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超短編小説|ドロップス(自己紹介)初投稿

 整列する × 印
 居間に貼られたカレンダー
 今日も泣いた
 母との約束
 明日は泣かないように

 子供のころは泣き虫だった。泣いた日にはカレンダーにマジックペンで×印を書いた。×印は空欄を作らずにひたすらに整列を続けていた。整列する×印。飴を舐めながらぼーっと眺めた。夕焼け色に染まったカレンダー。

 泣き虫の涙にも理由は必ずあったが、周囲の人々にはその理由がわからないことがあるようだった。
「なんで泣いているの?」
「そんなことで泣かなくてもいいでしょ。」
 そんなふうに言葉をかけられた。また泣いてると呆れられていることも理解していた。でも、自分の思い通りに動けず、上手くできず、思いが届かず、誤解をされては泣いた。子供なのだから仕方ないのだが、仕方ないなんて思えずに泣いた。

 涙は言葉だった。

 涙の理由を言葉で説明できるほど、言葉の数を与えられてはいなかった。言葉の引き出しは空っぽで、その引き出しは感情の水だけで溢れていた。

「むかし なきむしかみさまが
 あさやけみて ないて
 ゆうやけみて ないて」

 この歌が大好きだった。かみさまも泣き虫。涙がドロップスに変わるならどんなにいいだろう。泣き止み、歌を口ずさみ、自分で自分を慰めた。

 涙の行方を空想した。

 涙は蒸発し大気に溶け
 雲になり雨となる。

 雨は海や山を駆け巡り
 いつか飲料水か何かになって
 甘い砂糖と混ざり合い
 ドロップスになる。


むかし なきむしかみさまが
あさやけ みて ないて
ゆうやけ みて ないて
まっかな なみだが ぽろん ぽろん
きいろい なみだが ぽろん ぽろん
それが せかいじゅうに ちらばって
いまでは ドロップス
こどもが なめます ぺろん ぺろん
おとなが なめます ぺろん ぺろん

「ドロップスのうた」 作詞:まどみちお 


私は大人になっても泣き虫だから、いつかのドロップスもしょっぱいだろう。

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