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田中泯さんと昨年のKYOTOGRAPHIE2022と「銀河鉄道の父」


 1か月ちょっと前にバス停で見た広告です。余白には「Min Tanaka 田中 泯」と書いてあります。映画やテレビドラマで拝見する機会が増えてきた田中泯さんです。右手だけで何かを表現しようとしているのでしょうか。それが何なのかはわからないのですが、指の関節の曲げ具合、手のしわや陽に焼けているような肌の質感が印象的で、しばらくこの広告を見ていました。踊っている田中泯さんの姿がぼんやりと私の頭の中に現れてくるような感覚です。


 そう感じたのは 昨年の KYOTOGRAPHIE 2022(京都国際写真展)の記憶があったからだと思います。

 今年も京都では KYOTOGRAPHIE(5月14日まで)が開かれていますが、昨年もほぼ同じ時期に開催されました(残念ながら、今年は観に行けませんが…)。昨年は会場の一つ、誉田屋こんだや源兵衛げんべえの黒蔵で私は田中泯さんが被写体となった写真や映像を見ています。水の中で浮かんでいるような、少し恐怖を覚えるような写真でした。

 黒蔵は奥に筒を縦にしたような建物が付け加えられています。狭い階段を2階、3階へ登ります。当時、腰を悪くしていた私は、その階段が狭いのと、暗くてよく見えないのとで躊躇したのですが、係の人のすすめもあって、恐る恐るゆっくりと、降りようと待っている人にお礼を言いながら登ってみました。登った先の作品の中に映像があったような。一年前のことで記憶が薄れていますが、その映像のイメージが残っていたから、バス停の広告と田中泯さんの踊りが頭の中で結びついたのでしょう。


 映画「銀河鉄道の父」の記者発表では出演者の後列に田中泯さんも加わっていたところをテレビの情報番組で見ていました。菅田将暉さんが宮沢賢治役、役所広司さんが父親、森七菜さんが妹役であることは予告編などでわかりました。

 門井慶喜さんの原作による宮沢賢治のお父さんの物語。家を継ぐか継がないかで親子の間に葛藤があり賢治は東京に出てしまう。そんな中で田中泯さんはどのような役柄なのかに興味が湧いてきました。近くに住む、よく出入りするおじさんなのでしょうか。不安定な親子関係に重しのような存在として描かれるのか。そんな想像が膨らみます。

 実はそれを確かめたくてこの映画を観にきました。しかし、その期待は裏切られます。賢治の名前をつけた祖父の役です。もっと近い存在です。今の時代は父母が相談しながら名前を決めるのがほとんどでしょうが、昔は一家の長が命名していたのですね。おじさんではなくおじいさん、とすると展開は波乱を呼びそうな空気になります。

 そして現代でも社会問題として扱われることが、この家族にも起きます。田中泯さんの演技が生きてくる場面です。でも、その一場面は短い。深堀りするには映画の2時間前後という枠では難しいのでしょう。

 田中泯さんの風貌は実年齢よりも若い。役所広司さんがお父さんなら田中泯さんは、伯父さんか叔父さんのほうがしっくりします。おじいさんであれば、若いおじいさんです。ポスターの集合写真でも斜に構えて眼光鋭いおじいさんはかっこよく見えます。

 映画では岩手・花巻の田園風景が印象的です。少し小高い賢治の家から見える稲が育っていく風景、稲が実った風景。そんな風景であれば実際に見に行ってみたい。


 一年前の KYOTOGRAPHIE の記憶が曖昧なのですから、昔のことはさらに忘れていました。「雨ニモマケズ」が最初と最後のそれぞれ2行ぐらいしか出てこなかったのです。言われると ”あーそーだった” となるのですが、途中があやふやです。中学生、高校生の時には覚えていたはずなのに…。

 帰りに書店に寄ったら、映画公開に合わせるように宮沢賢治の本が平積みされていました。近くの図書館で借りることもできますが、順番待ちになってしまうと自分に回ってくるまで数か月はかかってしまいます。どういう詩なのか確かめてみたいのに、本がやってくる頃には関心も薄れてしまうでしょう。読みたい時には本を買う方が早い。その本は映画に出てくる物語や詩を収録しているので、映像を思い出しながら読むにはちょうどいいかもしれません。

(5月10日)



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