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新彊ウイグルの強制労働問題の根拠とされる資料を調べてみたら・・

 米国が新彊での強制労働を指摘する際に根拠とされる資料が"Uyghurs for sale"[1]である。普通に考えれば新疆ウイグルの強制労働に関する生々しい事実が列挙されているのだろうと推測されるが、マスコミは一切この資料について報道しない。仕方がないので自分で調べてみた。




- 目次 -
1.米国声明等における"Uyghurs for sale"の位置付け
2."Uyghurs for sale"の書かれた強制労働の事実
 □ What’s the problem?
 ① 彼らは通常、隔離された寮に住んでいる
 ② 勤務時間外に組織化された北京語とイデオロギーの訓練を受ける
 ③ 絶え間ない監視の対象であり宗教的儀式への参加を禁じられている
 ④ 移動の自由が制限されている
 □ What’s the solution?
 □ Executive summary
 ① 仕事の割り当てをウイグル人が拒否することは非常に困難です
 ② 労働割当ての為に自治区政府から補助金が支払われている
 □ Forced Uyghur labour
 ①  収容所に送り返されることへの絶え間ない恐怖を感じている
 ②  ウイグル人労働者は、特別な隔離された列車で中国全土に輸送される
 ③ 「軍事的管理」の下で過酷な隔離された生活を送っている
 ④  ウイグル人労働者を「追跡」することによって管理しています
3.ケーススタディ
4.まとめ



1.米国声明等における"Uyghurs for sale"の位置付け
 米国税関(CBP)は「新疆生産建設兵団(XPCC)」が生産した綿製品の輸入を禁じる命令を出したが[2](fig.1)、その声明文に根拠は全く書かれていない。ある米国法律事務所[3]によれば、CBPは米国労働省国際労働局(ILAB)のレポート[4](fig.2)を参照しているとの事で、そのレポートが参照しているのがこのASPIの"Uyghurs for sale"(fig.3)である。ユニクロは新彊の強制労働を利用していると批判している人はここまで理解しているのだろうか。

fig.1 米国税関の新彊綿輸入禁止令

fig.2 米国労働省国際労働局(ILAB)のレポート

fig.3 米国労働省国際労働局(ILAB)のレポートに引用される"Uyghurs for sale"

2."Uyghurs for sale"の書かれた強制労働の事実
 では、このレポートにはどのような強制労働の事実が書かれているのだろうか。本文には強制労働が有ったとする記載が列挙されているのだが、その根拠は引用資料に依っているようである。そこで、本レポートの各章にある強制労働の記載に対し、引用資料に何が書かれているのかを以下に記す。

□ What’s the problem?
 この章では中国政府がウイグル族などの少数民族を全国の工場に移送しているとしているが"Under conditions that strongly suggest forced labour"として強制労働とは断言していない。では、強制労働が疑われる条件とは何か。挙げられている項目は以下である。

① 彼らは通常、隔離された寮に住んでいる
 文章には「隔離された寮に住んでいる」とあり、何か刑務所の様な印象を与える文章だが、この部分の引用先の資料[5]を見ると、どこにもそんな事は書いてない。それよりも、以下の通り、地方政府がいかに手厚くウイグル族の労働者を処遇しているかが分かる。
・スキルを教えてくれ私たちを気遣ってくれる
・新しい環境と仕事に早く適応できるようにするため地方政府幹部も一緒に移動した
・労働者は春祭りの休暇のために家に帰り両親にお金を渡した
・生活を豊かにするために遠足に出かけた(fig.4)
 そして、掲載されている写真はとても楽しげなものばかりである(fig.5,6)。故郷から離れているという事を言いたいのかも知れないが、中国政府が内容を入れ替えたのでは?と思うほどの資料である。

fig.4 新彊ウイグルの労働者の就職地における遠足・社内旅行の様子

fig.5 新彊ウイグルの労働者の写真

fig.6 新彊ウイグルの労働者の写真

② 勤務時間外に組織化された北京語とイデオロギーの訓練を受ける
 これも引用資料[6]を注意深く読まないとどこにこの指摘の部分が有るのか分からないけれど、恐らく以下の部分だろう。

・安徽省から138人の先生がピシャンに来て頑張っています。(略)特別講義や地方への指導派遣、教科書の執筆などの活動を行い、ウイグル人教員の国語教育能力を大きく向上させた

しかし、この資料は安徽省が新彊ウイグル自治区の貧困撲滅に協力するという資料で、以下の記載が有る。
・新疆に企業を設立し、雇用を確保する
・貧困緩和のためのロバ産業調達プロジェクトの実施を支援した
・15の企業で、合計2,048名のホータンの従業員が働いている
・特別な自習室、ハラールの食堂、エアコンと洗濯機を備えた寮を利用可能
・空き時間には中国語のクラスに参加することができる
・安徽省の医療チームはピシャン県の子供達に検査を行い、342例の先天性手足障害を発見した
 結局、この資料も強制労働どころか新彊ウイグルの人々の貧困撲滅が精力的に行われているという資料である。

③ 絶え間ない監視の対象であり、宗教的儀式への参加を禁じられています
 これも引用資料[7]は貧困撲滅に関する資料なので結果は推して知るべし。指摘部分はここだと思われる。

・県党委員会組織部は、課長級の指導幹部12名と公安警察官7名を配置し、サービスステーションに滞在し、企業と全面的に協力して管理サービスを行い、毎月労働力の就業状況を県党委員会組織部と人事・社会保障局にタイムリーにフィードバックし、労働者の仕事や生活の中で発生する様々な問題を調整・解決し、労働者が 国外での雇用を安心して行うことができ
・定期的に労働者に思想教育、政治教育、愛国教育を行い、積極的に党の政策を推進し、違法なものから遠ざけるように導き、宗教とは距離を置き極端にならないように、法律を守り、実践的に働くよう指導している

 絶え間ない監視と言うよりは管理であり、問題を吸い上げて解決する為という事である。また機械翻訳の限界かもしれないけれど、宗教を禁止しているとまでは書いてなくて、過激にならないようにという事を言っているだけに読める。
 また、お約束だけれど、これ以外の部分では以下の貧困撲滅対策が記載されている。
・貧困撲滅に対し、政策的な保証や対策が強力であること
・広報活動の強化と雰囲気作り
・レベル、民族構成、年齢構成、労働力のスキルと労働意欲の調査とマッピングを行う
・その上で労働力のターゲット、雇用とトレーニングのニーズの健全なリストを確立する
・出稼ぎ者のフォローアップサービスを提供し、出稼ぎ中に発生した問題の解決を支援している

④ 移動の自由が制限されている
 この指摘に対する資料[8]は、広東省の企業が新疆籍を持つ労働者を採用する際のガイドラインである。そして、相変わらず指摘箇所を探すのが困難で、結局見つける事が出来なかった。また、このガイドラインにはやはり、新疆の労働者を受け入れる際の配慮の行き届いた対応策が多数列挙されている。
・企業と地方当局は双方の要求を提出し、現地調査の上契約を行う
・受け入れ企業は寮や食堂の改修を行う
・労働者が派遣される前に、企業は就業前教育を強化し早く適応を目指す
・教育は法令、言語、生産規律、生活の一般知識、心理カウンセリングなどに重点を置く
・経験豊富なベテランを特別な指導者として配置し、仕事のニーズに適応できるようにするべき
・訓練の間も保証された賃金が提供されるべき
・企業は新疆籍の労働者に技能向上訓練に参加することを奨励または組織する
・企業は従業員に対する民族政策と民族統一に関する教育を強化し、少数民族の習慣と伝統を尊重すべき
・企業は法律に基づいて新疆国籍の労働者と労働契約を締結すべき
・企業は新疆籍の労働者に日当と手当を支払い、適切な傾斜で同一労働同一賃金を実現すべき
・企業は様々な地域の公共サービスを享受できるように積極的に支援すべき
・新疆の国籍を持つ労働者を受け入れた企業には単発補助金が支給される。
・新疆籍の従業員のためにOJTによる訓練を実施する企業は、訓練補助金と評価補助金の対象となる
・企業に駐在している新疆ウイグル自治区の幹部には補助金が支給される
・企業は比較的独立したハラルの食堂を設置し、現地のシェフが食事の手配に責任を持つべき
・企業は例えば、6~8人用の標準的な部屋、温水・冷水・電気・バスルーム等を備えた寮を設定すべき
・企業は休日などに娯楽活動の場所を設け、労働者が企業や地域社会に溶け込むようにすべき
・活動は文化・スポーツ活動や地元の従業員との親睦活動など
 この様に、新疆から他地区へ就職する労働者に対する手厚い対応が記載されており、一体ASPIはこの資料を引用して何を伝えたかったのか理解に苦しむ。

□ What’s the solution?
 この章では「オーストラリアの現代奴隷法」やILOの規約などを引用しつつ企業や消費者が強制労働を監視すべきという一般論を述べている。

□ Executive summary
 ここでは新彊ウイグルの強制労働の概要を説明している。
① 仕事の割り当てをウイグル人が拒否することは非常に困難です
 この部分の引用資料[9]「長期安定雇用を促進するために地域の労働協力を強化する」という資料であり、具体的にウイグルの労働者が仕事の割当てを拒否できないとは書いてない。ここも貧困家庭のウイグルの労働者に雇用を提供する方針が謡われている。具体的には以下であり、ごく当たり前の内容である。
・ 実情に合わせて計画を立てること
・ 企業が連携して雇用を創出すること
・ 人情味あふれるマネジメントサービスに支えられていること
・ 情報プラットフォームを精度で支えること

② 労働割当ての為に自治区政府から補助金が支払われている
 この部分の引用資料[10]は「新疆ウイグル自治区における余剰農村労働力の雇用移転の管理のための暫定措置」というものである。これは新彊の労働者に雇用を提供するという目的を達成するための一方策であり、補助金の何が悪いのかと思う。尚、資料には以下の記述が有り、違法な労働に補助金は出ない。
・ 余剰の農村労働力を雇用と合法的な職業のために(略)本土への移転を成功させる。
・ 雇用単位と労働契約を締結している場合
・ 就職先の最低賃金基準を下回らず、農民の所得は明らかに増加する

そして、この章の最後に以下の企業が強制労働に関与しているとしている。
SAIC Motor、Samsung、SGMW、Sharp、Siemens、Skechers、Sony、TDK、Tommy Hilfiger、Toshiba、Tsinghua Tongfang、Uniqlo、Victoria's Secret、Vivo、Volkswagen、Xiaomi、Zara、Zegna、ZTE

□ Forced Uyghur labour
 この章ではまず前章でASPIが主張した強制労働の事例が列挙されている。しかしながら、これらは我田引水な主張である事は既に見てきた通りである。

・恣意的拘禁の脅威などの脅迫や脅迫にさらされデジタル監視ツールによって監視されている
・新疆ウイグル自治区に戻った家族への脅威などによって、依存と脆弱性の位置に置かれている
・フェンスで囲まれた工場やハイテク監視などによって移動の自由が制限されている
・隔離された寮に住む、専用列車で輸送されるなどの隔離
・政治的教化、工場の警察警備員のポスト、「軍事的」管理、宗教的慣行の禁止などの虐待的な労働条件
・仕事の割り当ての一部である仕事帰りの北京語のクラスや政治的な教化セッションなどの過度の時間。

 次にこの章では強制労働を示唆する文章が続く。以下にその文章と引用の内容を記す。
①  収容所に送り返されることへの絶え間ない恐怖を感じている
 この部分の引用はBitter Winterというメディアの記事[11]で、よくある証言だけの記事であり真偽の特定は困難である。また、ゼンツ氏の論文も引用している事から信憑性が疑われる。尚、このメディアのその他の記事としては「中国のカラオケ:宗教的な歌は禁じられています。台湾の女の子がセクシーだと歌うことも禁じられています」との記事も見られる。

②  ウイグル人労働者は、特別な隔離された列車で中国全土に輸送される
 ここの引用資料[12]は「ナイルク県の50人の第一陣が江蘇金創集団に出稼ぎに行く」という記事である。江蘇省Nilek郡に就職する新彊の最初の労働者50人の研修の話と、その移動は新彊側が負担するけれど、その交通手段の整備を今後進めるという内容。特別に交通手段を準備して労働者を移転先に運ぶという事を”特別な隔離された列車”と呼んでいるだけで、どうしたらこの様な悪意のある解釈ができるのだろうか。

③ 「軍事的管理」の下で過酷な隔離された生活を送っている
 この引用資料[13]はBaiduの求人サイトのような所に掲載された案内(fig.7)。「新疆ウイグル自治区の労働者を使う利点は、半軍事的な管理、苦難に耐える能力、人材の損失がないこと」という文章をもって過酷な生活と非難をしている。しかし、この程度の話を新疆ウイグルの強制労働の証拠としなくてはいけないとは、いかに根拠が薄いかという事を示しているように思える。

fig.7 新彊ウイグルの労働者の求人

④  ウイグル人労働者を「追跡」することによって管理しています
 ここは前出の資料[9]にある「正確な情報プラットフォームによるサポート」の事を言っていると思われる。このシステムは概要は以下。
・ 農村労働者の研修・雇用管理サービスシステムを構築
 - 転勤者の健康診断、政治審査、研修、役職、給与収入などを記録
    - 「明確な基本情報」、「明確な能力・資質」、「明確な雇用先」、「明確な給与収入」を実現
・正確なリアルタイムメンテナンス
・システム運用者へのトレーニングの取組みを強化
 この様に雇用状況をリアルタイムに把握し問題が有れば改善を図るシステムを、悪意を持って一部を切り出せば「ウイグル労働者の管理追跡」という表現になる。

以上見てきたように、問題点を指摘する章では中国地方政府などの資料を引用し、強制労働の証拠を示すどころか中国の新彊ウイグル自治区に対する貧困撲滅対策を手厚さをアピールしている。
 
3.ケーススタディ
 ケーススタディは3つのサプライチェーンについて説明をしてるが、内容は2章で見てきたものと同等である。目新しい話はそれぞれのサプライチェーンの説明である。ASPIは各社のHP等から新彊の労働者を受け入れている企業と世界的な企業の関係を調べたようである。各ケースで登場する企業は以下の通り。そして、ASPIはこれらの企業に人権に関する監査を行い、結果を公表すべきと主張している。

ケーススタディ1
新彊労働者受入企業:Taekwang
上記企業の主要顧客: NIKE

ケーススタディ2
新彊労働者受入企業:HYP
上記企業の主要顧客: ADIDAS, FILA, NIKE, PUMA

ケーススタディ3
新彊労働者受入企業:O-Film
上記企業の主要顧客: Apple, SONY, lenovo, GM, Microsoft 等

4.まとめ
 新彊綿の強制労働は例えば、SNS→国内ニュース→海外ニュース→米国法令→ASPIレポート→中国地方政府資料となっている訳で、最終的な「新彊労働者に対する手厚い政策」という事実が伝言ゲームで「強制労働」にわい曲されてしまっている。米国法令の文章を見ると「情報が有る」というレベルで、これを強制労働とするASPIの悪意の有る解釈が根本的な問題に見えるが、同様に「情報が有る」を「事実」として中国批判に利用する勢力に問題は有ると思う。結局、各階層で自らの判断の根拠を確認しない、あるいは恣意的な解釈をする構造的な問題を一つ一つ指弾しなければ、この問題は解決しないのではと思うが、本noteがSNS→中国地方政府資料=事実として問題解決の一助になればと思う。

 また、中国地方政府資料は政府のプロパガンダで、ASPIのレポートが強制労働を暴露しているという見方も有ると思うが、この”Uyghurs for sale”はまったくそのレベルに無い事を付記しておく。


引用資料:
[1] : Uyghurs for sale , ASPI , 2020年3月1日
https://www.aspi.org.au/report/uyghurs-sale
[2] : CBP Issues Detention Order on Cotton Products Made by Xinjiang Production and Construction Corps Using Prison Labor: U.S. Customs and Border Protection , December 2, 2020
https://www.cbp.gov/newsroom/national-media-release/cbp-issues-detention-order-cotton-products-made-xinjiang-production
[3] : What are the best resources for learning about US policy on forced labor? : Arnold & Porter Kaye Scholer LLP, June 17, 2020
https://www.arnoldporter.com/en/perspectives/publications/2020/06/us-ban-on-goods-made-with-forced-labor
[4] : Against Their Will: The Situation in Xinjiang : U.S. DEPARTMENT OF LABOR , 
https://www.dol.gov/agencies/ilab/against-their-will-the-situation-in-xinjiang
[5] : 和田外出务工人员在江西南昌高新企业就业掠影 : 和田市人民政府, 2019-04-08
https://archive.ph/tUYEs
[6] : 对口援疆,做到群众心坎上 : 安徽国元集团 , 2018-7-26
https://archive.ph/YBJQ3#selection-151.17-151.26
[7] : 新疆尼勒克:多措并举探索提升农村劳动力疆外有组织转移就业新模式 : 自治区人力资源市场 , 2019-06-25
https://web.archive.org/web/20200128215747/http:/222.82.215.217/2015_jyzx_jyxw/8a4ac4066b873576016b8cb385630f7f.html
[8] : 广东企业招用新疆籍劳动者指引(试用) : 广东省就业服务管理局 , 2019-01-18
https://archive.ph/ncfSC#selection-167.0-167.10
[9] : 强化区内劳务协作 促进长期稳定就业 : 新疆自治区人力资源和社会保障厅 , 2019-01-11
https://web.archive.org/web/20191212034310/http:/www.mohrss.gov.cn/SYrlzyhshbzb/jiuye/gzdt/201903/t20190321_312709.html
[10] : 新疆维吾尔自治区农村富余劳动力转移就业以奖代补资金管理暂行办法 : 新疆维吾尔自治区财政厅 , 2016年4月20日
https://archive.ph/Arq8K#selection-889.18-889.28
[11] : Released from Camps, Uyghurs Subjected to Forced Labor : BITTER WINTER , 12/23/2019
https://bitterwinter.org/uyghurs-subjected-to-forced-labor/
[12] : 尼勒克县首批50名赴江苏今创集团务工 : 中国劳动保障新闻网 , 2018-05-15
https://archive.ph/oCDCL#selection-185.0-185.10
[13] : 1000少数名族,在线等预约 : 2019-11-27 
https://archive.fo/fYlV4

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