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Melody at the Night with you

『声は何もなかった島の静けさの記憶を呼び覚ましてくれると思います』
ガス屋の天久さんはピアノ弾きの歌い手"浜田真理子"さんの2017年当時の宮古島初ライブにこう寄せています。

"声は何もなかった"。

この一文から想像できるのはまだ誰も存在しておらず名前もなかった太古の宮古島のことなのかもしれません。
夜明け前の静寂に包まれた島としてもイメージすることができます。
情報が溢れるこの時代に色々な言語が飛び交う毎日とはほど遠い何もなかった時代。もちろん言語化することで人間同士は互いの意思疎通を図りやすくなったとも言えます。反対に言語なしでは意思疎通はなり得ない。しかし果たしてそうでしょうか。
2月の夜にピアノライブを宮古島のサックス奏者・池村真理野さんが主催しました。いつもはサックス奏者としてステージ上で常に最高のパフォーマンスを発揮する真理野さんが主催者というポジションでピアニスト・栗林すみれさんを宮古島に招致しました。
箏(こと)奏者を父に持つすみれさんは和のピアノを弾くのだと真理野さんは言います。わかったようなわからないような真理野さんの説明でしたが、当日までにピアノが会場に運ばれ、宮古にすみれさんが到着。ピアノ調律のプロも仕事完了。
役者が全て揃い、本番に向けて着実に物事が進んでいきます。
そしてついに本番を迎える開場と同時に大雨。絵に描いたようなわかりやすい土砂降りでした。しかし、雨音の中でも超満員の空間。
本番前に調律が施されたピアノは一瞬で雨音をかき消すほど場の気配変えました。以前書いた、キースジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』では調律師が重要な役割を果たしたと聞いたことがありますが、これほどまでに美しい旋律を奏でるピアノは聴いたことがありません。専門的意見は言えませんが聴いていて気持ちがいいです。

後から演奏に加わり歌も披露してくれた真理野さん。言うまでもなく、最高なパフォーマンスで聴衆を沸かしてくれました。
言語なしでも(少し歌ってくれましたが)、メロディだけでも心を通わせ、通じ合えることを身をもって教えてくれた気がします。

締めは宮古島歌謡の"とうがにあやぐ"
一般的に祝い事などの座開きとして親しまれている曲をあえて最後にもってきたとお話ししてくれました。

”Nameless Piano"という作品を発表しているすみれさん。
見方を少し変えると冒頭部の天久さんの"声は何もなかったた島の静けさ"と通ずるものがあるのかもしれません。なんでもかんでも言語化することによって見えてくるものもあり、文明開化により知性が備わってきた現代人ですが情報を詰め過ぎてしまったキャパオーバーの側面もあると思います。それは次第に人の心に刻まれにくくなってしまっているのかもしれません。

ふたりのメロディが刻まれた夜はこうやって作られたのだと後世にも語り継がれるパフォーマンスであったことは確かです。


調律師の小禄さん

白い大蛇の伝説 -国仲勝男

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