450万語であった

Hart & Risley(1995)

※過去の学びとのリンク
ハートとリズリーの研究を元にして、耳鼻科医のダナサスキンドは子どもへの話しかけの重要性について述べた

 これは学校の要因だけが子どもたちの学力に影響するのではなく、就学前の関わりの重要性を示しています。しかし、この早期教育が見誤った方向性で進んでしまった場合は、むしろマイナスの影響があるのではないかと考えられます。

経済格差が直接的な因果関係にはならない

 生活保護の受給の有無による格差はほとんどないという結果が書かれていましたが、これは国の福祉が機能していることが重要だとされていました。そのため、ひとり親家庭や貧困家庭への優遇措置は効果があるという結論が書かれていました。

 経済的に厳しい状況にある家庭は、子どもが学習に専念できる環境でないことが多いです。保護者も子どもが学習に気持ちを向けられるようにしたいと思っていても、長時間労働などでそこまで手がまわらないという状況もあるようです。そういった場合は、地域のコミュニティなどの機能も重要になってくると考えられます。

子どもの人数の影響

 この著書で書かれていたこととして興味深かったのは、「一人っ子は学力と知能が高い傾向がある」ということでした。一人っ子の場合、「積極的に性格特性を示し、良好な親子関係を築いている」とそうです。
 子どもの多い家庭に比べて、「動機づけが高く親子関係がより良好」であることが特徴とされていました。学習という観点で見れば、保護者からの関心が向けられやすいこと(その逆でプレッシャーを感じることもあると考えられます)や、自分の空間を作りやすいことが要因としてあるのではないでしょうか。

家庭環境

 先ほど、子どもの学力が職業や学歴といった保護者の社会経済的な地位の関係があると書いてあったことをまとめましたが、それよりも家庭の社会心理的影響や知的な刺激とより密接に関係(Iverson & Walberg 1982)しているということが分かっています。

 私の教員や日頃のレッスンでの子どもたちの様子を見ていると、保護者が社会経済的地位が高いとしても、過干渉であったり学習の成果で子どもの人間性まで評価してしまうような家庭の子どもは学習に対してネガティブな姿勢を見せることが多いように感じます。つまり、社会経済的地位が阻害要因にもなるということです。それとは逆に、保護者が子どもの健全な発達や自立を願い、愛情をたくさん受けてきた子たちは学びに前向きで成長意欲があるように感じました。

育児環境評価尺度

・母親の感情的・言語的反応
・拘束及び虐待の回避
・物理的・時間的環境の構成
・適切な遊具の用意
・母親としての子どもとの養育的な関わり
・日課の多様性
 →学力との相関が高かったのは、
「母親としての子どもとの養育的な関わり」
「日課の多様性」
「適切な遊具の用意」


テレビ視聴は1週間に10時間を超えると負の効果
1日に2〜3時間であれば読解能力はやや高くなるが、時間がさらに増えるとマイナス

Gottfried(1984)の研究より

 スクリーンタイムや家に置くおもちゃなど、家庭環境については悩む保護者も多いのではないかと思います。特にゲームやデジタルデバイスなどに関しては、完全に0にして断たせてしまうのではなく、バランスが大切だと感じています。
 本当はゲームやデジタルがない環境で育って欲しいという願いはありますが、現実的にそれを断つのが難しい場合は、そういった時間はあるものの、それをコントロールする力も重要だと思いました。

学習への保護者の関与

 子どもの学習への関わりについても、悩む保護者は多いように思います。私自身も子どもの学習にどこまで関わるのかは悩んでいますが、声かけはするものの、最終的な決定権は子どもにあるように心がけています(もちろん、あなたに任せるという言葉の裏にある見えないプレッシャーを子どもが感じている可能性もありますが)。
 ただしこの本では、「期待や関わりに効果はあるが、監視的な方法は『負』」だとされています。子どもの勉強が不安で監視してしまうような関わりになってしまうと、それは子どもの自立を阻むことになるということを示していると考えられます。

 保護者が強い期待をかけることが子どもの学力に対して影響を与える最も重要な要因であるが、宿題を行うことや、テレビ視聴時間、友達と遊ぶ時間をチェックするといった、保護者による監視は、思春期の学習者の希望や意欲に対して負の影響を与える

Hong & Ho(2005)の研究より

 保護者が自分の子どもの学習の成果に関心をもち、かける期待が高く、またよい成績をとってほしいという願いが強いほど、子ども自身も学習の成果に対する期待が高まり、結果的には子どもの学力を高める
→高い期待は、親子間の良好なコミュニケーションと子ども自身が自分の学習をコントロールする力によって支えられている

Fan & Chen, 2001の研究より

 ここに書かれている通り、期待は子どもに良い影響を与えるものの、過度な期待がプレッシャーになったり、保護者の不安によって子どもを監視することはかえって逆効果になるということです。保護者としては、子どもに関心を持ちつつ、保護者自身が自立した大人として、子どもの自立を促すために長期的にどのような関わりが大切なのかは常に振り返られるような環境が必要だと感じました。

保護者の最も効果的な関わり方

保護者が期待をかけることは何よりも影響が大きい
(学校活動への参加より大きい)
宿題の点検、家庭のルール(これは0)、学校行事への参加を上回る

Jeynes(2005,2007)の研究より

能動的な保護者の関与はより効果的
音読を聞くことよりも、さらに読み方のこつを教えることは効果的、読み聞かせよりも効果が高い

Senechal,2006の研究より

 以上のことからも、保護者が子どもの成長を願い、その気持ちを子どもが受け取れるような関わりが必要なのだと思います。大人側の不安で管理に走ってしまったり、宿題の管理にばかり目が行くと、むしろ逆効果であることを保護者としては理解する必要があります。また、何よりもこういった情報を保護者にも伝えられるような機会が大切なのです。
 最後に、家庭訪問も子どもの虐待の早期発見だけでなく、学力を高めることにもつながっているとも書かれていました。

まとめ

 学力を高める要因として、家庭に関するものには保護者の「願望と期待」が最も学力と関連が強いということが分かりました。
 つまり、家庭の経済的な状況や保護者の学歴が直接影響するわけではなく、家庭における保護者の信念や期待こそが、子どもが学力を身につける上で重要だということになります。むしろ、高学歴や高収入の保護者であっても、子どもの自立を阻むようなアプローチにならないように注意する必要があります。

また、家庭と学校がつながる必要性についても述べられていました。家庭と学校の共通理解が進むことで、「子どもは家庭と学校の2つの異なる世界を行き来する必要がなくな」ります。そうすることで、学校と家庭で言われることが異なることで混乱することを防ぐことができます。

管理ではなく、興味を示し関わる姿勢を

 第5章で最も重要なのはこれだと思いました。関わり方というのは、あまり気にかけられていないようですが、声の掛け方や子どもを尊重した関わりというのは最も大切です。「宿題や学校の課題に興味を示すこと、宿題を手伝うこと、学校の勉強の進み具合を話し合う」などが本書では書かれていました。これらの共通点は、学習の中心は子どもであるということです。勉強や宿題をさせるのではなく、子どもがしている姿勢に寄り添ったり、興味を持つということです。

 「子どもがしないからさせる」から始めると、自分から取り組むことの大切さに気づかないまま大人になってしまいます。それよりも「やってみようかな」と思った時に、達成感を持てるような声掛けや承認がまず必要であるという共通理解も必要になると思いました。

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