新しい人生〜始まり〜

占い師が福祉施設へ入居した翌年の夏頃、私の母からこんな提案があった。
「ここは、近所に公園もないし友達もいないし、女手一つで子育てするには厳しいと思うよ。引っ越さないの?」

私は森の中の家がとても気に入っていた。家がと言うより、リビングの大きな窓から見える森の景色が大好きだった。
野鳥の名前も沢山覚えた。
四季折々の素晴らしい景色が、家の中に居ながら森の中にいる様な感覚になれる最高のロケーションだった。

しかし、息子2が池に落ちた事が2度あり、この場所の危険は悩みどころだった。
大人だけで暮らすには良いが、やはりこれから小学校に入る2人の子供を育てる環境としてはそぐわない事は容易に判断できた。
本来の自分に気付いてから、私は私が楽しく生きられる道を想像し始めていた。想像した新しい人生には、森の家ではなく、利便性の良い生活のしやすい家が必要だった。

ある日、母が「○○のマンションに空き部屋があって、次に入る人を探してるって大家さんから聞いてさ、私思わず”うちの娘は入ります!”って言っちゃったんだよね」と言った。

「はぁ〜っ?!怒」

私の母は昔からこう言う事をしちゃう人だった。感覚人間とでも言おうか、直感で「良い!」と思ったら突っ走ってるタイプ。もう、慣れましたけどね。

母の突っ走りから事態が動きだしてしまった様に見えるが、私はこの家を手放す決意が出来ていた。森の中の家は非常に環境が良い場所なので、私たち家族だけで占有しておくのが勿体無いと常々思っていたのだ。
そこで、友人にこの家を売ろうと思っている事を話すと、購入して民泊施設にしたいと言うので願ったり叶ったりだった。

こうして引っ越しは図った様に進み、娘2が小学校に上がるタイミングと合わせて私たち家族は森の中の生活から脱出する事になる。

ある日、母とランチをする事になり近所のお店で待ち合わせをしていた。
少し遅れて到着した私を、母ともう一人知らない女性が迎えた。嫌な予感、、、。また母の良いに決まってると言う思い込みで突っ走って、私の了解を得ずその知らない女性に合わせる為にランチに誘ったに違いない。

その女性は保険会社に勤めており、新入社員を募集していると言う。

やっぱり、、、、

しかし、本来の自分を見つけた私は以前の自分の反応とは違っていた。
母のやり方には腹が立つが、私の元に飛び込んできた社会復帰のチャンスを生かすも殺すも私次第である。
きっかけはどうあれ、母の起こした波に今の私なら乗れる気がした。今まで母の”勝手”という波を拒絶し憤慨していたのは、波という認識ではなく、水を突然掛けられた様な、自分が被害者の様な感覚が強かったからだと気付いた。

私の意思の及ばないところで私の人生が決められてしまう感覚で、非常に無礼だし侵害されたと今までは思っていたが、母は、波に浮いている私へ向けて新しい波を起こしただけ。
生きている限り、四方八方から波が打ち寄せる。それが人生だし、生きているという事だ。私は、事母から起こされる波に、異常な拒否反応をしていたと気付いてしまった。

幼少期からの条件反射である。こうやってずっと反発してきたのだ。
「私の事は私が決める!」「私の事なんだから意見しないで、放っておいて!」こういった反発は、自信が無い自分を否定される恐怖から起こるものだった。子育て中に感じていた世間からの刺さるような視線も、原因は同じだ。

しかし、私はもう子供の頃の私じゃない。
本来の自分を生きるようになった私は、”母”という呪縛から解かれた。

これからの私の人生をどうやって楽しんでやろう?とワクワクし出した。
保険会社というものを知らないので、見るだけ見てみようと思った。森の中での生活も長かったので社会に出る口実が、あの時の私には必要だったのだ。

ランチを終えてその足で会社へ向かった。半分拉致だ。
会社説明会という名の面接だった。応接室に通され、支社長から会社について簡単に説明を受けた。
それから2ヶ月後、街のショウウィンドウにスーツを着てヒールで闊歩する私の姿が映っていた。ついこの前まで森の中で薪割りをしていた私が、、w


新しい人生〜警察がやってきた〜へつづく

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