軌跡の果てに - GLAYの25周年記念ベストアルバム『REVIEW II ~BEST OF GLAY~』のレビュー

7,000字超あり、投稿してきた文章のなかでいちばん長いですね。GLAYについてはいくらでも書けるし、このバンドの話をしているときがいちばんたのしいです。
音楽文掲載日:2020/3/27


GLAYのメジャーデビューを25周年を記念したベストアルバム『REVIEW II ~BEST OF GLAY~』がリリースされたので、つい発売日に買って聴いてしまう。アルバムぜんぶ持っているというのに。

このバンドによって発表されたベストアルバムは1997年の『REVIEW』、2000年の『DRIVE』、2009年の『THE GREAT VACATION』につづいてこの2020年の『REVIEW II』にてじつに4度目になって、そのおおさにすこし笑ってしまうのだけど、同時に積み重ねてきたその歴史の長さや重さも感じて、いささかくらくらしてしまう。
まず25年間活動をつづけられることが並大抵のことではないと思うし、彼らの歩みをふりかえるためのベスト盤には、そのキャリアへの勲章のような側面もあるのではないかと思う。

ベストアルバムというのいわゆる編集盤に数えられていて、よくいえば選りすぐり、わるくいえば寄せあつめ、基本的に収録されるのは既発曲が多いため、ミュージシャン側が意図しないリリースもあるなんて話も聞く。なので、ちょっとしたダーティなイメージもつきまとうし、オリジナルアルバムとはちがって音楽を評価する際の俎上に上ることは少ない印象がある。
でも、いい面ももちろんあると思う、なんといってもベストと銘打っているが故にミュージシャンの代表的な曲が並んでいるから、名詞がわりの入門編として機能することはもちろんだし、このGLAYによる4度目のベスト盤はさすがに回数を重ねているだけあって、ちゃんとオリジナルアルバムを追いかけているファンが聴いてもとてもたのしい工夫が凝らされていた。

前提として、この『REVIEW II』は4枚組であり(4枚組のCDってなかなか買う機会ないよね)、GLAYのメンバーの4人、TERU、TAKURO、HISASHI、JIROがそれぞれのディスクの選曲を担当しているのだけど、この時点でファンとしては興味をそそられてしまう。
実際に聴いてみるとディスクごとにコンセプトがすごくはっきり分かれていることがわかるし、大技ばかりが炸裂しがちなベスト盤のイメージとは少し趣が異なっていて、各メンバーの個性やバンドの作風の幅がしっかりと感じられてとてもおもしろかった。なのでここでは、それぞれのディスクについて1枚ずつ綴ってみたいと思う。

 
■Disc1 TERU SELECT

青色のDisc1はボーカルのTERUによるセレクト、コンセプトは"函館を散歩しながら聴きたいGLAY"というもの。

GLAYはメンバー4人とも北海道は函館の出身なのだけれど、このバンドの曲において函館は《街》としてたびたび表現されてきたし、歌詞におけるキーワードのひとつになっているように思う。このディスクでは函館の街がふんだんにピックアップされているので、そんな歌詞たちを引用してみたい。

大好きな街を 離れ暮して
今ではここが 気に入っているから

「COLORS」

誰かの錆びたあのイノセンス
木もれ日に揺れている
生まれた街の片隅に
遠い日の忘れ物

 「グロリアス」

あの夏から随分遠くに来たね
巡り合う奇跡を道標にして
あの心と心が通った場所は今も胸にある

「あの夏から一番遠い場所」

いつか二人で行きたいね 雪が積もる頃に
生まれた街のあの白さを、あなたにも見せたい

「Winter,again」

レンガを敷いた坂道にある海沿いの店のピアノが いつも
心癒してくれた… 今も聴けるかな? 

「カナリヤ」

こんな風にGLAYにとって函館は、少年時代の原風景として、郷愁を誘うものとして、そして過去の象徴としてずっと機能してきた。
このTERU盤ではメンバーたちが上京するまで過ごした函館への想いが存分に感じられて、おのずと収録曲の曲調もロックバンドとしての激しさや華やかさとはすこし距離をおいた、優しくて穏やかな質感のものがそろっている。過度に明るくも暗くもない素朴なにおいのする曲たちを聴くにつれて、訪れたことのない函館の海の青さや冬の白さが、ちょっと想像できるような気がする。

それと、このディスクにはTERUが作詞作曲をつとめた2曲、「COLORS」と「はじまりのうた」が収録されているという点にもふれておきたい。
GLAYのメインコンポーザーはギターのTAKUROで、大半の曲の作詞作曲を担っているのだけど、このバンドは長いキャリアのなかで少しずつ、TERUやHISASHIやJIROがつくる曲も増やしていった。
TAKUROの曲でヒットを飛ばすかたわら、この3人が手がけた曲はシングルのカップリング曲や、アルバムのなかの1曲を担っていき、デビューから20年ちかく経つころにはTAKURO以外の3人の曲がシングル曲を担当するようにまでなる。そして2017年にリリースされた14枚目のアルバム『SUMMERDELICS』ではついに4人が均等に曲を持ちよるようになっていった(このアルバムがほんと万華鏡みたいにカラフルでたのしいんだ)、このようにGLAYの歴史にはこのTAKURO以外の3人のソングライティングにおける成長物語のような隠れた側面がある。
そのなかでTERUのつくる曲の特徴はというと、素直さや爽やかさやまっすぐさが挙げられるだろうか、それは僕がテレビやラジオやライブのMCで観て聴いて感じてきたTERUの人柄をそのまま表しているかのようで、彼の曲はGLAYのディスコグラフィのなかでもひときわ無垢でストレートな光を放っている。

ねえ また、涙が溢れてる
雲が、また、流れ流れてる
時を刻む優しい鐘の音が、街中に響いてる

「はじまりのうた」

このDisc1ではそんなTERUが選んだ、故郷である函館への想いが、あたたかくつまっている。そんな印象を受けた。

 
■Disc2 TAKURO SELECT

赤色のDisc2はギターのTAKUROによるセレクト、コンセプトは"ザ・ベスト・オブ・GLAY"というもの。

このTAKURO盤はまさにこの『REVIEW II』のなかでも文句なしの王道的ベスト盤として、華やかなGLAY像をこの1枚でしっかりと担保している。
ここで聴けるのは90年代後半にヒットチャート上で大暴れしていた《あの頃のGLAY》の乱れうち。もちろん「HOWEVER」も「BELOVED」も「誘惑」も「SOUL LOVE」も「口唇」も「彼女の"Modern…"」ちゃんと入っていて、個人的にはこれこそがGLAYだよねというような圧倒的な安心感を感じる。もちろんこれだけがこのバンドの魅力じゃないってことはわかっているのだけど、でもやっぱりこれがGLAYの代表スタメンなんだよと、つい主張したくなる。

だけど、遠い過去を振り返るだけじゃなくて、冒頭の新曲2曲で最新のGLAYをしっかりと提示しているのもまたこのバンドの舵をずっと取ってきたTAKUROが選ぶベスト盤らしくて、いいなと思う。

1曲目の新曲「Into the Wild」は音像からして新しくて、ベースが曲を牽引していくさま、なんらかの怪しい笛のような音色がループするさま、そしてボーカルにオートチューン(声がケロケロするあれのことです)をかけているさまは、まるで海外の音を意識しているかのようでうれしい驚きがあったし、ベスト盤にてこのうえなく最新のモードを提示することに成功していると思った。
2曲目の多国籍ボーイズグループPENTAGONとの共作「I'm loving you」はなんとラテン調でこちらも新しい。このバンドが他のミュージシャンとコラボレーションをするときは、過去に氷室京介やEXILEとやったときもそうだったけれど、いわゆるGLAYっぽい曲は持ちよらず、相手と調和がはかれそうな曲をつくっていくようなところがあり、このひとたちはつくづく真摯で真面目だなと思う。

そんな新曲のあとには、GLAYをとても大きなバンドにさせた代表曲がずらっとならんでいてとても豪華。それこそ20年以上(そんなに経つのか……)聴いてきた曲たちばかりが収められているのだけど、やっぱりすごくいいんだよなと再認識させてくれるのもベスト盤のもつ役割なのかもしれないなと思う、なんたって、TAKUROがあらためて薦めてくれているわけなんだから。

それにこのDisc2でうれしいのは、過去の代表曲たちにリマスタリングのみならず、リミックスも施されているバージョンが収録されているというところ。
ベストアルバムにて仕上げの最終行程であるマスタリングがふたたび施されている(リマスタリング)のはよくあることなんだけど、作品の出来映えを大きく左右するミックスがふたたび施されている(リミックス)曲が入っているのはけっこう珍しい。レコーディングされたボーカル、ギター、ベース、ドラム、その他いろいろの各トラックの音量や左右の配置やエフェクト(音に対するお化粧みたいなもの)の種類やかけ方を決定するミックスをやり直ししていることで、20年以上聴いてきたメロディや演奏が耳に染みついている曲たちの表情がすこし変わっていて、これは聴くのがすごくたのしかった。
それに同時に、細かいちがいに気づけるほど、ほんとにこのDisc2に収められている曲たちを僕は20年以上もずっと聴いてきたんだな、という事実に勝手にじーんとなってしまう。
TAKUROがつくってきたこのGLAYを代表する曲たちに対しては"人生に寄りそってくれた"なんて大げさなことも、云ってしまってもいいのかもしれないなって、このディスクを聴いてそう思った。

華やかな街を通り抜け路地裏の片隅で
したたかに産まれ生きてく 子猫の様に
ビルの風 欲望の渦 踊りながら すり抜けてゆくよ
口笛を吹きながら

「a Boy ~ずっと忘れない~」

函館からでてきた若者たちが東京で鳴らした音は、純粋さと背伸びしている感じが入り混じりながら歌われた愛や人生は、華やかだけどまっすぐだった。そんなことをこのディスクを聴いていて思った。

 
■Disc3 HISASHI SELECT

緑色のDisc3はギターのHISASHIによるセレクト、コンセプトは"STUDIO LIVE inspired by HOTEL GLAY ギター爆盛ミックス!"というもの。

このHISASHI盤は2019年から2020年にかけて開催された、15枚目のアルバム『NO DEMOCRACY』のリリースツアー『HOTEL GLAY THE SUITE ROOM』(そういうホテルが、あるんです……)にて披露された曲たちをベースに、スタジオでのライブ録音したという形式で、最新のGLAYのライブをパッケージしたような内容になっている。
「VERB」や「FATSOUNDS」や「Runaway Runaway」みたいにライブで映える激しい曲がかっこいいのはもちろんだし、「逢いたい気持ち」や「LET ME BE」や「笑顔の多い日ばかりじゃない」といった聴かせる曲も音源よりもより表情がゆたかでとてもいい。

それにしてもベスト盤にまるまるスタジオでのライブ録音を収録するというのが、GLAYのトリックスター的立ち位置にいるHISASHIらしいというか、ふつうじゃなさにちょっと笑ってしまうのだけれど、ツアー中の仕上がっている状態で帯同するサポートメンバーとともに一発録りされたであろうこのディスクはメンバーの歌唱力や演奏力がふんだんに感じられて、このディスクもおいしいなと思う。

GLAYにはTAKUROとHISASHIのふたりのギタリストがいる。一般的な分け方をするとTAKUROが伴奏中心のリズムギターで、HISASHIがソロを取るリードギターとなるだろうか。もちろんその役割が交差することもしばしばあるのだけど、基本的には作詞作曲を担うことの多いTAKUROがコードを支えて、そのうえでHISASHIが存分に遊ぶ、というのがGLAYにおける2本のギターの棲み分けになっている。
そして、このひとはいったいどんなギタリストなのかとあらためてこのDisc3を聴きながら考えてみると、なんだろう、曲にたいしてひっかき傷をつけるかのようなアプローチでアクセントを残しまくっていることに気がつく。パンクでサイバーでナードでギークなHISASHIのギターは、きれいで実直なTAKUROの曲にわざとトゲトゲとしたインパクトをのこす。そのバンド内の音楽的異端児がうみだす違和感は強烈なフックになってGLAYをお行儀のいいバンドではなくしていったように思う。ロックチューンはHISASHIのギターでさらに激しく、バラードはHISASHIのギターでありきたりさから脱却していった。
ちなみに、このディスクに収められた彼の書く曲の歌詞は、そのギターの雰囲気にちかいものがあっておもしろいので引用してみる。

タイムラインを埋め尽くせ
出所の甘いソースで
出会いと別れもつなぐサービス
涙の文字舌出しながら

「黒く塗れ!」

人を愛する数だけ 盗まれた優しさ
無情な流行病 奥歯を噛み砕く

「My name is DATURA」

イカれた眼に GEEKに魅惑のGAME tonight
シビれた手に HIPにNERDなWORLD come on

「everKrack」

最初は綺麗なソロを取っていたHISASHIのギターがどんどん無軌道に個性を獲得していくのもGLAYに潜む隠れた物語だし、どんどん曲をつくり言葉であそびシングル曲を担うようになっていったのもGLAYに潜む隠れた物語だと思う。
そんなバンドの飛道具的存在であるHISASHIのキャラクターが、曲や詞やギターを通してこのDisc3ではふんだんに感じられる。

……それにしてもHISASHIさん、"ギター爆盛ミックス!"ってじぶんでも云ってるけど、ギターの音量、大きすぎませんか……? とくに左の、あなたのギターが(最高)。

 
■Disc4 JIRO SELECT  

黄色のDisc4はベースのJIROによるセレクト、コンセプトは"この選曲でツアーを行いたい"というもの。

GLAYにまつわるインタビュー等を読んでいると、JIROがこのバンドにて判断を下す役割にあるというか、客観的な目線をいちばん持ちあわせているポジションにいることがわかるし、近年ではライブのセットリストをおもに決めているのがこのひとであるということがよく語られている。

そんなJIROが選んだこのDisc4のトラックリストを目にしたときは、その選曲にちょっと驚いてしまった。えーこうなるんだおもしろいな、とても個性的だし意外性もある。
先の3人のメンバーから少しおくれてGLAYに加入した、オルタナティヴロックが好きなJIROは、HISASHIとはまたちがった意味でバンド内の異端児的なところがあると思う。the pillowsの山中さわおやストレイテナーのナカヤマシンペイとTHE PREDETORSを結成したJIROは、GLAYの出自であるいわゆるヴィジュアル系的なくくりからはバンド内でいちばん遠いところにいて(すごい髪型をしていたときもあったけどね)、GLAYに対して客観的な視点をもたらしているように思うのだけど、そんな立ち位置が選曲にすごく表れているようでおもしろかった。

どんなディスクになっているのかというと、収められた曲たちはGLAYでイメージされがちなロックチューンでもバラードでもない、ミドルテンポの曲がおおい。それはGLAYの王道をまとめたTAKURO盤とは対をなしているようで、優しさよりも華やかさよりも激しさよりもなんだろうか、内省と苦悩もあるんだけどでも暗すぎるわけじゃなくて、しみじみとしている。

通り雨 疲れきった人の波 もまれてく
それぞれの家に帰る人たちの 暮らしの光

「lifetime」

このDisc4には、雰囲気を伝えるために歌詞を引用した前述の「lifetime」を含めJIROが作曲した曲が5曲収録されている。彼の曲の特徴はというと、NIRVANAっぽいグランジさや、起伏があえて少ないUKロックの雰囲気を湛えている点が挙げられるだろうか。GLAYの曲のなかでも派手さをあえて避けるかのようなはっきりとしたカラーが彼の曲にもある。
このディスクには一般的にベストアルバムには入らなそうな曲も多いし、シングルだって3曲しか入っていない。でも、だからこそ逆にGLAYイメージからはちょっとはなれた、決して派手ではない一面に光があたっていて、いつも冷静そうなJIROから、こういうGLAYもあるんだよ、こういうGLAYもかっこいいんだよと、薦められているような気がする。そして、バンドでこういうバランスの取り方をこのひとはいつもしてきたんだろうなと思わせられる。
だから、なんというか編集盤としての機能がいちばんつよいかなと思うのがこのJIRO盤で、彼の個性や表現したかった想いを知ることができたような気がしてうれしかった。ベースが目立つ曲やビートをぐいぐい牽引していく曲もGLAYにはいっぱいあるのに、そうじゃないセレクトをしたのが、かっこいいなと思う。

 
デビュー25周年という軌跡の果てにリリースされたGLAYのベスト盤『REVIEW II ~BEST OF GLAY~』の4枚と4人についてそれぞれ話をしてみて、このバンドのもつさまざまな表情をあらためて感じることができたし、メンバーひとりひとりの個性にもふれることができたような気がしている。
ずっと聴いてきた曲ばかりなのに、並びかたや集めかたがちがうだけで聴こえかたが変わってくるような感じがしたし、それがすごくおもしろかったから、ベスト盤もいいものだななんて、過去を振り返るのもわるくないものだななんて、つい思ってしまったりする。
ロックバンドの評価はあくまでオリジナルアルバムでくだすべきだと個人的に思っているところはあるだけれど、でも、こういうのもいいなって思った。

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