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貧困に対する政策の及ぼす影響

 イギリスにおける相対的貧困率は、この3年改善している。一方、日本の相対的貧困率は悪化し続け、ついには日本の状況の方が悪くなっています。(*1) イギリスでは社会の深刻な問題となった貧困問題についてどのような政策を実施してきたかを概観します。

 イギリス政府は、特に1999年ブレア首相労働党政権でこどもの貧困を2020年までに撲滅すると宣言し、貧困対策を政権の重要課題とした。政策の実行性を確認し、何から手をつければよいのかを明らかにするために Index of Multiple Deprivation (IMD) 重複剥奪指標(*2)と訳すが、ここではよりわかりやすいよう『生活の質指数』と意訳する指標を全国に当てはめ現状の調査を開始した。冒頭の図 (図1)は、日本国内を青から緑、黄色、赤、紫に色分けしたものです。後述する、イギリス政府による調査のデータ元、収入、失業率、健康に関する状況、高等教育を受ける割合・職業訓練の受講状況、公営住宅及び公共サービスの状況、住環境、犯罪率のなかから、大学・大学院卒業者の割合だけを抽出したものです。(*3)
 図2は、イギリスの住宅・コミュニティ・地方自治省による報告書が示す、どの地域は各種の社会課題が少なく、どこは多くの社会課題を抱えているのかを表したものです。

図2 イギリス エリア別生活の質指数マップ(2019)

 ブレア政権は、2010年度までに1998年度比で貧困を改善することを中間目標として、7つの分野等の係数をかけながら、イギリス全土を郵便番号ごとに分類をしています。最も状況の良いエリア青色1位から最も状況の悪いエリア、最下位の32,844位に分類するデータとして各エリア毎の収入、失業率、健康に関する状況、高等教育を受ける割合・職業訓練の受講状況、公営住宅及び公共サービスの状況、住環境、犯罪率の7分野を使用しています。(*4)

図3 イギリス 生活の質指数の算定基準 7分野 所得、雇用、健康、高等教育と職業訓練、住宅及びサービスへのアクセス、住環境、犯罪率

 1999年ブレア労働党政権では、主な政策として、児童手当の増額、住宅手当の拡充、食料のみの購入ができる食料券(Food Stamps)の配布、就労支援プログラムの拡充、教育支援プログラムを充実してゆく。その後、政権交代があったが保守党キャメロン首相による保守党・自由党連立政権においてもイギリスの貧困対策は重要課題とした。2010年3月に成立したこども貧困法(Child Poverty Act)は、2020年までに相対的貧困を10%以下にするなどの目標を示し、そのための具体的な戦略を策定した。これらの政策は、貧困家庭の生活を支援し、こどもたちの成長を促すことを目的としたのである。こどもに対する支援策を優先するのは、地域的、社会的に不利な環境にある家庭の保健、福祉、生活環境等を総合的に改善し親世代からこども世代、そして孫世代へという2世代、3世代に及ぶ可能性のある貧困の連鎖を断ち切るためにこどもの育つ環境の改善を図る省庁横断的な政策を実施したのである。

 これら、イギリスでの取り組みにからいくつか参考にできることがある。①各種データをよりオープンにし、インターネット経由で誰でもいつでもどこにいてもデータを素早く容易に入手できるようにする。②政策目標を可能な限り測定可能な数値として設定し、その効果を、定量的に把握する。③政策と予算が省庁毎、政策毎となっている縦割りを排す。
 本稿では『イギリス 生活の質指数』を例としたが、その根拠となる7分野のデータは収入、失業率、健康、高等教育と職業訓練、住宅及び公共サービスの状況、住環境、犯罪率は、日本の国政調査や高齢社会白書、犯罪白書といった各省庁が別々に調査している。これらのデータは、イギリスのように郵便番号毎のように細分化できる調査方法でなかったという実態がある。現時点では、犯罪白書の認知刑法犯の発生したエリアデータと成人病が死因の高齢者の住んでいたエリアを串刺しにできない。これでは、貧困の解決に向け、社会課題に対応するために日本全国のどこに対策を実施すればよいのか、何が必要なのかといったことさえ把握できていないことに問題がある。イギリスの社会が、貧困への対策に真剣に取り組んできたことから学ぶとすれば、まず実態の把握をする必要がある。例えば、全国の市区町村1,741自治体を既存の町丁目を活用しそれぞれを10エリア程度に分けると全国を17,410のエリアに分けることができる。または、全国の公立小学校の配置エリアを基準にエリア分けをすることもできる。全国に18,851校(2022(令和4)年度文部科学省学校基本調査調査)があり、これならば、調査対象の数、各エリアの面積(原則、こどもの徒歩通学の可能な範囲に小学校が配置されている)であれば、支援を必要としているこどもへのアウトリーチもしやすく、各家庭に対しコンタクトする際の連絡先情報を把握しているか否かまで全国で把握することができる。考え方によって各小学校の校長の既存のリストは、連絡担当の最終統括者一覧でもあり、日本版生活の質指標の調査は思うよりスムーズに始めることができる。


注釈
*1 Your Table.「豊かな社会?」『Your Table 2023/07/19 note』. https://note.com/yourtable/n/ne8ed0d03863a (20230723)
*2 にゃんこそば @ShinagawaJP. May 29, 2022. 「大卒・大学院卒の割合(30-34歳男性)」 『2020年国勢調査の結果可視化』.
https://twitter.com/ShinagawaJP/status/1530837946529886208 (20230723)

*3 内閣府.「内閣府の政策」『平成27年度 諸外国における子供の貧困対策に関する調査研究報告書 英国 第2 子供の貧困実態や対策の実施状況を把握するための指標』.         
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h27_gaikoku/1_02_2.html (20230723)

*4 Ministry of Housing, Communities and Local Government "Index of Multiple Deprivation (IMD)."
7分野の指標への追加指標として、こども、高齢者への剥奪に関するデータも加え算出されている。
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/835115/IoD2019_Statistical_Release.pdf (20230723)

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