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Donny Hathaway、薀蓄ラリー、マウントを超えて

私は自称Soul R&B 好きである。
だけど、Soul R&Bって何?と聞かれても、しっかりとした定義は語れない。
歌詞の英語も半分もわからない。
要は雰囲気でやっている輩だ。

原体験はWe Are The Worldのレコーディングのドキュメンタリーを見た事。

初見は小1くらいの事だったと思う。
「良い曲を、良い歌で、ハートを持って」がグッとくると言う体験の源流がこの曲にある。

娘にもこのビデオを見せたが、彼女にはSMAPやモーニング娘が性にあった様だ。(少し懐古主義テイストなのが彼女のチャームポイントであった。)

私のSoul R&B好きは、一人でお気に入りのCDを聴くだけでは飽き足らず、20代中盤以降は、そのジャンルを流し続ける酒場(Soul Bar)探しへとシフトした。

ただ、尋常でない程の人見知り且つ顔色伺いに出来ている自分は、なかなか一人落ち着けるSoul Barを探し当てる事が出来なかった。

いかにもどぎまぎしながら店に入る自分の挙動が大いに問題だったのだと思うが、Barの店主との会話や店が醸し出す雰囲気における、ある種のマウントの取り合いみたいなものが苦手だった。

「で、どの辺の曲(アーティスト)がお好きなんですか?」
というやつである。

ワインとか、鮨とか、映画とか、色々なジャンルでもある事だと思うが、好きが高じて、薀蓄がこじれてしまうと言うアレである。

10年以上前の事だが、老舗のSoul Barは古参の常連さんが集っていて、どうも敷居が高い様に思い、新しく開店した店に行ってみる事にした。(Soul Barで新規開店は珍しい)

新規開店でやる気みなぎる店主からは、マウントの匂いも無く、何度か通った。(今は閉店してもうない)

何度目かの夜、一人でしっぽり座っていると、私と同年代か少し若いくらいのカップル客が隣に座り、いかにもこなれた様子で 「Donny HathawayのLove, Love, Loveをかけてください」と店主に話しかけた。
店主はDonny Hathawayが大好きだったのだろう、相好を崩し、薀蓄のラリーが始まった。
当時の私はDonny Hathawayをしっかり聴いた事は無かった。
薀蓄のラリーは続き、空になった私のグラスは氷だけがとけて行った。

その時の事があったからと言う訳ではないが、それから数年後Donny Hathawayを何枚か買った。

※※※

先日、今は線香立て置き場と化しているステレオに久々に電源を入れた。
最近は個人的な事情で外食も行けないので、自宅でSoul Barもどきでもという気まぐれを思いついての事だった。

あれこれ迷った末、Donny Hathawayをかけた。

Now Playingとばかりに、CDをステレオに立て掛けた。

ステレオの横には白い娘の骨箱がある。
骨箱は白くむき出しになっていると辛いので、妻が娘の写真を印刷したものをクリアファイルに入れて、その時々の雰囲気で写真を変えて立て掛けている。

Donny HathawayのCDを立て掛けた時に、娘の写真も夏っぽいものに変えようと、スイカにかじりついている写真に変えた。

その時、なぜか、10年以上前のSoul Barのカウンターでの薀蓄ラリーの事をふと思い出したのである。


薀蓄のラリー、マウントの取り合い。
こうした事が、社会問題に取り組む際もしばしば目に付く。

子の命を理不尽に奪われた親達。
想い、こだわり、悔しさ、恨み、全てが振り切れている。
時にそうしたものが、非常に込み入って、こじれ、くすぶり始める。
互いへのマウント、牽制、嫉妬、疑心暗鬼。
傷ついた者同士が般若の顔をまとう時もある。
これは、自分自身も含めての事だ。
その事のセルフコントロールがとても難しい。

He Ain't Heavy, He's My Brothe

Soul BarもどきでかけたCDには、好んでよくかけた曲がある。
Donny Hathawayのオリジナルではなく、カバーだが、心が弱っている時に大音量でよくかけた曲である。(当時、娘はうるさがっていたと思う。)

The road is long
With many a winding turn
That leads us to who knows where
Who knows where
But I'm strong
Strong enough to carry him
He ain't heavy, he's my brother


今週また霞が関に要望を伝えに行く。
セルフコントロールと均衡点の模索を念じながら、事に当たれるか。

長く、曲がりくねった道を、この先も進まねばならない。
そして、いつかその道中を分かち合いたい。

そんな事を思った次第です。





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