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そうだ、ヒッチハイク、しよう⑲ 青森再訪編


West End Girls

ヒッチハイク旅だというのに新幹線に乗る

ヒッチハイク旅も29日目。
今日は札幌から新幹線に乗って青森へ戻る。
ヒッチハイクで全国を回るというコンセプトの貧乏旅において何を寝ぼけたことをほざいているのかと言われそうだが、そりゃヒッチハイクで津軽海峡は越えられないし、かといって往路で使ったフェリーにもう一回乗るのも何だか芸がない。
そして何より、私は一度でいいから青函トンネルを通ってみたかったのである。

青函トンネル。青森と函館を結ぶ日本一の海底トンネルで、津軽海峡の海底の地中に掘られたその全長は53.9キロにも及ぶ。
海底を新幹線で走るなんて、浪漫以外の何者でもない。その体験の為に私はわざわざ高いお金を出して新幹線で帰るという手段を選択した。
無論、安全第一の海底トンネルにわざわざ窓なんかが設置されているはずもなく、トンネル内は真っ暗で何も見えないというのは容易に想像がつく。
それでも…それでも!そこにはヴェルヌから連綿と語り継がれる海底冒険の浪漫への憧憬が詰まっているのだ。

結果から言ってしまえば、そりゃもちろんトンネルは真っ暗で景色もクソもなかった。
ただ、トンネルに入る前にはちゃんとアナウンスしてくれるし、中を走っている間は青函トンネルの紹介などして気分を盛り上げてくれるので良かった。
帰り道に新幹線を選択したことに後悔は無い。でも新幹線の運賃って何であんな高いの。


Love Etc.

そうして到着した青森。青森に帰って来てまず最初に行きたい場所と言えば、そう、青森まちなか温泉である。これで三度目。すっかり常連客だ。
実を言うと、この後はとある女性と会う約束があり、しかも今夜はその人の家に泊めて貰うことまで決まっていた。

と言うのも、この旅はヒッチハイクで他人の優しさに頼りっぱなしになる訳で、私も人から優しくされる為の努力は惜しまないようにしている。その努力の一端として、少しでも誰かに優しくして貰える可能性があるならばと、リアルヒッチハイク だけでなくマッチングアプリや18禁SNSなども駆使した謂わばネットヒッチハイクも同時進行しつつ旅を続けているのだ。
まあ私は一箇所にあまり長く留まることはないので、マッチングアプリでマッチしても会う約束をするような段階の頃にはその場にもういないことがほとんど。
今回も北海道に移動した後に青森でマッチしていた女性とやりとりしていたのだが、そう、青森には戻ってくる必要があったので今日会う約束を取り付けることに成功したのだ。
しかも家に泊まって行っていいよ、とまで言われたのでこれはもう会うしかない。まだ会ってもいない女性の家に泊まる約束をするなんて破廉恥だと言われるかもしれないが、貧乏旅なので宿泊費を節約するために仕方がないのである。うん。

と言う訳で青森駅で待ち合わせ。駅までは車で迎えに来てくれると言うので、色んな期待を膨らませつつ車を待つ。
日もいい感じに暮れ始め、辺りが仕事帰りの車で混み始めた頃に合流。軽自動車の運転席に見える年上の女性との挨拶もそこそこに、そのまま車に乗せて貰う。
「さすが旅してるだけあってリュックが大きいねえ。とりあえず家に一回荷物置きに行こっか」
私はこういう時の相手の女性を上手く表現する語彙を持たないので直接的な表現をするしかないのだが、一言で表すとしたら、車内はハローキティで満ち満ちていた。

そんなこんなで青森のギャルことギャル子さんの家に到着。家で出迎えてくれたのは夏美さんより元気で強烈な彼女のお母様。
何が強烈って、彼女たちの津軽弁だ。ギャル子さんはまだ私に気を遣ってか、少し標準語に寄せて話してくれているおかげで6〜7割は言ってることが分かるのに対し、お母様は正直言って3割分かっていたかも怪しい。
「〜だず?」と何かを聞かれても、曖昧な笑顔で「ずぅ…」と返すしか出来ない。
ここまで割と色んな方言と話して来た方だと思っていたが、同じ日本語でここまで異質な言語になるとは。

荷物を置いたらそのまま飲みに行く流れかと思いきや、ギャル子さんから女装して飲みに行こうとの提案。
何度か説明したかもしれないが、私は女装姿のまま公共の場に赴くことがあまり好きではない(トイレが何より面倒臭い)ので乗り気はしなかったのだが、ギャル子さんとお母様のキラキラした期待の瞳に折れて着替えることに。
着替えたら着替えたで、由美子ちゃん由美子ちゃんと可愛がって貰えたし、化粧の話なんかで盛り上がって、まだ同級生がいた頃の大学時代を思い出したりした。

そのまま居酒屋に繰り出して軽く食事とお酒を飲んだ後は、マックスバリュで追加の酒とおつまみを買って宅飲みにて第二ラウンド開始。
私は大好きなカルアミルクを買って貰ったのでついつい飲み過ぎて、いろんな話をしたがほとんど覚えていない。いや、津軽弁のせいでそもそも理解していたかも怪しい。それでも楽しかったのだから、お酒の力ってすごいなと思った。
この辺で察しのいい皆さんならお気づきかもしれないが、期待していたような事は起こらなかった。楽しくお酒を飲んでワンルームのアパートで三人川の字で寝た。
まあ私は会う以前の段階で、家には母がいるけどそれでもいいなら泊まっていいよ、と言われていた時点で無いだろうな、と思ってたけれどね。


New York City Boy

三内霊園は墓地でありながらきっちり整備されて地味に観光スポット

30日目は10時頃に起床し、二人とダラダラお喋りをしながら昼過ぎまで家でのんびり過ごす。
そうしている内に外は雨が降り出して来た。雨具を持ち歩いていない以上、雨の中の移動はどうしても濡れてしまうし、濡れたままで人様の車に乗せて貰うのも気が引けるので、雨の日にはヒッチハイクはお休みと決めている。
だもんで二人さえ良ければこのままもう一泊させて貰いたい気持ちもあったのだが、二人はこれから妹さんに会う用事があると言うので、気を遣わせない為にも電車で移動しますと言って駅まで送って貰うことに。
まだ小雨の降り頻る中を車で移動し、駅に着いたら記念に写真を撮ってハグしてお別れ。エネルギッシュで実に楽しい二人だった。

お腹が空いたので駅の近くで食事を済ませ、バスに乗って快活へ。
今日は移動をしない休養日だ。そう言えばこの旅において雨で足止めを食らっての休養は初めてな気がする。今はまだ5月だが、これが6月になって梅雨に入ると、雨のせいで移動できない日なんかがもっと増えてくるかもしれない。
それを思うと憂鬱なだあと思いつつ、これからの晴れの日を一日一日大事にして行こう、と誓って快活で惰眠を貪った。明日は秋田へ行けるといいな。

道の駅 碇ヶ関

31日目。運よくこの日は晴れたので移動再開。
青森から秋田へ向かうべくヒッチハイク場所を求めて道の駅へ。この碇ヶ関には秋田ナンバーの車も結構停まっていたので、ここなら大丈夫だ!と思いホワイトボードに「秋田」の二文字を書いてヒッチハイク開始。
ところが意外と拾って貰えない。散歩している犬と戯れたり、小学生くらいの女の子が(多分そばにいた父親に言われて)「応援してます!」と言ってポカリを差し入れしてくれるなど嬉しい出来事は起こりつつも、肝心の乗せてくれる車が見つからない。
しばらく待っている内に声を掛けてくれた女性がいたのだが、多少目的地がずれており、それでも少しでも秋田に近づけるなら大丈夫です!とゴリ押ししたら「ちょっと旦那に聞いてみてからまた声を掛けるわ」と言って消えたきり帰って来なかったりした。
多分、女性と思って声を掛けたら男性だったからかな、とその時の会話の雰囲気を思い返して考える。そう言えば差し入れの女の子も、私がありがとうを言った瞬間、ちょっとフリーズしてた。
女のフリ作戦もどうやらメリットばかりでは無いらしい。

そんなこんなで2時間が経過。うーん、もしかしたらダメかもしれない。かと言って他に良さげなヒッチハイク場所も見当たらず、いよいよ電車での移動を視野に入れ始めたその時、沖縄から来ていると言う老夫婦が声を掛けて下さった。
老夫婦とは言っても、60過ぎて二人で車中泊しながら気ままな旅行をしているのだからまだまだ現役だ。
二人は沖縄からフェリーで車を大阪まで運び、その大阪からずっと車中泊をしながら道の駅を巡って北へ北へと旅をして来たのだと言う。そのまま北海道へ向かう予定だったが、あまりの寒さに耐えきれず、諦めて青森から秋田へ引き返すところだったらしく(この辺が沖縄らしい)秋田まで乗せて貰うことで合意。
秋田駅までは行かないと言うので、秋田の道の駅に降ろして貰うことに。それでもここで秋田行きを探し続けるよりは、秋田の道の駅から秋田駅に向かう車を探す方が見つかる確率も高そうだ。

という訳で夫婦水入らずの車にお邪魔する形で出発。
車中泊の旅と言ってもキャンピングカーに乗っている訳ではなく、ファミリーカーぐらいの大きさで黒のカーテンを装着しただけの車だが、後部座席を倒せば二人寝るくらいのスペースは十分にある。
道中は北海道に行けなかった彼らの代わりに私の北海道話を存分にしてあげたし、沖縄に行けない私の為に地元の話を沢山して貰った。
実家で祖父祖母と同居している私はお婆ちゃん子を発揮し過ぎてしまい、奥様の方に痛く気に入られたようで、
「お腹空いてるでしょ、コンビニで何か食べ物を買ってあげる」
と途中のコンビニに寄った際に、
「これ少ないけど、気持ちだから」
と一万円札を渡された。
おにぎりを二つも買って貰っただけで十分嬉しかったのに、突如現金まで貰ってしまい戸惑う私。
「いえいえいえ、流石にこれは頂けないです!!ご飯買って貰っただけで十分有難いです!!」
「いいのいいの、気持ちだから。あ、旦那には内緒ね」
そう言ってウインクをしながら無理やり私の手の中にお金をねじ込んで来る奥様。
さっき会ったばかりでお互いの名前も知らない間柄だというのに、そんな見ず知らずの人間に1万円も渡せるなんて、沖縄の人の優しさは異常すぎる。

さらに、乗せるのは道の駅までという話だったのに、奥様はあまり乗り気じゃなさそうな旦那さんを強引に言い包め、結局秋田駅まで送って貰うことに。
途中でいくつかの道の駅を経由。ただ休憩しているのかと思いきや、
「これを集めるのが楽しくって」
そう言って奥様が取り出したのは道の駅スタンプラリー帳。
なるほど、そういう楽しみ方もあるのか。御朱印だったり名城スタンプだったり、人は何故こうも何かを集めることに夢中になるのだろうか。
余談だが、私は本を買った際にページに挟まってる新刊案内を集めるのが好きだった時期がある。

秋田駅へ到着し、ご夫婦に厚く厚くお礼を言って車を降りる。
私が駅に送って貰うのは、大きい駅には大体どこでも傍に快活があるからだ。
車中泊で日本を回る沖縄の夫婦と、他人の車で日本を回る私と、二つの旅が奇妙な巡り合わせで重なることが出来たことを思うと、縁とは本当に不思議なものである。
今回は沖縄に行くことは出来ないが、旅が無事終わったら記念の打ち上げとして普通に沖縄旅行に行くのもいいかもしれない。そしたらまたきっとご夫婦に出会ってお礼を言うことも出来る気がする。
そんなことを考えながら快活へチェックイン。まだ日も暮れてはいなかったのだが、道の駅でだいぶ待った疲れもあってぐっすりと眠ってしまったのだった。



おまけ 今回の移動まとめ

  • 札幌-函館-新青森 新幹線(青函トンネル)

  • 青森-碇ヶ関(青森) 電車

  • 碇ヶ関-秋田 ヒッチハイク(13台目)


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