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生成AIとどう向き合うべきか—大学での教育・研究や入試では慎重論や様子見が大勢を占めるが、教育現場では生成AIの活用が一足先に試され、劇的な教育効果が上がっているとの報告も

史上初の偉業の陰にはAIの支えが

10月11日は将棋界において歴史的な日になりました。
まだ21歳という若き藤井聡太さんが第71期王座戦を制し、史上初の八冠を達成したからです。

実は、藤井聡太さんの圧倒的な強さの陰に、将棋AIが大きく寄与していることは、おそらく皆さんもよくご存じかと思います。

日本将棋連盟の会長にこの6月に就任した羽生義治氏は
「藤井さんの登場で、間違いなく棋士のレベルは底上げされた」
とまで語っています。

人間が開発したAIが、今度は人間の能力開発を手助けしてくれる
そして、個人を超えて人類全体のボトムアップにつながる・・・

すでに異口同音に語られていますが、
“人類と生成AIの共存時代が到来する日”は、すぐそこにまでやってきているのかもしれませんね。


生成AIが英語の添削指導

AIが進化し続け、驚異的なレベルに達した生成AI。
その威力は、学校現場でも、さっそく発揮されているのです。

三重県立津東高等学校では1年英語の授業で、添削をChatGPTの有料版などを使って著しい効果が上がっている、とレポートされています。

迅速に生徒に添削結果を戻すためにシステムをアプリ化したことで、添削結果を授業時間内に生徒に提供できるようになったというわけです。


英会話では生成AIが会話の相手に

英会話でも生成AIが生徒たちの練習を助けてくれそうです。

9月より、自宅で英会話の練習をする相手としてAIソフトを活用するという実証実験が、文科省主導で開始されているとのことです。

文部科学省は中学高校の英語教育で対話型人工知能(AI)を導入する。自動で受け答えするAIを使い、日本の生徒が苦手とする英語で話す力の底上げをはかる。自宅学習から試し、学校の授業での活用拡大につなげる。
9月をめどに千葉県で実証事業を始める。県立成田国際高校(成田市)を対象にする。早稲田大発スタートアップが開発したAIソフトをタブレット端末に取り込み、生徒が自宅学習をする際に英会話の練習相手として使う。
ソフトは生徒のレベルに応じた会話ができるのが特徴だ。会話内容や目線の動き、表情などを感知し「緊張しているみたい」「安心して、これはテストじゃないからね」などと反応する。
「あなたの家について教えて」との問いに生徒が戸惑うと、「たとえば部屋はいくつある?」と助け舟を出す。生徒の英会話力が高いと「SNS(交流サイト)の良い点と悪い点は?」「日本は10年後どうなっている?」と尋ねるなど社会問題を巡るやり取りも展開するという。

日本経済新聞 2023年7月25日より抜粋

 

なぜ、英語学習に顕著な効果がみられるのか?

こうしてみると、生成AIの活用は、こと英語学習、つまり外国語の修得において顕著な効果が目立っています。

どうしてなのでしょうか?

これについては、京都大学・柳瀬陽介教授(国際高等教育院・附属国際言語教育センター・英語教育部門長)が、大学での英語授業のなかで積極的に生成AIを活用し、そこでもたらされる効果をメディアで積極的に発表されていますが、国立情報学研究所主催のシンポジウムの講演のなかで次のように説明しています。

 以下、筆者による講演趣旨要約

大規模言語モデルをもとにした生成AIは「知識内容用のモデルを内在していない(はず)なので、科学についての推論は不確実」である。
しかし、「文法・語法および初歩レベルの文体といった言語慣習は、言語使用者の「多数決」で決まる」ので、「英語のビッグデータに基づく大規模言語モデルAIは、言語慣習に即した文章生成については比較的信頼がおける」。
つまり、「科学は多数決で決まらない」けれど、言語の運用はむしろ多数決が大切なので、膨大なデータに立脚し、そこから一番妥当な運用は何かを導き出すシステムである生成AIは、言語取得のためのツールとしては威力を発揮することになる。

国立情報研究所:大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム
「教育機関DXシンポ」(2023年10月13日)

大学英語教GPT活用型授業実践:英語教師が認識する大規模言語 モデルAI活用の可能性と限界



“帰納”的な側面で威力を発揮

果たして、この単語でいいのか、この文法は適切か、この言い回しでいいのか、等々。

これまで、もっと正確に申し上げれば文明開化以降ずっと、英語学習者にとっての最大の悩みは、“どうやったら”英語を母語とする外国人のように、流暢で自然な言い回しで言葉を紡ぎ、おしゃべりすることができるか、だったと申し上げても過言ではないでしょう。

海外に留学して英語漬けの生活をしてきたとか、近くに常にネイティブが居てすぐに聞くことができる環境でない限り、どんなに勉強しても、つねに不安がつきまとい、自信が持てなかった・・・

ところが、生成AIの出現は、日本の英語学習者を悩ませてきたその“どうやったら”の部分を一掃し、一大革命をもたらす可能性が出てきた、というわけです。

そもそも生成AIには、一人の人間では取り込むことが不可能ともいえる膨大なデータベースがあるわけです。
そして、そこからもっとも可能性の高い(あるいは、もっとも妥当な)事例を見つけ出してくることを生成AIは得意技としているわけですから、提示されたものは、自ずと納得性の高いものになるはずです。

考えてみれば、外国語の学習とは、その言語を母国語とする人たちが、普段普通に(自然に)使っている言語の仕組み、あるいはルールやシステムを学ぶ、ということに尽きるわけです。

つまり、ビッグデータから方向性や法則を導き出すという“帰納”的側面において、この生成AIはとてつもない威力を発揮することは至極当然である、
ということはお分かり頂けると思います。


外国人講師の代わりに

教える側にも福音となるでしょう。
というのも、長年英語を研究し、指導してきた教員であっても、ネイティブ・レベルの壁は高く、生徒・学生たちに対する添削指導や会話指導ではとても苦労されてきたことかと、思われるからです。
これまでのご苦労のほど、心よりご推察申し上げる次第です。

ところが、生成AIが作文や会話の練習相手として強力な助っ人になり得ることがわかるとなれば、英語の先生たちにとってこれほど助かることはないでしょう!

それに加えて、生成AIは、ネイティブ並みの的確な添削も施してくれる!
しかも、親切にも新たな言い回しまで教えてくれる!
英語の先生方にとっては、なんて頼もしい助っ人なのでしょうか!!
(でも、そうなると、英語の先生の役割とは? 先生はもしかしたら必要なくなる?)
 

生徒たちも、生身の外国人や大人だと人見知りして、緊張してしまうこともありがちでしたが、生成AIであれば、気兼ねなく気楽に会話できる、という意外な?メリットを指摘する声もあちこちから聞かれます。

そういえば、かつて大学受験予備校・代々木ゼミナールでは、
英作文の授業となると、日本人の英語講師と外国人の講師がペアで登壇し、二人が丁々発止のやりとりをしながら生徒が板書した答案例を添削して回るという光景が日常的に見られていました。

でも、これからは生成AIがそういった外国人講師の役割を担ってくれるのかもしれませんね。



まだまだ改良の余地がある生成AI。
しかし・・・

帰納的側面で絶大な力を発揮する生成AI。

膨大なデータベースから適切な答えや方向性を生成してくれる生成AIは、英語以外の教科・科目でもその威力が期待されています。
たとえば、国語、あるいは地理歴史や公民などの社会科における文章・レポート作成なども、英語同様、その効果を今後期待できるでしょう。

しかし、注意しなければいけないのは、生成AIが生成する提示物にはまだまだ事実関係の誤りが多々発生しているのも事実です。

おそらく、まだ取り込むデータ量が不足していたり、誤った情報を取り込んでいたり、とか、不行き届きの面があって、引き続き開発や修正を続ける必要はあるのでしょう。

また、取り込むことになる元のデータの著作権をどう守り、どのように手続きするかについても、まだ明確な答えは出てはいないことはすでに申し上げた通りです。

ただ、そうした諸課題もゆくゆくは徐々に解決されれば、教育現場での生成AIの守備範囲は一段と広がることになるでしょう。



近未来の英語力とは

京都大学・柳瀬先生は、AI時代の英語力は、「サイボーグ的英語力」と「生身の英語力」の統合になるだろうと、さきほどのシンポジウムで提言されていました。

「サイボーグ」というと、なんだかSFっぽいですが、生成AIを駆使して、というより生成AIに助けてもらって鍛えた英語力と、生身の人とのやりとりで養う英語力の往還が大事なんだと、柳瀬先生は強調されています。

このようなAIを駆使した英語力養成法が広く浸透し、近い将来、とてつもない英語力や学力を備えた生徒・学生たちが誕生してくる・・・

将棋の藤井聡太さんの登場が将棋界のボトムアップにつながった話ではありませんが、生成AIと共に鍛えられた英語の達人が誕生するのも時間の問題かもしれません。


教える側は手放しでは喜べない!?

では、そうなったら、教える側はいままでと同じ指導法をやっていてよいのでしょうか?
あるいは、生徒や学生に課す課題や試験問題はどうすべきなのか?
果ては、入試問題はどうなるのか?

そして大事なことは、
我々は生成AIとの関係性をどのように構築していけばよいのか

次回はそのあたりについて、もう少し探索してみたいと思います。


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