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#12 ヨッシャマンと魔法の言葉(前編)

庭にオオイヌノフグリが咲き始めると、ああ春が来たなと感じる。
しかし、同時に毎年腹立たしさも覚えるのだ。
オオイヌノフグリ。
こんな可憐な少女のような花になぜ「でかい犬の金玉」などという名前をつけたのか。
その、ネーミングセンスを肥溜めにでも落としてきてしまったような輩を探し出して正座させ、こんこんと説教をしたい。
しかし、写真家のakihiroさんが「星の瞳」という別名があることを教えてくれたので溜飲を下げた次第である。海外では「キャッツアイ」とも呼ばれているそうだ。美人の代名詞と言ってもいい。

そんなわけで、今日はそんな大切な「言葉」について書いてみようと思う。

娘は音楽バンドを組みたいらしい。
私達の世代は「バンドをやりたい」なんていうのは麻疹(はしか)みたいもので、誰でもかかる一般的な病であった。私もその例にもれなかったので、娘がけっこう本格的に罹患したことは嬉しい。
娘と2人でバンドメンバーを妄想した。
娘が男装して(チェンソーマンのマキマさんのイメージ)ギターボーカルをやり、ベース、ドラム、キーボードの3人を男子メンバーで固める。
なんてカッコいい編成なのかと私達は親指を立ててほくそ笑んだ。
「でも」と娘が言った。「キーボードやってくれそうな女の子がいるんだよね」
話が変わった。(ひげ男爵風に)
結局はビジュアルよりも気の合うメンバーとやるのが一番だよね、という所に落ち着いたのだが、
「けど、男3女1は捨てがたいよな~」と私が未練がましく言うと、娘はこう答えた。

「たかが性別じゃん」


たかが性別だと……?
なにそれ、と私は言った。

「めっちゃカッコいいじゃん!」

「そ、そう?」
娘が引きぎみになるくらい私は目を剥いた。

こんなにイカした「たかが」の使い方があるだろうか!
少なくとも私には思い付けない。
色々考えてみたものの、これ以上のものは出てこなかった。
しかし、これは娘が言うから「おおっ」となるのであって、ただの女好きのおっさんが口にしたところで「何を知った風のことを」と鼻を鳴らされるだけである。

娘はいわゆる性的マイノリティだ。
男の子と付き合ったこともあるが、
「なんか友達以上に思えないんだよねー」となってしまい、「やっぱ彼女ほしいわ」に帰結した。
そんな娘に、「パパ、私が彼女連れてきたらどう?」
と訊かれたので、少し考えてみる。
「別にいいんじゃないかな?」
可愛い娘が一人増えたような気がした。
「パパんちで一緒に住むとしたら?」
「かまわないよ」
「ふーん、彼氏だったら?」
「外に磔にする」
娘の彼と住むなど絶対にごめんである。それなら私はさっさと山に籠る。
「男は嫌なんだ」と娘は苦笑した。「でも、私の彼女に手をださないでよ?」
ああ、彼女は父親をどんな目で見ているのだろう……。

話がそれたが、そんな娘が言うから
「たかが性別じゃん」が尚更カッコいいのである。
言葉は人を選ぶ。

音楽つながりでもう一つ。
スピッツに「渚」という曲がある。
このタイトルについてのインタビューで、マサムネさんがこう言っていたらしい。(また聞き)
「渚とは、海と空と砂浜が合わさった風景のこと」

なんという感性だろう。
渚も砂浜も英語で言えば同じbeachである。
砂浜は砂浜であり、どこまでいっても砂浜だ。
ところが、「渚」と言われると確かに複合的な風景が見える。
個人的なイメージで言うと、日が傾きかける少し前のオレンジがかった太陽と南国の樹木もセットで脳裏に浮かんでくる。

日本語のなんと奥深いことか。
日本人に生まれてよかった、と本当に思う。

そんなわけで、また上手くまとめきれなかった。
脱線事故が多発するせいだとは思うのだけれど。
続きはまた次回。


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