そうだ、ヒッチハイク、しよう⑯ 北海道編 前編
銀の龍の背に乗って
到着を労うかのような快晴、澄んだ空気。ここは新天地、函館。
フェリーを降りて出迎えてくれた看板を見て、いよいよ自分が北海道にやってきたことを実感する。九州を出発してまだ一ヶ月も経っていないが、なんとかここまで来れた。
とにかく北海道は北海道にしか無いものが多すぎる。
例えばセイコーマート。北海道と言えばコレ。地域密着型のコンビニで、北海道はこれがあるからもし日本から独立しても戦える。北海道にしか無いと書いたが、実は関東にほんの数店舗だけ出店してるらしい。
離島や地方において荒天などにより配送が出来ない場合でも商品が販売出来るように、と店内調理で賄えるホットシェフというサービスが開発されたのだがこれもまた美味い。カツ丼とか特に。
因みにセイコマは北海道全体でよく見られるが、ここ函館においてはもっとローカルなハセガワストアというコンビニが存在する。
名物は焼き鳥弁当なのだが、この焼き鳥は豚肉である。
何を言ってるのかわからないと思うが、落ち着いて聞いて欲しい。
函館を中心とする道南では、単に焼き鳥と言えば豚串のことを指す。鶏を使った焼き鳥の場合は、わざわざ鶏肉の焼き鳥と言わなければならないのだ。
ここは異国か?
函館に到着してまず腹ごしらえと来たら、大体の人間が行くであろう函館名物ラッキーピエロ。
函館にしかないハンバーガー店でありながらその人気は凄まじく、観光客だけでなく地元の人間も足繁く通う。全国ご当地バーガーで一位にも輝いたらしい。
人気メニューはチャイニーズチキンバーガー。
そんでもって店内はエルヴィスを全面に押し出したオールドアメリカンなスタイル。チャイニーズだったりアメリカンだったり忙しい店だな、と思いメニューを見てみれば、そこにはカレーやらオムライスやら焼きそばの文字まで。
ここはハンバーガー屋じゃなかったのか?
気になって仕方がなかったのでオムライスとチャイニーズチキンバーガーを注文してみた。だいぶお腹空いてたので行けるだろう、と踏んだのだが、オムライスが本当に大きくてハンバーガーは手付かずのままお持ち帰りする羽目になった。
そしてこのラッキーピエロ、私は一店舗にしか行かなかったので気付かなかったのだが、どうやら各店舗で内装、メニューもそれぞれ違うらしい。今回私が行った店舗だけがエルヴィス推しなだけで、他の店舗は全然雰囲気も違うということだ。
…北海道ってなんか好き勝手し過ぎじゃねぇ?
ひとり上手
流石は九州から最も離れた土地だな、とそのカルチャーショックの大きさに目眩すら覚えながら五稜郭を観に行く。そう、ゴールデンカムイのクライマックスで有名なあの五稜郭である。
五稜郭最大の特徴である星形という全体像は、五稜郭タワーに登って上から見なければ実感しにくいところではあるのだが、如何せんそのタワーで順番待ちをしている長蛇の列を見た瞬間に「あ、なんかもう良いや」と思ってしまったので引き上げた。これもまた一人旅の良いとこではある。
時計は17時を回って良い感じだったので船旅の疲れを取るべく温泉へ。
しっかりリフレッシュして喫煙所でタバコを吸っていると、そこにいたおじさんに声を掛けられた。
「この温泉に入ってくる時にホワイトボード持ってたけど、君もしかしてヒッチハイクしてるの?」
確かに私はまだ福岡、下関、神戸の三回しか使っていないホワイトボードを常に持ち歩いている。
「そうです!熊本からここ北海道までヒッチハイクで来たんですよ〜」
「熊本!?そりゃすごいね。そんでこれからどこ行くの?」
「とりあえず札幌に会いたい友人がいるので札幌を目指します。そのあとはまだ未定ですね」
「札幌かぁ。俺は明日札幌方面に行くんだけど、良かったら乗ってく?」
「…え!?いいんですか?」
「いいよ。いっぺんヒッチハイカー乗せてみたかったんだよ。俺は今日この温泉に泊まるんだけど、君は?」
「近くのネカフェに泊まるつもりです」
「そっか。じゃあ明日この温泉の入り口のとこで待ち合わせにしよう。チェックアウトの時間の朝9時くらいに」
ああ、なんということでしょう。
とうとう私はホワイトボードに行先を書くまでもなくヒッチハイクに成功してしまったのです。所要時間にしてゼロ、いや、マイナス秒。間違いなく今旅での最短記録。
自分のヒッチハイクの才能に震えながらネカフェまでの道のりを歩く。
ヒッチハイクってこんなに楽勝なのか?私の運がいいだけなのか?
ネカフェに到着したら明日に備えてすぐに就寝準備。約束したのだから絶対に寝坊するわけには行かない。
と、ここで重大なことに気付く。
あれ、私あの人の名前も連絡先も聞いてないや。
つまり私が万が一にも寝坊したら当然OUT。約束したおじさんの気が変わってしまってもOUT。待ち合わせの時間や場所を少しでも勘違いしてたらOUT。
調子こいて「ホワイトボード使うまでもなく成功!ヒッチハイクってこんな簡単なんや!」みたいなツイートをした手前、明日になって「やっぱ乗れませんでした」は結構恥ずかしい。
電話番号、いやせめて名前だけでも聞いておけば最悪フロントで所在を確かめたりも出来たろうに、と後悔するも時すでに遅し。
ウキウキ気分から一気に不安だらけの夜となり、正直ほとんど眠る事ができなかった。
空と君のあいだに
こうして迎えた25日目。
果たして本当に約束通りに乗せて貰えるのだろうか。期待し過ぎているとダメだった時の落胆も大きいので、半信半疑で待ち合わせの昨日の温泉へと向かう。
正直言って約束したおじさんの顔はもうおぼろげにしか思い出せないが、向こうにしてみれば顔は覚えてなくてもこんだけ長い髪はきっと忘れ得ない特徴だろうから見つけて貰えるだろう。
つまりおじさんが私を見逃してしまえばそこで終了。なるべく目立つように入り口の真前に陣取って彼を待つ。
約束の時刻を数分過ぎ、もしかしてダメか…?と不安になってきたその時だった。
「お待たせ!」
サングラスをした男性がフーガで颯爽と登場するのを見て、あれ?こんなイケイケな感じだったか?と思ったが声を掛けてきたのだから彼には違いない。
良かった、本当に良かった、疑ってごめんなさい。
所詮ただの口約束、それも初対面で名前も名乗りあってないような仲なのにしっかり約束を守ってくれるおじさんを見て、世の中は本当に捨てたもんじゃないんだなと改めて思った。
「実は写真を撮ってインスタにアップするのが趣味でさ。ちょっとあちこち寄り道しながらになっちゃうけどいいかい?」
初めて北海道を訪れる私にとっても願ってもない提案だ。
そんな訳で函館から札幌まで5時間以上にも及ぶ長い道中を彼と共に行くことになったのだが、会話は程よく弾むし、向こうからも積極的に話を振ってくれるのでかなり過ごしやすい。
まずは大沼、小沼をぐるりと一周しながら観光。
ニセコではおじさんが突然、
「あ!!ここインスタで見たことある!!!」
と叫んで車を止めて写真を撮り出す。
私たちの車は積丹半島を周って神威岬に到着。おじさんが写真を撮るのを一番楽しみにしていたスポットなのだが、とてつもない強風と寒さに負け、到着の第一声が
「売店でポストカード買うからそれでいいや」
と言って結局車を降りても売店にしか寄らなかったことも含めてこの人が好きだ。
本来彼の目的は札幌市内ではなくそこより少し手前の地点に住んでいる友人に会うことなので、札幌手前まで送ってもらうという約束で乗せてもらったのだが、なんだかんだ結局札幌駅まで送ってもらった。
こういうことはヒッチハイクをしているとよくある。
もちろん乗せて貰う側からしたら、少しでも目的地に近づけるのならそれだけで十分有難いことだから文句などありようも無いのだが、この最後の一押しを引き出すのは結局のところ、乗せて貰う側の人となりや乗車中の会話などが大きいのだと思う。ヒッチハイクの才能ってそういうところに現れるんじゃ無いだろうか。
札幌市の中心部で降ろしてもらい、おじさんに礼を述べて別れる。
北海道で会う予定の友人シル君との待ち合わせまではまだ少し時間があったので駅近の快活で仮眠を取って準備万端。
シル君も内藤君や黄色さんと同じゲーム仲間の一人なのだが、北海道に住んでいるという都合上、実はこれまでゲーム仲間はまだ誰も会ったことがない謎の人物。
そんなシル君との初めての逢瀬を次回、乞うご期待。
おまけ 今回の移動まとめ
函館-(神威岬経由)-札幌 ヒッチハイク
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