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カワセミの新規個体発見

今年の4月からカワセミを追いかけ始めて、4か所でその姿を確認していたが、夏の暑さと共に、カワセミとの遭遇率は低下していく一方だった。

その内の一か所はホームともいうべき場所で、6月に出現率が安定していて、比較的ヤブ陰ではない光の回ったところで、水浴び・捕食・交尾と様々な生態を見せてくれた。

もう1か所でも、水浴び・捕食・交尾の姿が見えるものの、夏草が伸びてくると、写真的に撮りづらくなってしまい、そこには足を運ぶ回数も減っていった。

7月の声を聞くと、パッタリとホームでもその姿を確認できなくなり、鳴き声もなかなか聞くことが出来なくなっていた。

何度も、新規個体発見のために、沼ともつかぬ池ともつかぬ場所を中心に、目ぼしいところに偵察に行くのだが、どうしてもめぐり会うことが出来ないでいた。

9月3日、川沿いに車を走らせていた。舐めるように数ヶ所当たってみるが、なかなか気配はない。ふと、ある橋の上から見ると、それらしき飛行物体が川面に見え、ヤブに消えた。その時は、水面の反射で真っ黒にしか見えず、その確証はなかったが、2回目の飛翔で鮮やかなブルーの背中が見えてカワセミと分かった。

彼は、水門の下の狭いトンネルに入って、向こう側まで飛んだようだった。遥か彼方に飛べば、その姿が見えるのでは思って目を凝らすも、遠くには見えないので、付近に着地したように思われた。そっと近づくが、動かないカワセミを発見するのは至難の業だ。少しずつ移動していくと、10数メートルほど手前の草むらから飛び出して、また水門の狭いトンネルに潜った。

再び、橋の方に戻り確認したところ、トンネルの中もしくは端から出てきたように見えた。(後に推測するのだが、この水門のトンネルの中をカワセミは猟場として利用しているのではないか…。)再び、ヤブに入ったところで、携帯が鳴った。用件は2~3分で済んで、橋の上から覗くと、眼下数mの枝に止まっていて、すぐに飛び立ってしまった。

終始カメラを持っていたにも関わらず、撮影にまで及ばない。刀で例えるなら、刀を抜かせる間もなく、飛んで行ってしまう感じだ。田舎のカワセミほど警戒心が高いというが、ここのカワセミを撮影するのは、ウルトラC級だろうと思う。

翌朝、どうにも忘れられず、早朝暗いうちからその橋に向かっていた。身を隠せそうな位置を昨日確認済だった。そこからなら、昨日とまった枝の射程内だ。少しずつ明るくなるのを待った。僅かな私の気配を察したのか、鴨がゆっくりと上流に向かって泳いでいく。しばらくじっとしていると、その鴨たちも戻ってきて、うまく自分の気配は朝の空気に紛れているように思えた。

明るくなってからしばらくすると、

「チーーー」

自分の頭の上で声がしたような気がした。だとすると、姿を見られたようでマズイ。でも、今すぐに動くのはもっとマズイ。しばらく我慢することにした。

しばらくすると、また

「チ---」

と、橋の下で下流方向に飛びながら鳴いた。

橋の下のどこかにいるようだ。

また、身動きがとれない。見える枝にとまったのなら、撮影のステップに進めるのだが、見えない真下付近にとまったようだ。どこに止まったのか確認したいのだが、動けばおジャンになりそうだ。それでも、数分いや十数分待っただろうか、私はとうとう我慢出来なくなった。

そっとそっと、橋の下を覗き込んだ。(あぁ、とまりやすいあの支柱に…)と思った瞬間、彼は猛烈なスピードで飛び出して、私にコバルトブルーの背中だけを見せていた。

その後、もう一羽の個体を確認できたが、私が橋から下を覗いた時点で、ゲームオーバーだった。

6時18分。完全に根負けだ。





写真は、最後のシャッターを切る瞬間のみクローズアップされ、常に楽に撮っているものと思われがちですが、その前のプロセスにかなりの部分を割いているものです。暖かいお気持ちで、サポートいただけるご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。