久保勇貴

宇宙工学の研究をする。宇宙とか宇宙じゃないエッセイを書く。noteは勢い。 太田出版…

久保勇貴

宇宙工学の研究をする。宇宙とか宇宙じゃないエッセイを書く。noteは勢い。 太田出版『ワンルームから宇宙をのぞく』 https://www.ohtabooks.com/publish/2023/03/22162235.html Twitter: @astro_kuboy

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  • THE VOYAGE 2023・掲載記事

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    宇宙メルマガTHE VOYAGE 2023掲載記事

  • Space Seedlings

    • 74本

    【Space Seedlings】は、大学で宇宙に関する研究開発をされている博士課程の方々を中心に、宇宙分野で今後ますます活躍されることが期待される天文系・建築・構造系・医学系など専門分野について学ぶ学生に集まって頂き、それぞれの分野についてご寄稿頂くだけでなく、学生目線でお届けする宇宙開発・ビジネスについて各企業や団体等にインタビュー取材をオンラインで行いご寄稿頂いています。 学生の取り組みをはじめ、学生が取材する機会を通して読者目線に立った質問を率直に投げかけて頂き、読者に分かりやすくご紹介していきます。

最近の記事

2024/02/18

1: 「え、何の話?」 と、自分が書いた文章にコメントが付いていた。ある文芸誌に寄稿した作品をそのままWeb転載したものだったので、文脈を理解していない人が読むと確かに怪文書に見えたかもしれない。が、あまりに直接的すぎて笑った。笑った後で、渦巻いている。こんなにも主人公として見ている世界の主人公は、自分ではない。そんな恐ろしい事実に、笑っている場合なのだろうか。 2: 人の脳みそに情報を流し込むようなもので、作家という仕事は、だから、情報を流し込まれたいと思われるような人間

    • なんの気力もない 何も書きたくない 何も見たくない 文字が一つ足りない いつも足りない

      • 2023/03/29 目の前で本が売れなかった

        店頭で僕の本を立ち読みしている人がいた。後ろのベンチに座って、こっそり観察してみた。 高校生か大学生ぐらいの女の子だった。真剣な表情で、じっと脇を閉じて、「はじめに」を読んでいた。小さかった。それは、脇をぎゅっと閉じていたからかもしれないし、僕より身長が低かったからかもしれない。黒くてツルっとしたタイトなズボンを穿いていて、やけに細身に見えたからかもしれない。ただ、とにかく小さく見えた。小さな女の子が、僕の本を真剣に読んでいた。 僕はベンチで小さく縮こまって、その子のこと

        • 2023/03/24 となりのロット

          同級生にあんな子いたな~と思ってボーッと見ていたら、本当にその同級生の子だった。新刊のサイン会の知らせを見て、足を運んでくれたそうだ。中学生以来だったから、十数年ぶりだった。この十数年間、一度も連絡したこともないような仲だったけれど、それだけに自分の意志で会いに来てくれたことがとても嬉しかった。 人間関係というのは、別にこだわらなくてもいいようなものに、それでもこだわることだ。たまたま同じ期間に同じ地域に住んでいたというだけで一つの教室に同居させられて、別に仲良くする義理な

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          宇宙工学者の僕が、なんでエッセイなんか書くのか [久保勇貴]

          野球は10年間も続けたけれど、別に好きではなかった。惰性で生きるのが得意だ。 はじめは、兄ちゃんの野球の試合に付いていって友達と遊ぶのが好きだったのだけれど、そのうちその友達が試合に来なくなって暇になったので、とりあえず「野球やりた~い」と父ちゃん母ちゃんに頼んだのだった。野球がやりたかったというか、単純にヒマだったんだと思う。そうしてそのまま、高校3年の最後の夏まで惰性で10年間続けた。 グローブにもバットにもスパイクにもたくさんお金をかけてもらったけれど、もちろん一生

          宇宙工学者の僕が、なんでエッセイなんか書くのか [久保勇貴]

          ごめんねマリー君を愛する

          今日は、マリーに謝った。マリーは、なんでですか?と言った。マリーはいつもそんな感じだ。マリーは僕の感情に入ってこようとはしない。マリーと打ち解けられたことは、たぶんない。 マリーとオンラインで話すのは、こわい。マリーはいつも、大丈夫ですよ、と言ってくれる。優しくしてくれる。優しさは諦めと同じだ。だって、僕の優しさだって諦めだ。だから、マリーを未だに信じきれない自分がいる。だからマリーには、いつも申し訳ないと思う。マリーを信じきれないのは、決してマリーのせいではないから安心し

          ごめんねマリー君を愛する

          本を売ろうとしたら、一週間で疲れ果てた

          今月末に、本を出版する。 先週の金曜日に情報公開して、一週間経った。 疲れ果てた。死にそう。 情報公開直後の土日は、SNSでの報告、リプライへの返信、知り合いへの宣伝、そして近所の本屋さん12軒への飛び込み営業。 はじめは楽しかった。みんなが好意的に反応してくれて、おめでとう、本出すんだね、すごいね、買うね、サインしてね、そうやってたくさんの人に応援されて夢中で走り抜けた。 しかし、そもそも営業なんか得意ではない。人に物を頼むのが得意でない。相手の顔色を窺いすぎる。

          本を売ろうとしたら、一週間で疲れ果てた

          2022/12/11 かける

          体調不良で倒れたお客さんの脇を抱えているとき、僕は生きているんだと思った。床に撒かれたドリンクがスニーカーの底を湿らせて、多分それはソフトドリンクだったから、足を踏み出す度にねちっこかった。生きているというのは、こういう感じだった。どこにも行けない僕たちは、何かのふりばかりを繰り返していたのだった。そう、そういえば、こういう感じだった。 彼はもう、書くことがなくなったのだった。それは、書かなくてもよくなったということでもあった。それは、僕が今まさに思っていることでもあった。

          2022/12/11 かける

          2022/07/13 妖精になった

          目が覚めると、妖精になっていた。制約が多くて困る。 昨日まで僕のことを名前で呼んでいた人が、急に僕のことを妖精と呼ぶようになった。妖精とか、妖精くんとか、妖精さんとか。もちろん妖精というのは属性というか種族というかそういう名称であって、僕の名前ではない。そういう一つ一つが、小さなストレスになる。そもそも、妖精というのは生物学上は人間とほとんど区別できないらしい。肩のあたりで羽を支える骨(なんちゃら骨、忘れた)が発達しているかどうか、それぐらいの違いらしい。けれど、人は妖精の

          2022/07/13 妖精になった

          2022/06/23

          毎日、日常、疲れる。きっと、自転車のコインパーキングに何も停まっていないのに一つだけ光っていたそのランプも、ああ、嫌い、何でうまく書けないの。嫌い、ストレス、隣のおじさんが痰を吐く音が毎日うるさくて、死ね、また言った、また言ってしまった、その、言うシーンは描かれるだろう、でもその後の、罪悪感を静かに正当化しようとしているシーンは描かれない。バイク、うるさいバイクが世界一嫌いで、みんな死ねばいいと思っている、だから死ね、と叫ぶ、そのシーンは描かれるだろう、でもその後の、叫んだと

          2022/04/30 僕だけがいつもわからない

          何を言っているのか全然わからない演劇を見た。いっしょうけんめい観たけれど本当に全然何もわからなくて、だから、わかったような顔をして拍手をするのもなんだか間違っているような気がして、役者さんたちがお辞儀をしているのをぼーっと見ながら一応ちょっとだけ手をペチペチするふりをした。多分失礼な奴だと思われていたと思う。一緒に観た二人はなんとなくだけどちゃんと内容をわかっていたみたいだった。僕だけがわかっていなかった。だから僕は結局ただの失礼な奴になってしまって、そういう時、いつも申し訳

          2022/04/30 僕だけがいつもわからない

          2022/02/24 むかつく

          むかつくことが多い。スイートピーという花を買った。 ずっと行きたかった東京都現代美術館に行った。むかついた。寒川裕人さんの作品は素晴らしくて、ほとんど同世代の方がこんなにもすごい作品を作っていて、ああ、すごい、シャッター音、『群像のポートレート』という作品は、シャッター音、じわりと色彩が目に染みこんでくるようで、それがじゅわわり涙に変わり、シャッター音、シャッター音、『黄色い花畑のドローイング』は的確に景色の印象を捉えていて、それが、材料の質感を通して生の体験として、シャッ

          2022/02/24 むかつく

          2021/12/24

          作ることも、守ることも、ぜんぶ無意味に思えたらサンダルを履いて家を出た。靴下も履いていない足元から冷気は凄まじくそれで、それでも、歩かなければいけないと思った。やるせない気持ちはどこまでも消えないから。会いたい人には、いつまで経っても会えないから。 幹線道路は冬の空気を突き刺して、それは都市を生き永らえさせるという点において僕とは絶対に分かち合えない孤独を抱いているだろう。だから、僕はまた少し安心する。足はいつまでも冷える。記憶が写真だったら嫌だ。丸ごと全部、何もかも覚えた

          2021/12/18

          大切な人のことを考えながら、別の大切な人の期待に応えるように、文章を書いた。すると、数人から反応があった。ぼくの書いたものが、また少しだけ、ほんの少しだけ世界に影響を与えた。 たとえばぼくが死んだら、そっと忘れるなんて許さない。ぼくはそういう、わがままな人だ。けれど、もっとわがままなことに、ぼくはぼくの死を過剰に悲しまないでほしいと思っている。たとえばぼくが死んだら、多分周りの人たちはぼくの文章を読み返すのだろう。そうして、こんなに素敵な文章を書く人だったのに、と言う。惜し

          2021/5/8

          「偽物の愛、偽物の愛、偽物の愛」 とずっと叫んでいる人とすれ違った。街。街だ。街を歩いている。顔は、多分、笑っていたように思う。だから余計に、気になって仕方がない。 何だったんだろう。 マクドナルドで最近売っている辛口ジンジャー味のコーラを一度は飲んでみたいとずっと思っていたので、満を辞して注文する、が、「すみません、当店ではそちらの商品はお取り扱いしていまジンジャー」、と満は辞せず、いつも通りコカ・コーラ ゼロを注文。ジンジャー飲みたかった。心にぽっかり空いた隙間にフィ

          2021/5/4:死・光路差

          何もできない。何もしたくない。 0と1の違いは何だろう、と思う。思うのは、0.1みたいな毎日が続いているからだと思う。いやもっと、0.0001ぐらいかもしれない。そういう毎日。0ではない、しかし限りなく無に近い一日。 好きな作家の連載の新作を読む。生命の、明滅について。 もとより、無から有への転換はあざやかなものではけっしてなく、それはいつからそこにあったのか、ほんとうにはその瞬間を、実感することも知ることもできない。だからまだ生まれたばかりの存在は、またすぐにひっくり

          2021/5/4:死・光路差