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「ソーシャル物理学」 アレックス・ペントランド著 草思社文庫

アイデアの流れは速いが、似たアイデアに繰り返し晒されているエコーチェンバー状態にある人は、孤立状態にある人と同じくらい、現実から切り離されていきます。

アイデアの流れが速いということは、新しいアイデアが出ると素早くそれを参照すること。情報は素早く入ってくるのですが、偏りができてしまいます。心理療法にしても、一部の療法が極端に注目されることがよくあります。政治や外交の情報にしてもどうも偏りがある。すぐに「これからは、○○理論だよ」という考え方が横行します。異論反論が起きにくくなり、元々の理論が絶対化していくだけで、新しいイノベーションは生まれなくなってしまいます。日本は今全体的にエコーチェンバー状況にあるように思えます。


そうであれば、データの流れを少し遅くすればいいはずです。立ち止まって、主流ではない考え方にも注意を払えばいいんです。

著者は、集団に知性があると言います。集団的知性は、会話の参加者が平等に発言しているかどうかに関連しています。例えば、数個の大きなアイデアがあるグループよりも、無数の簡単なアイデアがあるグループの方がパフォーマンスが高くなるようです。そして、グループ内に発生する社会的学習(エンゲージメント)が重要だと言います。エンゲージメントにより、有効な情報の共有の機会が増えることが大切です。そうすると、休憩室、喫煙室!なんかでの会話はグループのパフォーマンスを上げる要素になっているかもしれません。もっとも、そうした場所でもカーストがあって忖度が横行していると、逆に特定のアイデアしか受け入れられなくなりますから、パフォーマンスは落ちることになるでしょう。


エンゲージメントなどの交流パターンはソシオメトリックバッジというデバイスで発言のスタイルや交流範囲を解析することによって数値化することができます。また、グループ内の交流パターンを可視化できるミーティング・ミディエーターというデバイスも開発されています。それらの解析結果をビッグデータとして統計処理することにより、トレンド予測をすることもできるのでしょう。


ここでもAIの活躍の場がありそうです。それでは人間はどうすればいいのかということですが、この件については、僕は心配していません。アイデアを直感的に生み出すのは人間ですから。AIのできることは、方向性の予測だと思います。非線形的な革命的アイデアを生み出すことはできないでしょう。


アイデアは、おそらく個人が単体で生み出すものではなく集団的知能が生み出していくのでしょう。個人としてアイデアを生み出した人たちは、集団的知能が生み出し始めた何らかのものを具現化した人たちなのかもしれません。


集団的知能を高め、パフォーマンスを上げるためには、カリスマ的リーダーのトップダウン方式ではなく、むしろカリスマ的仲介者による情報の有機的交流が有効なようです。カリスマ的仲介者は、様々な物事に対し純粋に興味を抱いて、人々の間を熱心に歩き回り短時間だが熱意に満ちあふれた会話を通じてエンゲージメントを行う人たちです。


リーダーではなく仲介者が有効ということは、データは共有された方が威力を発揮するということです。ただ、例えば現在のSNSの環境は、限定された同種類のデータばかりを共有する非効率的なエコーチェンバーを作りやすい状況になっています。これは、非常に不健康な状態で、何らかの形で崩していかなきゃ危険かもしれませんね。

エコーチェンバーが出来上がってしまうとき、非常に限られたデータ、少数の人の発言などがキャッチされ、あるグループの中で広まっていくのでしょう。だとすると、情報のリソースを正確に辿ることができれば、エコーチェンバーを崩すことができるかもしれません。情報源を辿ったら、「なぁ〜んだ、みんなこの人の言ったことのパクリであって、オリジナリティも何もないじゃないか」ということになれば、少しは愚かな熱狂も冷めるでしょう。


一方で、情報のリソースを正確に辿るということは、著作権や発明者の権利を守るということにもなります。

何も論文に発表しなくても、本に出さなくても、ネットで投稿してそれがオリジナルなアイデアであることが認定されれば面白い。夜中に酔っ払って思いつきで投稿したことが、特許になったりして・・・。そんな時代になったら、どんどん妄想しちゃうぞ・・・って思いました。


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