クィアで聴き解くGARNET CROW①~「JUDY」の表象

GARNET CROWのいちファン(通称ガネクラ)りーぬ氏の投稿、「寄り添うJUDY抱きしめて」https://note.com/nue_mihe/n/n2a64825537e3

に啓発されGARNET CROW「JUDY」を視聴。

痺れに痺れ、以後曲が頭から離れなくなったので、りーぬ氏の記事の影響の下、私もみずからの視点による分析を披露してみようと思った。
俄かガネクラである私の視点など取るに足らぬものだし、りーぬ氏の足元にも及ばないが、りーぬ氏の分析にあやかって私の視点を披露することで新たな視点に気づける方がいるかもしれないし、何よりりーぬ氏の愛に満ちた分析をより多くの方に啓蒙出来るだろうとの思いから、及ばずながら筆を執ってみることとする。

まずこの「JUDY」であるが、りーぬ氏がまとめているポイントをまとめると、曲のモチーフはカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』。2005年にイギリスで出版された長編小説で、原題は`Never Let Me Go, 翌2006年には日本語に翻訳され、2017年にはノーベル文学賞を受賞した作品である。
内容の詳細は省くが、色々な理由で「子を産むことができない」ということが作品を一貫しているテーマであると言える。

この点について英語による原典も含め作品批評をおこなった北村紗衣氏によれば、物語の最終盤でエミリ先生という人物が「マダム」という人物のことを二度ほど「ダーリン darling」と呼んでいる事実から、この二人が「レズビアン」であることを看破している。「ダーリン」という呼びかけは日本語版では行われていないため、日本語版だけを読んだ者にこの点が明示されることはない。

「JUDY」の作詞者であるAZUKI七(以降、七さんと称す)が英語の原典を読んでいるかは定かでないので、登場人物が実はレズビアンというクィア(1)な存在であると果たして七さんが気付いたかどうかはわからない。だが、曲のタイトルを作品内で「子を産むことができない」ものの象徴として語られる「JUDY」とした点から、「子を産むことができない」(とされる)存在を曲のモチーフにしたのは間違いない。

りーぬ氏によると、この「JUDY」という楽曲は、いちアルバム曲に過ぎないものでありながら、ラジオ放送にGARNET CROWが出演した際には高い頻度で流され(りーぬ氏の記憶による)、9thアルバムをメインに行われたライブのアンコールの1曲目を飾るなどのほかに、フル尺のMusic Clipが存在する。こうしたことからりーぬ氏は、この楽曲はメンバーたちもお気に入りなのだろうと推測されている。
また、カップリングベストのアルバムである「GOODBYE LONELY 〜Bside collection〜」には、ボーナストラックとして「JUDY 〜English ver.〜」が収録されている。管見の限り、全楽曲を通してみてもこの曲以外で英語バージョンが作成されたものは存在しないのではなかろうか。

以上のような理由から、りーぬ氏の言う通り、この楽曲は他のアルバム曲の楽曲とは一線を画す作品だと言えるだろう。そしてそのモチーフは「子を産むことができない」ことである。ちなみにMusic Clipは、原作とは全く関係がない内容で、高校生とみられる男女が別れ、その別れ際に少年から贈られたクマのぬいぐるみを少女が抱きしめて眠りにつくというものである。

GARNET CROWメンバー一人一人をモデルに描かれたイラストが登場するなど見どころは他にもあるのでそちらに目を奪われがちであるが、少年から贈られたぬいぐるみを彼から授けられた擬制的な「子ども」であると見なせば、少女にとっては、彼とは決して子どもを作れない、「子を産むことができない」ことをぬいぐるみの存在によって突き付けられることとなり、その別れをリアルに痛感せざるを得なくなるのではなかろうか。
このように、Music Clipのなかの男女の表現とクマのぬいぐるみの存在は、「子を産むことができない」ことを容易に視聴者に想像させる装置となり得るのである。言うなればこのMusic Clipは、『わたしを離さないで』とは全く違う表象でもって、「子を産むことができない」という共通するモチーフを描いていると言えなくもないのだ。
そうであるとすれば、GARNET CROW、引いては作詞者である七さんは、「子を産むことができない」というテーマを持つ作品を「一線を画す」ものとして扱ったということができる。これはなぜなのか。

(1)クィアについての概念や位置づけとしては、『フェミニズムの現在』(現代思想 第45巻4号、青土社、2020年)を参照した。


【参考文献】
りーぬ「寄り添うJUDY抱きしめて」https://note.com/nue_mihe/n/n2a64825537e3

北村紗衣「隠れたるレズビアンと生殖-『わたしを離さないで』」(『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』書肆侃侃房、2019年



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