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不惑の女、BARのマスターに「大人の条件」を聞きにいく

もうすぐ不惑を迎える一人の女性として「恋愛」って、普段交わらない人間と人間がほんの些細なきっかけから、他人の人生にお邪魔したり、お邪魔してもらったり、一人では生み出せない感情が湧いたり、本当に面白いなーと歳を重ねるごとに思います。

そして、男女の微妙な関係性を言語化するって非常に難しいです。間違って伝わったり、誤魔化したくないという気持ちから、私は恋愛話を誰かに打ち明けるということが苦手です。ですが、そんな私でも、つい語りたくなるのが「BARのマスター」という存在かもしれません。

今回、奥渋谷にある「bar  bossa」を経営している林伸次さんに書籍『大人の条件 さまよえるオトナたちへ』のインタビューを行いました。



20代のころ大切にしていた書籍「BOSSA NOVA」の著者ということもあり、少々緊張の中、昼下がりの土曜にbar bossaを訪れました。

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初対面の林さんと話して、そうそうに感じたことは、常に編集ポイントを考え、その人に合わせたベストな回答をくれる、その気遣いにまず驚きました。「ここあまり使えませんね」「何パターンかあるんですが、多分こういった話はお好きかと思いますのでロングバージョンで話してみますね。」「ここ全部使っても良いですよ」などなど。

ここでは書ききれないたくさんのことにお答えいただき、最後は人生相談にまで乗っていただきました。それではインタビューの内容をつらつらと書いていきます。

BARでのコミュニケーションについて

コミュニケーションをきっと大切にされているんだろうなと思うのですが、例えば初めてBARに来た人にどんなタイミングで話しかけたりしていますか?もしくは敢えて話しかけないなどありますか?

お店の人と話したくない人もいますので、基本的にはまず声をかけないですね。一緒にきた女性を口説きたいって人もいますし。何年もきている常連さんの中にも、ずっと話さなかったのに十数年たってから、話す人もいます。noteの社長の加藤さんや燃え殻さんも十数年前から常連だったんですが、ぜんぜん話したことがなくて。ある日突然、「林さん、Cakes書かない?」って話しかけられたり、燃え殻さんもある日突然、フォローしてきて、あ、この人有名な人なんだ、あ、この人10年前からずっと来ている人だ、とわかって。そういう人ってよくいるんですよ。
きっと、そうやって通ってくれる人って、こういう場の雰囲気や僕のこういった人間性があっていたんでしょうね。

きっと、私は耐えられず話かけてしまうんだろうなと思うのですが、確かに、何にも話さないけど、場所や雰囲気が気に入ってBARに通うことってありますし、年月をかけて醸成される関係性って素敵ですよね。きっとそんな場所を演出するような何か強いこだわりがあるのかな?と思い尋ねると

BARのこだわりはありますか?

こだわりが僕全くないんです。もっとあれば良いな~と思うんですけど。
例えば、レコードかけているのに、アンプとか全くこだわっていなかったり、お酒もそうですね。

と、林さんは自分のことを素直に、オープンにさらりと話してくれます。

お客さんからこう言うサービスやったら?と言われることあるんですけど、話半分に聞いています。お客さんが言いたいのは知っています。ただ、それってコントロールしたいだけなんです。例えば、母親があなたのためを思ってやっているのよと言うのと同じで。ここにきてくれるお客さんは僕がこだわりがあるからではなく、場の雰囲気が好きな人です。お酒にこだわりが強い人はリピートしないですね。僕がこだわらなくてしらけることが多いです。

お酒や音楽にこだわりがないって少し意外と思ったのですが、bar bossaに来ている常連さんも林さんも、この場の雰囲気を大事にしているからこそ、激戦区の渋谷で24年間も続いているんでしょうね。どこに重きを置くかが大事なんですね。

大人な小説?

林さんは、さまざまな小説なども読んでらっしゃるかと思うのですが、大人だなと感じた小説とかありますか?

うーん、小説は基本的に大人になれない話ばかりが多いからなーなんだろう。内田樹の書籍が割りと大人の話が多かったかな。落とし所を見つけるのが上手いと言うか。
小説って大人になると読めなくなりますよね?大人になれないから読めるんだと思います。この仕事をやればやるほど小説読めなくなりました。少女時代どんな本を読んでましたか?

江國香織さん、山田詠美さんや姫野カオルコさんの作品ですね。と答えると林さんは、さらりと「あなたは特別」と感じさせるようなこんなことを言ってくれます。

少女から大人になる過程で読む小説ってありますよね。この人良い読書体験してるなと思うと大抵江國香織を読んでるんです。

また、2004年に出版された林さん執筆のBOSSA NOVAについて話をしているときも

どこで買いました。それ、買うのって結構難しかったんですよ。普通の本屋さんに置かず、お洒落なところにしかおかないスタイルだったので、文化的なところに集まっていた人でないと手にできなかったんです。それを、若いころに手にされたんですねー。

と、あたかも私が文化的な人であるかのように、お話しされるのがこそばゆく感じつつ、嬉しく思いました。相対する人に個人的な感想をきっちり伝えるというのも、一つ大人な姿なのかもしれないと思う瞬間でした。

しがみつきたかった可能性はありますか?

書籍の中で、やるやるといっていつまでもやらないひとは「可能性にしがみついている」という話がありました。何かを始める、あるいは終わらせる時、あまたある可能性から一つを選択する行為って難しくものすごく重要なんだろうなと思います。林さんがしがみつきたかった可能性ってありますか?

いくつかあるんですけど
例えば、芥川賞作家になりたかったです。ただ、文学的の才能があると思っていたんですが才能がないんだなーと気づきました。
あと、東アジアの音楽フェスをやりたかったですね。地方自治体と話して、スポンサーと話して、海外の人を誘致してアジア音楽フェスをする。さまざまな働きかけはしたんですが、自分にプロデューサー能力がなくって。だれか推進力のある参謀がいればよかったんですが、なかなか人間と蜜に関係が持てなくて。

確かに。人に仕事をふるって難しいですよね。林さんの場合、やってみた上で「向いていない」ということが分かり、別の可能性をちゃんと選んできたんですね。
あれこれ聞いていく中で、私の「BARやってみたいですね」という週1回程度働いてみたいなという軽い呟きに対し、ロングバージョンで開店方法について語ってくれました。

これ書いていただいても良いんですが、うちって家賃22万円なんです。こういう場所だと保証金が10ヶ月分かかってしまうので、220万円を大家さんに預け、不動産に1か月分払います。はじめ不動産取得に300万かかり、内装に100万くらい(テーブルは手作りです)。お酒やグラス、その他備品に100万ということで、開店資金に500万、プラス200万を運転資金にしています。
これから始めたいという場合、300万あれば始められます。家賃10万円くらいで、10~20人入れる場所を居抜きで契約し、敷金礼金2:2で家賃含めて50万、内装を50万くらいかけてはじめたら、年収800万くらいになります。もちろんお客さんが入ればの話です。料理ははやりすたりがあるので、料理にこだわらない3000円飲み放題のスナックにしたほうが儲かります。
あと、毎日店長を変えるのが良いです。一人で経営し、月火水木を別の人に店長をしてもらって、売上の50%をもっていってもらう。週1回だけだったら、やりたいという人いっぱいいるんで。
あるいは、週1だけやりたいのであれば、300万を仲間7人で45万ずつ出資し、週1の権利を買い、それぞれの曜日担当を決め、その日の売上はその担当に。シェアハウスのような考え方ですね。毎日人が変わったほうがお客さんは来ます。7人が難しければ3人でもいいんです。ちゃんとお客さんがくれば、儲かります。
あとは、先ほどの話じゃないですが、やるかやらないかだけなんですよね。今の方式本当にやりたい場合はいつでもご相談ください。

と、ホスピタリティ満載な内容を語っていただきました。ありがとうございます……真剣に考えてみます。

最後に

そして、話しはどんどん、プライベートな方向に進んでいき、「そう言う微妙な人間関係の話や個人的なちょっと聞けない話が多ければ多いほど面白いと思いますよ」と、書き手としての貴重なアドバイスをいただいたり。林さんの文章は、押し付けるのではなく読み手によりそった優しい文章でついつい共感してしまいます。今回、お話を伺い、文章と同じようにみんなが聞きたいことをちゃんと伝えるという意識を端々に感じました。

今度はお客さんとして訪れたいですし、ちゃんと決心出来たら、改めてBAR開業について相談しにいきたいなと思いました。

「大人の条件」と聞くととても大きなテーマですが、日常の些細な気遣いが実は大事ということを教えてくれます。
私も、大人について、語ることはまだまだ出来ないのですが、昔できなかったことがさらりと出来るようになっているという意味では、お酒の席で偶然出会った男性にこの本を読んでもらって、大人ってなんだろうね?と語り合うシチュエーションを自主的に作れるくらいの大人にはなっているのかなと思いました。

そんな大人の条件や大人の行動を考えるきっかけになる本書、オススメです。

林さん、インタビューのお時間いただきありがとうございました。

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