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東南アジア横断陸路縛り旅 ①出発・ダナン編

まだ日本一周も道半ばだと言うのに、こいつはどうして海外なんて行ってるんだと思われるかもしれないが、要はちょっと日本の事を書くのに飽きてきたので、気分を変える為にも昔行った海外の旅を振り返って、少しでも外国の風を感じたいと思ったのだ。

これは新型コロナが世界を脅かす直前、2019年の秋に行ったおよそ三週間の海外旅行の記録である。今回も勿論一人旅だ。
日本一周旅のテーマがヒッチハイクと全都道府県制覇であるのに対して、この旅のテーマは「陸路国境越え」だった。
4年も昔の話なので当時の事を鮮明に思い出すのは難しいかも知れないが、印象深かった出来事を中心に、沢山撮った写真を使って思い出に浸りながら当時を振り返っていきたい。



東京から旅立つ

埼玉県にある戸田競艇場

「最初のコーナーを曲がり終えた瞬間に、もう勝負は大体決まってるんだよ」
そう言って今まさに目の前で1号艇が一着でゴールを決めたレースの舟券を破り捨てた彼を真似て、私も自分の手の中の舟券をビリビリに破こうとしたのだが、少し悩んだ末に辞めた。その代わりに、人生で初めて買った舟券を、初めての競艇の記念に、と財布にそっと仕舞った。勿論的中しなかったからだが。

私は初めてやるギャンブルはどれもこれも大体勝ってきたものだから、ただそれだけの根拠で今回も何となく勝つつもりでいた。
だが、この競艇と言うやつとはどうやら相性が良くないらしい。
全部で6艇という少なさ、力量の差はあれど最内コースを走る1号艇が大体一番強いという点から最大18頭で走る競馬なんかと比べれば比較的容易に当てられるはずだった。

戸田は日本一水面の横幅が狭い

「どんなに初心者でも、一日競艇場にいれば一回くらいは当てるもんだけどな」
私を競艇場に連れてきた彼が、外れ舟券ばかりを抱えて苦虫を噛み潰した顔の私を見て笑う。
よく考えてみれば、競馬もポーカーもパチンコも、あらゆる賭博を私は全てこの友人から教わってきた。
まだ東京に住んでいた頃はよく遊んでいたが、私が熊本に戻ってからはこうして年に一度会えるか会えないか、という頻度になってしまった。それでも、私が東京に行く予定が出来ればまず最初に連絡を取る人間であるし、彼の方も一度だけ熊本に遊びに来てくれたことがある、私の数少ない貴重な友人の一人である。

次に会う時の集合場所は競輪場かも知れないな、そんな事を考えながらビールで乾杯。私は当然負けたし、彼もそんなに勝ってないからこの飲みは割り勘だ。
三杯目くらいになってようやく私の口から今回の旅の目的が告げられた。東京に来たのは、これからの旅の前に少し寄っただけに過ぎない。

パチンコで15万ほど勝ったのが二週間前。このまま持っていても、どうせまたなくなるまで博打に使ってしまいそうな気がして、それならばこの泡銭、いっそのことパッと使ってしまおうと旅行を思い立ち、計画を立てて飛行機を取ったのが一週間前。
ヨーロッパでのんびり過ごすには資金が多少心許ないのでアジアで決まり。そんでタイには絶対また行こうと思ってたので確定として、前にやった旅行と同じ事をやってもつまらないから、今回はタイ以外の国にも行ってみよう。あ!せっかくだからまだやったことない陸路での国境越えをやってみよう。
たったそれだけを決めて、タイを中心にルートを組んだ。東京からベトナムへ飛び、そこからカンボジア、そしてタイ、最後はマレーシアのクアラルンプールから飛行機で福岡へ帰る。期間は三週間程度。
一人旅は初めてではないが、一度の旅行でトランジット以外での複数カ国の滞在は初めて。旅費を節約する為にも宿泊は安いゲストハウスに泊まって、国から国への移動も陸路だから飛行機よりも安いはず。
最早海外旅行自体に新鮮さを感じなくなっていたからこそ、新しい事をふんだんに盛り込んだ。如何せん、思い立ってから出発までの時間が少な過ぎたこともあって詳細な旅行計画は立てられなかったが、行き当たりばったりの旅行はいつものこと。最初の到達地がベトナムのダナンなことと、最後の出発地がクアラルンプールなこと以外は全部現地でその場の判断で決めるつもりだ。
「そりゃあ、土産話が楽しみだな」
赤ら顔の友人が答えた。

久々に会う友人たちと過ごす東京の日々も最終日を迎え、深夜二時発の飛行機に乗る為に終電で羽田空港へ向かう。
いつ来ても味気ない成田と比べて、羽田の国際線は雰囲気があって凄く良い。
旅慣れた喫煙者である私は飛行機で煙草の吸えない時間のツラさを十分に知っている。移動中の機内を寝て過ごす為に眠気のピークがこの時間に来るよう調整している為、先ほどから欠伸が止まらない。
旅慣れ過ぎるのも考えもので、すっかり油断していた私は眠気も相俟って、保安検査を通過する際にライターを置いてきてしまうという痛恨のミスをやらかす。それに気付いたのは搭乗前の最後の一服をしに喫煙所へ寄った時だった。これから数時間のフライトだというのに、煙草を吸い溜めしておけないのは生命に関わる。
仕方ないので喫煙所にいたラフな格好の中年男性二人組に火を借りる為に話しかけると、そのまま煙草を吸い終えるまでの数分間、お互いの旅の話で盛り上がる。
私は彼らにベトナムに降り立った後に巡る予定の国々を挙げながら、ようやくこれから旅に出るのだ、という実感が煙と共に胸を満たしていくのを感じていた。


ダナンへ降り立つ

ダナン国際空港

2019年11月19日午前7時、羽田からの飛行機がベトナムのダナン国際空港に降り立ち、いよいよここから東南アジア陸路旅が幕を開ける。いや、厳密には幕を開ける準備を始める。陸路陸路と宣ってはいるが、ダナンからホーチミンまでは普通に国内線の飛行機を使うからだ。
そんなわけでベトナムでの本命は翌日から行くホーチミンであり、ダナンに到着したは良いが目的地も宿も何も考えていない。そんな状態でタクシーを拾うのも憚られたので、ひとまず空港から歩いて市内中心部へ向かうことにしたのだが、その判断はあまりにも浅はかだった。みるみる上昇していく気温、荷物は最低限まで減らしてあるとはいえ大きなリュックを背負って歩き続けるには暑過ぎる。周囲を見渡しても空港から歩いて出て行く人間なんて一人もいないのだが、一度歩き出した以上は覚悟を決めて進み続ける。

ベトナムと言えばバイク

ベトナムに着いてまず驚いたのは道路を所狭しと縦横無尽に駆け巡るバイクとその多さだ。何でもベトナムでは50cc以下のバイク、つまり原付は乗るのに免許が不要らしく、老若男女が主な移動手段としてバイクを自由に乗り回す。
私も日本では通勤通学に原付を愛用している者としてバイクの利点は理解しているつもりだ。朝や夕の渋滞ピークタイムでも原付ならすり抜けを駆使して比較的スムーズに到着できる。だが、こんだけバイクの量があればすり抜けどころの話ではない。
そのせいか、道路ではずっとバイクのクラクションが鳴り響き続ける。それこそバイクに乗っているベトナム人はクラクションを鳴らし続けなければ死ぬんじゃないだろうかと思うくらい、四六時中ずっと鳴っていた。

30分ほど歩き回ってようやくコンビニのような店を発見。
空港の出入り口では誰かしらがタバコを吸っていたから困らなかったものの、これからずっと誰かの火をあてにし続けるのも不便なのでライターを売ってる店を探していたのだ。
店内でひとときの涼しさを満喫し、ライターと水を購入して再び歩き出す。
次に見つけたコーヒーショップでやっと本腰を入れた休憩。ここでようやく日本で購入して持ってきていた東南アジアの数カ国共通で使用できるSIMカードを手持ちのiPhoneに挿入し、ネット開通に至る。まだ旅慣れていない頃はわざわざ空港のカウンターで借りるポケットWi-Fiを契約していたが、今となってはこっちの方が便利だと知っている。通信範囲も今回私が訪れる予定の全ての国をカバーしているから都合が良い。

11月でもベトナムは灼熱

インターネットが使えるようになったので、早速近場のホテルを検索。
出発前は、ダナンはどうせホーチミンまでのトランジットみたいなもんだから、わざわざ宿泊しなくても夜中まで外で過ごしたらホーチミン行きの飛行機が出る朝までは空港で過ごせば良い、なんて甘い考えをしていた。しかし、ここまでの道のりで汗だくになってしまった私はこのままシャワーも浴びずに荷物と夜まで過ごすのは不可能と判断。急遽ホテルを取ることにしたのだ。
途中、隣の席に現れたアオザイを着た女学生の集団に見惚れたりしながらスマホと睨めっこしてホテルを予約し、山盛りの灰皿を残してコーヒー屋を後にする。

さて、ホテルへ向かう前に先ずは腹ごしらえ。初めて訪れる街の興奮と想像以上の気温とで気付かなかったが、昨日の晩からまだ何も食べていないという事実を胃袋が悲痛に訴えている。
適当にベトナムっぽいものが食べられそうな店を探し出して店内へ。まだ皆が昼食を取るような時間帯じゃないのもあって結構席は空いている。

丸ごと提供されるココナッツ
これ見てどうやって食べたかは思い出せないが、美味しかった事は覚えてる

とりあえず目に留まったココナッツジュースと春巻きを注文。春巻きは素直に美味い。ココナッツジュースはタイの屋台でも買ったことがあり、多少味がする水って感じで大して美味しいもんじゃないのは知っていたのだけれど、手っ取り早く南国の雰囲気を味わえるので好きだ。

インスタに載る為に作られたような教会だけど実は100年前からある

淡いピンクの外観がとっても可愛いダナン大聖堂を横目にホテルへ向かう。結構時間に融通の効くホテルで、アーリーチェックインが出来たはいいものの、荷物を置いてベッドに横になって重大な事に気付く。あれ?スマホが充電出来ていない。充電器が壊れてしまったのだろうか。
スマホ無しの完全アナログ旅も吝かではないのだが、私はカメラも持ってきていないし、何よりカンボジア入国に必要なe-visaの原本がスマホに入っている事も考慮すると、スマホの充電を切らす事は避けたい。
という訳で、シャワーを浴びたら充電器を求めて再び茹だるような暑さの街中へ繰り出す事に。

ベトナム土産が並ぶ巨大お土産ショッピングモール

先ず向かったのはダナンでも屈指のお土産購入スポットであるハン市場。一階には食料品、二階には衣料がそれぞれ売られている。
ゆっくり見て回ったらそれだけで日が暮れてしまうので足早に駆け抜けたが、それでも興味を惹かれる品が一つ二つと見つかる。しかしまだ旅の初日。これから三週間の旅をするというのに、ここで土産に手を出すのは愚の骨頂。グッと堪えて店員に渋い顔をされる。

因みにモバイルバッテリーでスマホを充電する事は可能だったのでケーブル部分は無事で、壊れているのはACアダプタの方だと判明しているのだが、このACアダプタのみを売ってくれる店がなかなか見つからない。
地元の電気屋や携帯ショップを何軒かハシゴしてみるも、私の伝え方が悪いのかもしれないが、なかなかお目当てのアダプタを購入することが出来ず、とうとうこの辺りでも一番大きな電気屋へ行き、アダプタのみを購入することを諦めて普通にiPhone用の充電器を丸々購入してホテルに戻った。
そこで判明したのは、私の充電器が壊れている訳ではなく、この部屋はホテルのルームキーを所定の場所に差し込まないとコンセントが通電しないタイプの部屋で、私がそれを怠っていたが為に充電が出来ていなかっただけだったという驚愕の事実だった(部屋のエアコンは普通にルームキー無しで動いていたので気付かなかった)。
あまりに無駄な時間と金の使い方をした自分に呆れ果ててしまって脱力。しばらくその場から動くことが出来なかった。


ダナンを彷徨う

ダナンは縦に細長いベトナムにおいてちょうど真ん中くらいに位置する港湾都市である。北にはベトナムの首都であるハノイがあり、南には人口最多の都市であるホーチミンがあり、それぞれの中間に位置するダナンもまた、それらに次ぐ第三の都市である。海が近いのでビーチなどもあり、リゾート的な楽しみ方を求めて訪れる観光客が多い。ベトナム戦争時のテト攻勢において大激戦地になった事でも有名であり、それもまた北と南のちょうど中間に位置しているが故の悲劇なのである。

さて、日中の徒労と己の無能さにしばしベッドの上で悶えること数時間。日も暮れてきて散歩にはちょうどいい時間になったので再び外出することに。
今回のお目当てはダナン名物、ドラゴンブリッジ。

週末にはドラゴンが口から火を吹くファイヤーショーなんかも開催され、それを観に来る人たちでごった返したりするらしいが、何せこの日はド平日。残念ながら橋の龍の姿を拝むことしか出来なかった。

道中には屋台が沢山並ぶナイトマーケットのようなものを発見し、その賑やかさに釣られてフラフラ吸い込まれてみたりもしたのだが、如何せん港町らしくシーフードを売る屋台ばかり。
海鮮があんまり得意じゃない私はそれらの屋台を冷やかすことしかしなかったが、美味しそうな匂いに食欲をそそられた事は間違いない。

とにかくひたすら歩き回った一日だった。初日でまだ元気が有り余っていたからこそ出来た所業かも知れない。
日本にいる時は家から一歩も出ないような生活が当たり前なのに、海外に出てしまえばこれだけアクティブに歩き回れるのも、偏に知らない街を歩くのが楽しいからに過ぎない。初めて見る景色、初めて通る道、聞き慣れない言葉、ああ、今旅をしているんだという実感に包まれている間は、歩くのも全く苦にならないのだ。

早朝、フロントで居眠りをこいている係員を叩き起こしてアーリーチェックアウト。ついでにタクシーも呼んでもらってダナン空港へ向かう。流石にホテルが呼んでくれるタクシーは、空港で観光客を待ち構えているようなタクシーとは違ってきちんとメーターで走ってくれる。
このままダナン空港からホーチミンへ向かう飛行機に乗り、一時間半のフライトを経てホーチミンに到着すれば、そこからが私の東南アジア陸路旅の本当の始まりだ。
だと言うのに、まだ旅は始まってすらいないと言うのに、どうして私の足はもう限界だと言わんばかりにパンパンになってしまっているのだろうか。

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