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『電池が切れるまで』角川つばさ文庫

私は三児の父です。上から小5男子、小2女子、小1女子。妻と家族5人、東京で仲良く暮らしています。子育ては楽しくもあり、またときに辛いこともあります。どんな子供でも「まったく何の心配もない」ということはないでしょう。何かしら心配があるものです。

ときにそれらの心配の種が、親にとっても大きなプレッシャーになってしまい、つい子供につらく当たってしまうことあります。そしてあとで自己嫌悪になります。

しかしとにもかくにも、子供たちがみんなが元気で健康に日々暮らしている、ただそれだけで100点なのだ、心から感謝しなくてはいけないんだ、と思い出させてくれるのが、宮本雅史さんの『電池が切れるまで』角川つばさ文庫(2009)です。

「命」
宮越由貴奈みやこし ゆきな(小学四年)

命はとても大切だ
人間が生きるための電池みたいだ
でも電池はいつか切れる
命もいつかはなくなる
電池はすぐにとりかえられるけど
命はそう簡単にはとりかえられない
何年も何年も
月日がたってやっと
神様から与えらるものだ
命がないと人間は生きられない
でも
「命なんかいらない。」
と言って
命をむだにする人もいる
まだたくさん命がつかえるのに
そんな人を見ると悲しくなる
命は休むことなく働いているのに
だから 私は命が疲れたと言うまで
せいいっぱい生きよう

宮本雅史『電池が切れるまで』角川つばさ文庫,2009

この詩を書いた宮越由貴奈さんは永く難病(神経芽細胞腫しんけいがさいぼうしゅ=がんの一種)を患い、この詩を書いてから4か月後に亡くなりました。痛み止めのモルヒネでウトウトとする由貴奈さんは、最後に意識があったとき、ベッド脇の両親に「こわい」とつぶやき、そしてそのまま目を覚ますことがなかったのです。

これ以上の悲しみがあるでしょうか。同年代の子供を持つ親として、胸が張り裂ける思いになります。

由貴奈さんは病院のなかで多くの病気の子供たちと時間を過ごしました。同じくこども病院に入院していた周囲の子供たちの詩から、由貴奈さんの気丈な様子が生き生きと伝わってきます。まわりを元気づける存在でした。

ゆきなちゃん
田村由香(小学五年)


ゆきなちゃんは合計二年間も病院にいる
治療で苦しいときもある
それなのに
人が泣いているときは
自分のことなんか忘れて
すぐなぐさめてくれる
でも たまあに
夜 静かに泣いていたときもあった
いつもなぐさめていたゆきなちゃんが泣くと
こっちがどうしていいか
わからなくなる
ゆきなちゃんの泣いている姿を
ただ じっと見ているだけだ
ごめんね なぐさめられなくて
ゆきなちゃん ごめんね


プラス思考
上原久美子(高校二年)


なにをそんなに 急ぐのですか
なんでそんなにあせるのですか
少しの間 落ち着いて
まわりをぐるっと見てごらん
あなただけではないでしょう
あなただけでは ないんだよ
どの家も どの子も 皆大変で
それでも顔には表さず
一生懸命やっているんだよ
自分だけが大変だなんて
そんなエゴなことは考えないで
あなたよりも幸せな人がいれば
あなたよりもつらい思いをしている人もいる
今元気な人だって
つらい時があったんだから
上を見れば見るほど
悲しくなることもあるけれど
今生きていて笑うことができる
それだけでしあわせじゃない
なんで私だけが
なんて考えないで
人と比べて落ち込まないで
ゆっくり のんびり 気長に
つきあっていけばいいんじゃない
ね プラス思考で 行きましょう


退院を前にして
上原久美子(高校二年)

今は偉そうなことを書いている私も
苦しいときは 苦しくて
思いどおりにはいかない自分が悔しくて
普通に暮らせる妹や友達がうらやましくて
なんで私が・・・って思ってた
でも なんで私だけが、とは思わなかった
小さなころから周りを見れば
髪がない人ばかりで
小さいなりに 私はしあわせなんだと
わかっていたから
私よりも長く入院している人はたくさんいて
みんな頑張っていることを知っていたから
辛くて 悲しくて 苦しくて
そんなことを繰り返し乗り越えて
今の自分がいる
プラス思考という言葉を教えてくれた
あなたに感謝する
いつも支えてくれたみんなに感謝する
あなたよりも先に退院するのは
とても後ろめたくもあり なんだか悲しい
でも 先に行くね
外は ここより厳しくて大変だけど
がんばるね
ここで経験したこと 感じ取ったことを
絶対忘れず がんばるね
生まれたときから十七年間
ずっとずっと つきあってきた病気
まだまだ つきあうことになるけれど
とりあえず
今日で さようなら
あなたもがんばって
ありがとね
ありがとう

この詩で上原さんに「プラス思考」という言葉を教えてくれた「あなた」というのは由貴奈さんのことだそうです。上原さんは病気を克服し、現在では保育士さんになられたとのこと。

いつも元気で周囲に気を使っていたという由貴奈さんは、最後まで一生懸命に生きました。「命が疲れたというまで せいいっぱい生きよう」という言葉の通り、短い人生を駆け抜けたのです。

生きている、ということは当たり前のことじゃない。生きていること自体が奇跡なのです。元気に生きていてくれている子供たちをみて、その奇跡に感謝しなくてはならないという気持ちを抱かせてくれる本です。

いつかは別れが来ます。この地上でいま子供たちと同じ時間を過ごし、同じ空気を吸って、一緒に笑うことが出来る、この貴重な一瞬一瞬を「せいいっぱい」生きたい、愛を注ぎたいという気持ちにさせられます。秋の読書におすすめの一冊です。新書ですぐに読めます。

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