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ロフトバードがいなくても【コロナ7日目・最終日】


・9/26 10時。少し開けておいた窓からの心地よい風と気温に、もう何度目かわからないくらいの二度寝を繰り返し起床。自宅療養も最終日だ。

・初日に母親が買ってきてくれた冷凍ドリアと食パンを朝食とし、薬も忘れずに飲む。

・昼ごろ、お医者さんからの最終確認の電話がかかってくる。咳が多少残ることと、味覚(もしかしたら嗅覚かも)に少し違和感があることだけ伝え、明日からの外出の許可を得る。そして職場へ「9月28日から復帰します!」とメールを送る。

・あ、ゼルダのスカウォのラスボスだけ倒していない。せっかく時間があるし、とswitchの電源を入れる。ラスボスはやっぱり強くて倒し方が全くわからず、何回かゲームオーバーになった。あとから調べたら正攻法?があったようだけど、それには気付かず、最終的には「一定時間全くダメージを受けなくなる」という無敵の薬(本当に無敵すぎてズルすぎなのでは?とは思った)をドーピングしてゴリ押しで勝利した。それでもハートが残りひとつという、かなりの辛勝。

・ラスボスを倒してしまえばあとはエンディングムービーやエンドロールを見るだけの時間だ。リンクがとにかくかっこいい。ゼルダはとにかく可愛い。胸が熱くなるストーリーに鼻息荒くひたすらスクショを撮っていく。こんにちは、ハイラルの専属カメラマンです。

・ラストシーン、ゼルダの問いかけにリンクが表情だけで答えるのがとても良い。こういう、具体的な返答はプレイヤー側の想像に委ねるスタイルはとても好きだ。

・よく晴れた一日だった。窓の外にはさっきゲーム内で見たような青空が広がっている。レースカーテンを開けて、窓の真下に枕を置いて、なるべく空だけしか見えない位置に調整し、その青さを眺めながら床に寝転ぶ。私も空に浮かんでいるみたい。心地よさにまぶたを閉じる。

・小学生のとき、近所のマンションの7階に引っ越しをした。少し経ったころ、休みの日に父親が一人で、窓を開けて畳の部屋に布団も敷かずに寝転んでいた。「空が見えて気持ちいいよ」と。私もその隣に横になる。窓枠からは冬晴れの雲一つない青空以外の何も見えない。それまではマンションの1階に住んでいた私たちにとって、窓から空以外が見えないというのは本当に衝撃的だった。初めての景色に、まるで空を飛んでいるようで、そのまま気持ちよくなって昼寝をした。なんてことない出来事だけど、なぜか幸せの象徴と言わんばかりに深く脳裏に焼き付いていて、たまにこの感覚をもう一度味わいたくなる。

・その後も、最終日だからとだらだらと過ごし、さてそろそろ夕飯のことを考えようと思ったとき、会社からメールが届いた。

・「仕事復帰を9月30日にしてほしい」

・…!?

・どうやら、お医者様から外出許可はもらったものの、会社の規定で発症から10日間は会社に来られないことになっているらしい。なんてこったい。こちらは準備万端で、ゲームもクリアして、その余韻に浸りながら気持ち新たに頑張ろうと勇者ばりに覚悟を決めていたというのに。

・一気に拍子抜けしてしまった私は、夕飯を考える気力も起きず、カップ焼きそばと冷凍フライドポテトで夕食とした。

・やっぱり現実はゲームシナリオみたいになかなか綺麗にはいかない。ある日突然陽性をあっさり言い渡されたり、熱があるのに薬局の外に30分放置されたり、賞味期限切れのカップ麺を食べたり、喉が痛くない首のポジションを執念深く探ってみたり、空の浴槽で睡眠をとったり。現実世界を生きるのって泥臭い。そしてさっきラスボスを脳筋とお薬でどうにか倒したみたいに、私はその泥の中をゴリ押しで進んでいくしかないみたい。そんなことを考えながら、油がしっかり切れていないベトベトのフライドポテトにケチャップをつける。

・こうして私は7日間の自宅療養を終え、そして、ひとつ歳を取ったのだった。



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