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エピソード74 朱の盆

74朱の盆

朱の盆は、真っ赤な顔で人を驚かせ、これにあった者
は魂を抜かれるともいわれている妖怪。

「諸国百物語」には以下のような話が記録されている
若い武士が、諏訪神社に朱の盆という妖怪が出ると聞
き、出向いてみた。
するとそこには自分と同じくらいの若い武士がいた。
その武士に「ここには朱の盆というものが出るそうで
あるが、貴殿はご存知か?」と聞くと、
「それはこのような者か」というなり、額に角、皿の
ような目、針のような髪、耳まで裂けた口を持つ、鬼
のような真っ赤な顔を見せてきた。武士はあまりの恐
ろしさに気絶した。
ようやく目を覚まし、夜道の中家に急いだが、ひとま
ず近場の家に飛び込んだ。
そこでは女房が1人で留守番をしており、安堵して先
の出来事を話した。
すると「それは大変な目にあわれました。してその化
け物はこんな顔でありましたか」といってまた同じ化
け物の姿に変わった。
武士は家を飛び出し、ようやく自宅に帰ったが、
100日間寝込んだ末に死んでしまったそうである。


74朱の盆 オリジナルストーリー

ここは会津のある武家屋敷、二人の侍が当主に呼ばれ
ていた。

当主:
小太郎、長次郎、今日来てもらったのは二人に頼みが
ある。最近我が領地の諏訪の宮に化け物が出て人々を
脅かしているらしいのじゃ。
そこで剣の腕では他の者より抜きんでている両名に何
とかこの化け物を退治してきて欲しいのだ。
頼んだぞ、小太郎、長次郎!

こうして化け物退治を依頼された二人は夕暮れに諏訪
の宮に来ていた。

長次郎:
やってらんね~!確かに、俺と小太郎は剣の腕には自
信があるよ、でもだよ......俺、お化けとか妖怪とか
子供の頃からまったくダメなんだよ!

小太郎:
長次郎、だからってお前飲み過ぎだぞ!
怖いからって酒に走って現実逃避してるんじゃない!
会津の武士の名折れだ。

こんな話をしながら二人は諏訪の宮の境内に入って行
った。
すると境内には二人とそう変わらない若い侍が一人立
っていた。

小太郎:
長次郎見ろ、きっと我らとは別に化け物退治を依頼さ
れた仲間が先に来て化け物が出るのを待っているんだ
三人ならば心強い、きっと化け物も討ち果たせよう!

もし、貴殿も我ら同様化け物退治に来たのか?
ならば三人で力を合わせて一緒に化け物を討ち果たそ
うぞ!

先に来ていた侍はニコリと微笑み三人はそれぞれ背中
を預けて、どこからでもかかってこいとばかりに身構
えた。

...時が過ぎ、寺の鐘が鳴った。

小太郎:
なかなか化け物め出てこないな。
ところで貴殿、名はなんと申される。

小太郎は横の若い侍の方に振り向いた。

若い侍:
ワシかワシの名は「朱の盆」じゃ!

振り向くと侍の顔は額に角、皿のような目、針のよう
な髪、耳まで裂けた口、そして鬼のような真っ赤な顔
だった。

小太郎はあまりのことに驚き気絶し倒れてしまった。

朱の盆は小太郎にのしかかり噛みつこうとしたが、
もう一人いるのを思い出し長次郎に飛びかかった。

しかし、長次郎は酒の飲み過ぎで酩酊状態、しかも顔
も朱の盆と変わらないほどに真っ赤になっていた。

朱の盆:
お、お前もワシの仲間か?まったく気付かなかったぞ
ならば一緒にこの侍を食らおうぞ。ワハハハハ。

長次郎:
だ、誰がバケモンだ。
お、俺は会津に長次郎様ありと言われた剣豪だ覚悟し
ろ! 

そう言うと長次郎は抜刀した刀で一閃、朱の盆の顔を
真っ二つに切り裂いた!

二つに割れた朱色の盆が地面に落ちると化け物の身体
は霧のように消えて行った。朱の盆はこの神社に祀れ
ていた盆が邪気にあてられ付喪神になったモノだった

長次郎はフラフラと小太郎の所にたどり着き小太郎を
起こすが、逆に長次郎が酔いつぶれて倒れてしまった

目を覚ました小太郎は二つに割れた朱色の盆を見てこ
との顛末を理解した。

そして小太郎は長次郎を負ぶって屋敷に帰った。
そして、酔ってまったく記憶の無い長次郎の代わりに
正直に自分は気絶してしまい、長次郎が朱の盆を倒し
たと報告した。

当主:
小太郎、長次郎が全く覚えていないならお前ひとりが
手柄を独占できたものを。
しかし、その正直さ我が家臣としてワシも鼻が高い!
よしこの二人に沢山の褒美を与えるとしよう! 
ところで長次郎お前はこの屋敷での深酒は厳禁とする
屋敷を壊されてはたまったもんじゃないからな。
ハハハハハ。

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