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冷蔵庫が壊れた。

 壊れたかも。そう気づいたのは夕食のため冷凍ご飯を解凍しようとしたときだった。下段の冷凍庫を開けると普段カチカチに固まっているパンがやけにリアルに見えた。違和感を覚えつつご飯をつかもうとするとやわい。またやってしまったと思った。朝開けたときに半ドアにしたのだろう。
 氷だったはずのものはトレイの上でぴちゃぴちゃと水になっている。固く固く冷凍庫を閉めた。何度か開けて水が氷になっていないか確認する。水が氷になるまで通常2時間くらいかかるらしい。寝る前になっても液体は固まらない。少しおかしいかもしれない、けれど、今は夏だし。壊れたかも、直るかも、直らなかったらどうしよう、修理?買い替え?どうしよう、冷蔵庫が壊れるなんて、と考えを巡らせただけでひどく疲れた。いつもパンパンに詰めていたせいかもしれない。
 早めに就寝すると1時に目が覚めた。『氷!』暗闇の中冷凍庫を開けて氷皿に指をいれる。ぴちゃん。どうしよう。どうしよう。再度布団にもぐり明日の朝考えれば大丈夫、大丈夫、と言い聞かせる。朝になっても氷はできていなかった。こうなるともう私の脳みそは機能しない。テレビの砂嵐のようになり、何を考えても次の点と結びつかない。ザーザーと音が鳴る。自分のせいだ。いつも全部みっちり詰めていたせいだろう。買い物を億劫がりまとめ買いしているからだ。冷蔵庫すらまともに使えない。そんな人間いるだろうか?私には何もできない。そうだ!自転車だって上手く空気を入れられず今まで3回はパンクさせた!原因は空気がない状態で走り過ぎてダメになったり、いれすぎて走っているうちにダメになったりするんだ!何もできない!私には。砂嵐の中で彗星が飛び交う。落ち着いて、大丈夫、まず修理について。自分が持っている冷蔵庫の機種や保証期間内なのかを調べ、メーカーの修理ページに入力していく。自分の住所やなんかまで全て記入しないと次のページに進めない。なんとか進むと最短の修理受付は1週間以上先であった。しかも保証期間外で概算金額は予想より高い。仕方ない。新しいものを買うか。今ある冷蔵庫はもう売っておらず、似た物を買うことにした。翌日には届けてくれるらしい。さらに今あるものもお金を払えば引き取ってくれるらしい。便利な世の中だ。iPadを叩くだけで全部終わるのだから。予想外の出費ではあるがしょうがない。もし手持ちのお金がなかったらー、ない人の冷蔵庫が壊れたらー、どうなるのだろう。
 『ご注文ありがとうございます』のメールが届くと一安心した。荒れ狂う砂嵐が僅かに凪いでくる。お昼ご飯でも食べよう。冷蔵庫の中身は何も使えない。近所のご飯屋さんにテイクアウトの注文の電話をし、5分後にできるというのですぐに取りに行った。ご飯セット、というものに「大」と「小」があり、大と小しか選べないんだと何故か思い小にしてしまった。「普通」があるだろ、何度か注文したことがあるのに、もしかして前回も同じ間違いをしたのでは、もしかして自分の頭は悪いのでは、こんなミスをする人、いるんだろうか。ザー、ザー、砂嵐は渦を巻いて勢いを増す。ここのご飯は透明のプラスチックパックに入っていて、いつ頼んでも食べ物自体が発熱しているのではないかと思うほど熱々である。不思議だ。食べ終えた容器をゴミ袋に放り投げる。よく眠れなかったせいでずっと眠い。13時過ぎにベッドに転がり落ちて眠る。途中目が覚める。日差しが眩しくてアイマスクをつけて再び眠る。17時頃に目覚めて起き上がる。ようやく砂嵐が終わりチャンネルが合い始めた。といってもやることはない。明日冷蔵庫が届くまで自炊もできない。冷蔵庫の中身をゴミ袋に詰めていく。3つ、ずっしり重いものができた。まだ冷蔵室にはわずかに冷気が漂っている。夜、また同じお店に電話しテイクアウトを頼み、取りに行くついでにゴミを捨てる。うちのゴミ捨て場はプレハブのような感じで、いつでもゴミがある。冷蔵庫が壊れたんだから前日の夜に捨てたって良いだろう。ゴミ袋を3つ持ち上げると予想以上に重く腰が痛くなる。2回に分ければ良いのに。それすら分からない。何にも分からない。砂嵐に砂埃が混じる。ザー。また受け取って食べて捨てる。一日、パニックになって寝ていただけなのに夜は眠くなって嫌な夢を見て目覚ましの鳴る前に起きた。冷蔵室の中も生温かい。もう完璧に死んだ。私のせいで。
(続く)












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