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旧仮名キーボード開発記#1|コンセプトをきめる


iPhoneで使える旧仮名キーボードを開発しようと思い立った。
この記はその開発の道のりを残そうというものである。

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旧仮名キーボードとは

旧仮名キーボードとは、旧仮名遣いを用いて日本語入力をおこなうキーボードのことです。

ここでいう旧仮名遣いとは、「おもう」を「おもふ」とするような書き方のことで、いわゆる歴史的仮名遣いとよばれるものと大体同じです。

旧仮名キーボードでは、「おもふ」という入力に対して「思ふ」という変換候補を出し、「てふてふ」という入力に対して「蝶々」という変換候補を出すようにします。

また、漢字については旧字体を採用します。たとえば、「国」という字は「國」として出力し、「学」という字は「學」として出力します。

イメージとしては下図のような日本語入力をサポートするつもりです。

入力の例
イメージ

(例文は内田百閒『風呂敷包』より)

「かんがへてゐたけれど」と打つと「考へてゐたけれど」や「考へて居たけれど」などの候補が出るように設計します。

なお、iPhone標準のキーボードでも一部の単語は旧仮名で変換できるようですが、カバー率はかなり低そうでした。たとえば、「おもふ(思ふ)」「かんがへる(考へる)」などは変換できましたが、「かふ(買ふ)」「つかふ(使ふ)」などは変換できませんでした。また、「ゐ」「ゑ」などはキー割り当てがなく、ほかの仮名のようには打てないので、普通に「ゐる」と打つだけの場合でも苦労します。
※iPhone 11/システムバージョン:14.3/キーボード:日本語 - かな入力

このほか、旧仮名キーボードを作るにあたって、新仮名遣いでの入力を受け付けるかどうかや、小さい「つ」の扱いをどうするかなど、いろいろ考えることはありますが、それら細かい仕様については作りながら段々決めていこうと思います。

コンセプト

仮名遣いにしても漢字にしても色々あるようで、作っているうちに混ざるとよくないので、コンセプトを下のとおりに定めました。

近代日本における一般的な国語表記をサポートする

平安時代でも江戸時代でもなく、近代(特に昭和初期)を対象にします。また、詔勅や法律で書かれていたような文語文ではなく、新聞や小説で書かれていたような口語文を対象にします。

なお、本来的には不正確な表記であっても、当時としては一般的な表記であったとみなせる場合、そのまま採録します。たとえば、「もちいる」という言葉は、本来的には「もちゐる」が正しいとされていますが、当時は「もちひる」という書き方も広く普及していたとみなせるため、両方とも採録します。

コンセプトに反するものや漏れるものについては、またいつか対応するとして、当面はコンセプトどおりに作っていきます。

典拠

作業効率の都合上、旧仮名キーボードで使う辞書データはなるべく半自動的に生成したいと考えていますが、コンセプトに掲げたことを実現するにあたって疑問が生じた場合には、以下の辞書に典拠をもとめます。

・新村出『辞苑』博文館(昭和14年発行・第227版)
・小柳司気太『新修漢和大字典』博文館(昭和18年発行・第343版)

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この両冊を選定するにあたっては「新字新仮名制定よりも前に発行されたものであって、かつ発行年が新しいもの」という基準で、手頃そうな規模・価格のものを選びました。

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▲『辞苑』 見出しはすべて表音式の仮名遣い(新仮名とも若干違う)で、その直下に旧仮名が載っています。

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▲『新修漢和大字典』 俗字や略字として紹介されているもののなかに新字と同じ形のものもありますが、それ以外はすべて旧字旧仮名です。

開発記を書くにあたって

次回から、旧仮名キーボードをどういうふうに作っていくか試行錯誤しながら記事を書いていきます。

思いついた順に書いていくので、どこに何の記事があるのか見つけにくかったり、何のことを書いているのかわからなかったりするかもしれませんが、あえて手戻りや停滞の過程も含めて、日記的に書いていこうと考えています。

つづく。


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