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そこにはかつて香りたかい死の部屋があった

そこにはかつて香りたかい死の部屋があった
死の薫氣とは何か
いやかつてそして今も
そのような鼻道の歓びに硬直することは
ないかもしれないが
あのときは
終末に侵されていく確実な
臨死の倫理的な夢のなかにあって
不条理に腐れ
死にゆくものたちとの一度きりだが
決して離れることのない
心の結びつきを
存在論的共感という病理のうちに
私たちの名前が縺れ
微小な針の刺突に喚起される世界の変容を
苦痛というほどではない痛みの香煙を
指にまき
全身を縛り
その異臭に麻痺する肉體がひぃと
放散しかおる螺旋だけが
一すじ
しろい宇宙の
泡だつ空洞から織りだされる
編絲の始原へと
くゆりゆき
墜ちる眼球が二転し覗きみるのは
悶えるほむらのなかに抱きあい
炎よりも朱い蝋を垂らし
つぎつぎと
のけ反り
天を掻く姿態が膿みだし
匂い崩れおちる
蝋人形たちの溶けあう
うずたかい塊
その馨の記憶レミセンスに咽かえる部屋だ

【23U01AN即興】
*画像はStable Diffusionにて筆者作製。画像と本文に特別の関係はありません。なお、AI生成画像を無条件に支持するものではありません。

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