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Column #5 お酒から(少し)遠く離れて

初出掲載日 2018.05.27

この頃はまたお酒を控えていて、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。「また」というのは、これまでも何度か期間を設けてやめているから。でもツアー最終日とか、記念日とか、何かと理由を付けては手を出していて、そこからは飲む日がある程度続き、またやめたりする。その度に思う。「今度こそ一生やめられるだろうか」

どうしてお酒をたびたび遠ざけたくなるのか。少し嗜む程度なら何の問題もないのだけど、飲み会や打ち上げになるとやはり多めに飲んでしまって、そうなったときの翌日以降の身体への負担が、年々増すようになってきた。さらに、それに対する落ち込みみたいなものにも、だんだん恐怖を覚えるようになってしまった。

単純にアルコールに対する分解酵素が減ってしまったのか。とにかく以前よりも、身体のいろんなところが異常を来たすようになった。致命的なのは喉にもかなり影響するということ。だからここ数年は、ライブ前日は絶対に飲まなかったし、ナレーションのスケジュールが入ると、その前の数日間はやっぱり控えていた。

ちなみになんと日本人は、時代とともに酒に弱い体質に変異していっているとのこと。そういう意味では、いちおう時流に乗っているのかもしれない。変異の始まりは100世代前にさかのぼるというから、非常に長いタームではあるけれど。

体調面のリスクは当然あるものとして今まで親しんでいたお酒だけど、わざわざ後からこんなに辛い思いをしなくてもいいのではと、思うようになった。飲み会の翌日でも、朝からなんともないという人が心底うらやましかったが、そもそも飲まなければ朝からなんともないのだ。「あ、それでいいじゃん」と思うようになった。

先日も飲み会があったがノンアルで参加。寝るのは少し遅くなったけど、翌日はいつもと変わらない朝だった。先月からようやく朝型に切り替えられるようになったこともあり、午前中の日課にしているピアノや歌の練習もいつも通りこなせた。これが以前だと、文字通りグロッキーな半日だったと思う。

ただ皮肉なことに、フリーになって人と会ったり食事をする機会は増えた。だから「今度飲みにいきましょう」の「こんど貯金」が、結構たまってしまっている。ランチやスイーツ、はたまた「夜カフェしませんか」に切り替えればいいのだけれど、なかなか切り出すタイミングが難しい。

本当にいつも思うのが、自分の首元のシャツの内側なんかに、目に見えないバケツがあればいいのにと思う。「乾杯!」のあと、ビールをそこに流し込む。そして「プハーッ」と言う。やっぱりジンジャーエールだと「プハーッ」とはならない。

アル中もしくはそれに近い人のための断酒についての本やサイトならいくらでもあるが、ただ自然に飲まない生活に変えていく方法って、あまり目にしない。強いて言えば、最近の若い人にも多い、飲み会自体が嫌いという人の話がよくあるけど、場が嫌いなわけでは全くない。

では、そういう著名人っているのだろうか。いた。あの高倉健さんだ。学生時代に酒にまつわる苦い経験をして、それから亡くなるまで60年ほどのあいだ、きっぱりやめていたそうだ。「不器用ですから」と同じくらい、「自分、飲みませんので」などのセリフが目に浮かぶ。

できるだけ長いあいだミュージシャンでいたいし、自分は自分が守るしかない。「飲めない」じゃなくて「飲まない」の道を今日も行く。