日記的な恋を3

 大体決まって水曜日にまともなデートに行く。別に水曜日がいいってわけじゃなく2人のタイミング的に水曜日になる。付き合う前初めてのデートも水曜日だった。君からのお誘いで映画を見に行った。それから色々あった。もうその映画を見た時から3ヶ月が経とうとしている。

 渋谷にある映画館まで2人井の頭線に揺られていた。水曜日の夕方の電車内は混雑してるというほどでもなかった。僕が独り言のように観てみたいとこぼした映画の名前を君は覚えていて、上映している映画館を調べてくれていたっけ。行きの電車では少し緊張している僕ら。新しく買ったスニーカーで靴擦れができていたかもしれない。でもそんな痛みも感じないまま駅を出て映画館まで歩いた。映画の上映まで1時間くらい余裕があった。2人とも映画を見に行くこととこれがデートになっていることに囚われすぎていて時間をどう潰すかなんて微塵も考えていなかった。隙を見てはスマートフォンで渋谷のお店を調べ合っていたと思う。出来るだけ2人ともバレないようにしていたと思うけれどぎこちない2人にはスマートフォンは救いだった。行きたい喫茶店があるから行ってみようなんて言われるがまま僕は君に付いて行った。ところがもうそのお店の閉店時間を過ぎていて結局2人は渋谷の街で途方に暮れていた。午前中は雨が降っていたけれど今はもうその雨は湿気と暑さだけを残してどこかへ行った。歩けば歩くほど汗をかきせっかく整えた髪型も崩れていく。出来るだけカッコいい自分を見せたいがために天然パーマを殺した前髪を必死に抑えていた。結局よくわからない居酒屋に入ってみたものの2人にはなんとなく居づらくてすぐにお店を出てまたフラフラと映画館方面に歩いて行った。

 『ウィーアーリトルゾンビーズ』もしかしたら初めてのデータで見るべき映画ではなかったかもしれない。独特な作りの映画でストーリーの暗い部分を無理やりかき消すように明るい演出。この映画を観たあとどんな反応をしていいのかわからない。予習していたものの思ったより映画好きのための映画という感じでなんて感想を言うのが正解なのか…。そんなことばかり考えて映画を観始めた。結局集中し切れなかったようにも思うが2人ともなんとなく満足していた。帰りの電車は2人とも席に座れた。並んで座りながら細々と映画の感想を言い合った。多分あんまり濃い感想は言えなくてちょっとだけ失敗したなとも思った。2人の行きつけのコンビニに行ってまだ一緒にいたいとばかりにダラダラと喋っていたが結局その日は解散する流れになった。いくじなしだなと僕も思うが野次馬は黙っていて欲しい。どれだけ緊張していたか。

 ふとそんな初デートのことを思い出して起きた朝。君から送られてきたラインのメッセージを読み返しながらこれからもそんな不安定な細い道を綱渡りするのかと心細くなった。あの映画を見に行った時に比べると今はもうずいぶん寒い。日が経つにつれて少しずつ厚着になり肌の露出も減っている。でも心はあの時よりさらけ出せていると信じたい。

 生きているのに死んでいると言い出した映画の登場人物達気がつけば生きることについての道を見つけた登場人物達。僕はその映画の前こそ死んでいる人間だったかもしれない。それでも今はまだ生きているし、君に会うのを楽しみにしている。2人で映画のような人生を送ろうなんて思わないがせめて映画化しても2人ともがいい感想を言い合える2人でいたいなと思う。1人台所で火をつけたタバコと共にまた君のことを考えていた。

 

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