見出し画像

今年の思い出〜河童伝説編〜


今年はいろんなことがありました。がんばったような、そうでもないような感じです。
この出だしから何を書けばいいのかわからない感じがネームに似ているなと思って早速憂鬱になりました。

去年から本格的に漫画を描くことをやり始めたのですが、やればやるほど、漫画描くのってしんどいなと思っています。
そういうのを含めて今年を振り返るやつをやろうかなと、存じます。


●1月
去年から描いてた『黒巫鏡談』というのを描き終えて、新しく何本かプロットを書いて編集部に持ってった。
西部劇っぽいのとか、バンドものとか…(その頃アマデウス見たから音楽漫画やりたかった)

●2月
商業誌デビューでうかれる。
読み切りのネームを書くも全然気に入らなくて、新たに長編のプロットを書く。(なぜ?)
これまで描いた漫画の題材がソ連だったり朝鮮だったり、センシティブかつ趣味にいきすぎていたきらいがあったため、新作では多少なりとも一般受けを狙うというのが個人的な課題だった。
素人なりに「今のままじゃあ、印税で家が建てられない」と考えたのだった。
かくして書き上がった十数ページのプロットには、ほぼ全編にわたって、ナチスが登場していた。
担当編集氏はOKを出した。
世界は狂っている。

●3月
黒巫鏡談が無断翻訳され、韓国のサイトで賛否両論巻き起こっていることを知って冷や汗をかいた。
日本が植民地支配した時代の朝鮮を、日本人がエンタメとして描いたとなれば、そりゃあいろんな立場や思想から言及があるだろうとわかっていたけれど、思ってたより早かったから冷や汗をかなりかいた。
同時に、日本にのみ向けて描いたわけじゃないこの漫画が、思ったより早く韓国に届いたのは嬉しい。(違法はダメ)
メッセージをくれる韓国人の方や、わざわざハルタ本誌を買ってソウルからアンケートを送ってくれた方もいてとても嬉しかった。
それはそれとしてネームが難航する。

●4月
ネームをとても書いたり直したりする。
私は歴史を舞台にしたがるくせに歴史がぜんぜんわからない。中高で習ったであろう事を一から勉強し直す羽目に毎回、なる。
そして筆がべらぼうに遅い。まじで遅い。
この時書いているネームは長期連載の1話目、40ページくらい。資料を必死こいて読んで一から頭に入れた情報をなんとかまとめてネームにして下書きしてペン入れして…これを毎月やるんでっか!?
世の連載してる漫画家はみんなこれをやってるのかと思うと、普通に無理どすえ!?と吠えてしまった。
無理どすえ!お侍はん!わっち、無理どすえ!堪忍な!無理無理どすえ!わっちは吉原一の無理どすえ!お侍はん!無理どすえー!と────

●5月
東京でハルタ十周年パーティーがあって、呼ばれた。
だもんで、スラムに住む長毛犬みたいな髪をちゃんと切ってから行った。
丸山薫先生や長蔵ヒロコ先生や山本和音先生にご挨拶し、緊張して膝から崩れ落ちた。
丸山先生が四つ墓を聴いてくださっていると知って膝から崩れ落ちた。
『KILLER QUEEN』でとても影響を受けた大上明久利先生にご挨拶した時、緊張して開口一番「ドラムマガジンのモーゼルはかっこよすぎるからずるいと思いますヨ!」と、めんどうなおたくみたいなことを口走ってしまい、今でも思い出しては、膝から崩れ落ちている。

●6月
苦戦するナチ漫画はまた次の機会にするとして、黒巫鏡談の続きをまた短期でやることになる。
長期連載は無理ヶ峰と思っていたのでホッとする。
しかし、いつか自分の実力が伴ったら形に…と温め続けるのもよくない気がする。
現に今でも、別の作業をしながらこの漫画のことを考えてしまう。呪い。自分で産んだ卵に呪われている。
あと、郵便局の短期バイトに応募して面接行ったら、家から片道2時間半かかると知って、「やはり、やめます」と伝えた。あと普通にその面接も遅刻した。なんだコイツと思われただろうな。

●7月
こっちはこっちでネームに大苦戦する。
呪いじゃ。
自分の産んだものに呪われ続けることなのかもしれない、創作全般は。創作者は皆フランケンシュタインなのだ。
取材のために韓国済州(チェジュ)島に行った。
初海外で何もわからない。なので、姉について来てもらう。姉は英語が話せるうえに車の運転ができる。
レンタカーを借りてあっちこっちに行く予定である。この人がいれば安心である。
現地に着いて空港からレンタカー屋へ向かうバスの中で、しばらく車道を眺めていた姉は言った。「よし、だいたい交通ルール分かった」
氷のような不安が背筋を撫でていったが気にしないことにした。
(結局、事故とかはなかった)

済州島の完全オリジナルキャラクター

済州島はいいとこだった。
暑いは暑いけどジメジメしてないし海がとてもきれい。めっちゃリゾート地というよりは熱海みたいな風情がある。アウトレイジで見た感じの繁華街もある。
黒豚の煮たやつが入った麺が美味しかった。

済州島の民俗は日本の資料だけだと限界があるから現地で見るしかない。博物館を巡って写真をいっぱい撮った。
暑くない時にまた行きたい。

●8月
まだネームに苦戦する。
現地でいろいろと資料が集まった分、説明が増えたりする。
他国の文化を扱う以上、しっかり描かなきゃいけないところと、漫画っぽい嘘で描くところの、バランスのやつが難しい。
諸星大二郎はあんなに説明が多い漫画描いててずるいじゃないですか!とぶちぎれた。
そういえば編集部が九段下に引っ越してた。
靖国神社が近くにある。打ち合わせの帰りにちょっと覗いてみっかと行ってみたけど、広くて暑いので途中でやめた。
8月15日にあそこに集まる人達は大変だろうなと思った。軍服コスプレより空調服着たほうがいい。
……もし空調機能の付いた軍服とかあったら、真夏に厚着の226コスとか見れるんだろうか。それはちょっと見てみたいな。この話やめよ。

●9月
原稿をやる。
孤独に────

●10月
原稿をやる。
季節の変わり目でガンガン体調が悪くなる。
黒巫鏡談の再掲載がはじまった。一年前に描いてた絵が、今見るとひどい。キャラの顔がコマごとに変わる。巖谷(主人公の眼鏡のほう)のモデルは時効警察のオダギリジョーだったはずなのに今見るとなんだお前!大目に見ても「ダジョギリオー」じゃねえか。絵が上手くなりたい。
月子さんはまあ、可愛いからよしとする。

●11月
原稿をやる。
めがねを新しくする。

●12月
原稿とネームとかをやった。
あと河童を捕まえた。
来年もよろしくお願いいたします。

戸川四餡