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対談 Gメッセ群馬 ファニチャー製作

株式会社Tetor
代表取締役 山田裕貴
    ×
ヨシモトポール㈱
プロジェクトSE部 小杉達郎

    ×
ヨシモトポール㈱
設計開発1課 西海隆平

文中(※1)
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻
景観研究室
助教 福島秀哉
本件、街路整備事業含め監修

文中(※2)
ヨシモトポール㈱
北村仁司
小杉、西海の上司

今回対象となるファニチャーは「バナーポール」と「フットライト」です。デザインとモノづくりに対峙し、ときに三歩進んで二歩下がった製作秘話を、デザイナーの山田さん、メーカーのエンジニアとして構造設計を担当した西海、そして発注者、施工業者、デザイナー、器具メーカー、鋳物製作会社、社内調整と、縦断に横断に全体を調整したSE(セールスエンジニア)の小杉の対談です。ここでしか発信しない、それぞれのモノづくりへの熱い思いを語っていただきます。

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仕事のはじまり
小杉:それでは、山田さんからこの事業の概要をお話し願えますか。
山田:これは高崎市のコンベンションセンター【Gメッセ群馬】を新しく作る際に必要となる、都市計画道路「高崎北口線」に関してのプロジェクトです。
県の方がデザインを行うにあたって、そのデザイン指導という立場で東京大学の福島さん(※1)に誘って頂き、関わるという始まりでした。
街路の設計、デザインをするために何を考え、何を調べる必要があるかをアドバイスしていました。その延長でファニチャー類のデザインも関わらせていただくことになりました。ファニチャー類の内容は、芸術劇場からの歩道に「フットライト」、「バナーポール」を付けてコンベンションセンターまで人々を誘導したいという計画で、街路空間にはなにか群馬県のモチーフをデザインに反映させたいということで街路全体のコンセプトに「織物」が選ばれました。
デザインを始める少し前に、福島さんと北村さん(※2)で「何かメーカーで持っている技術について、面白いものはないか」というような議論をされていて、北村さんから提案されたのが「スリップジョイント」という、ボルトを使わない接合技術があると聞きました。それを聞いて、その技術を生かせるデザインを考えてみようかと、福島さんと相談し、ここから具体的にヨシモトポールさんとの議論が始まったと思います。

デザイン検討段階資料

スクリーンショット 2020-12-18 11.14.44

初めて参加する打合せ「メーカーからデザイナーへの提案」
西海
:ボクが参加したのは初回打合せで、北村と同席させてもらいましたが、そういう形で打合せに参加するのも初めてだったので、どういうふうにデザインと構造の打ち合わせを進めていくのか勉強させてもらおうという気持ちで臨んだのをよく覚えてます。
小杉:デザイナーとの打合せに初めての参加で、内容的にはどうだった?
西海:ラインナップの中に「バナーポール」があるのをそこで知って、北村が「スリップジョイントでやろう」って提案しているのを横で聞いて、結構加工精度がシビアな構造なので「そんなことできるのかなぁ?」と(笑)。しかも今回は、鋳鉄と鋼管っていう異種金属でウチの会社も初めてだし、ウチが初めてなら世の中にも無いってことだろうと思いました。
小杉:「スリップジョイント」はウチの伝統技術だけど、やってるのは鋼管と鋼管の接合だもんね(笑)ハードル高いと思ったよね。

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山田:そうだったんですか?あの時の北村さんの感じは結構簡単に「やってみよう!」みたいな感じだったけど(笑)僕自身はハードルの高いものだとは実感していなかったです。できるんだろうなという軽い気持ちでした。
西海:ボクには絶対できない提案ですよ。ボクはどうしても、「絶対できる」ってわかっている技術しか提案できないです。でも北村はその段階でも「絶対できる」ってわかってたんだと思うし、可能性があるならそこに向かって知恵を絞っていけばいいと考えるんですよね。ボクはまだ経験不足でその判断ができない。でもこういう提案ができるってスゴイなぁって思ったのを覚えてます。
山田:その打合せの時にバナーポールのプロポーションについて話もしましたよね?どれくらい細くできるか?とか。
西海:山田さんから質問が出たときに「西海、どれくらい細くできる?」って北村から突然話を振られて(笑)
小杉:その場で強度計算をして寸法を答えたんだよね?
西海:完全に試されているなと(笑)焦りながらもその場で電卓を叩いて「外径は80mmでOKです」って答えて、基本的なプロポーションの条件が決まりました。
小杉:そういうのって普段から北村さんに言われてるの?その場で答えて来い!みたいに(笑)
西海:言われていますね。デザイナーの仕事を考えたときに、強度的に必要な条件や参考値がなかったらデザインが進まない、打合せ図面の端っこでもいいから手書きでも強度計算くらいできなきゃダメだよなって。この時に80mmっていう寸法を答えられた時に「なるほど、こういうことか」ってよくわかりました。
山田:なんか最初からヤバそうな仕事の担当になったと思いました?(笑)
小杉:その後、北村さんからのチェックもバンバン入るしね(笑)
西海:正直なところ、ヤバさ加減が想像できなかったです。どういう道を進めばゴールに辿り付けるのか全く分からなくて。
山田:ゴールが見えないって不安ですよね。
西海:デザインと構造って言葉にすれば簡単ですけど、実際はそう簡単じゃなくて。強度計算をしてNGの場合、ただ「NGです」って答えればいいわけじゃない。どういう伝え方をすればいいか?別の提案ができるか?というのも同時に考えないといけない。その現場に対峙しないとわからない苦労がたくさんある。当時、それが理解できてなかった。

デザインコンセプト
小杉:山田さんの方のデザインとしては、基本的な寸法を西海から伝えられて、「織物」っていうコンセプトに対しての回答はどう出しましたか?
山田:織物・絹糸産業にちなんだ形を考えて「糸針」、「杼(ひ)」、「蚕がつくる繭」をイメージしながらデザインを3案くらい考えて、福島さんとも相談しながらデザインを詰めていって、プロジェクトチームの中でも話して、その中で「糸針」をイメージしたデザインが可愛らしさもあっていいんじゃないかということになりました。フットライトの光が出る部分は隠れていて、昼間見たらどこから光が出るかわからない、この特徴も理由のひとつです。

詳細設計開始
小杉:デザインが最終決定して、ここからいよいよ構造の詳細設計を西海が始めるわけだけど、どこから設計を始めた?
西海:フットライトの照明器具は、照明器具メーカーに相談してましたけど、まずはポールに内蔵できる大きさの既製品があるか?とか配光や防水性、メンテンンス性を考えるとなかなか器具の選定ができなかった。
小杉:製品の納期から考えると、照明器具が決まらなかった期間はかなり長かったよね。
西海:最終的には小さなサイズの器具を山田照明さんが探してくれて、その器具をポール内に納める構造の検討に入りました。
山田:その納まりも結構大変だったと記憶してますが?
西海:そうですね、器具を入れるためには開口が必要で、開口があれば強度は落ちるという、部分と全体を何度も山田さんとお話ししながら決めていきましたけど、強度とデザインを両立させることにすごく時間がかかりました。
山田:西海さんからは3Dプリンタで模型、またはCGを作っていただいたりして、確認を繰り返しましたね。
西海:開口部のフタの形状についても山田さんと結構話しましたよね?
山田:デザインの中でできるだけ唐突感の無いフタの形状にしたくて、鋳物の造形性の良さも考えながら、曲線を使った形状にしましたね。弊社でもちょうど本格的に3Dを取り入れた段階だったので、トライアルが出来ました。
西海:山田さんから来るデザインの要求と開口部の機能性という部分は必ずしも合致しないので、鋳物の断面形状を決めるには鋳物屋さんとかなり打合せをする必要がありました。

「構造は正しい決め方をしなきゃいけない」
小杉
:器具が納まる部分は、前面には光がでる開口があって、裏には作業用の開口部があって強度的にかなり厳しかったと思うけど?
西海:なかなか強度的にOKが出る断面が決められなくて。1mmとか2mmという寸法を調整しながら検討を続けていましたが、どうしても強度的にOKが出なくて。
小杉:これずーっとやってたよね(笑)
西海:それで北村に相談しました。北村からは「どうしてもNGなら、少しプロポーション太くしてOKを出すしかないんじゃない?山田さんと話してみれば?」というアドバイスでした。
別の機会でも北村がいつも言ってるのは「構造は正しい決め方をしなきゃいけない、無理をして耐久性の無い構造にするより、デザイナーとしっかり対話をしながら構造とデザインの全体最適を探すんだ」と。

上司のアドバイスを無視してでも「なんとか納めてやろう!」
小杉:それで太くする提案を山田さんにしたんだっけ?
西海:この時期はボクからの発信が上手くできてなくて、かなり時間がかかってしまっていて、今さら山田さんに「太くしていいですか?」って言えないよなぁと(笑)
それと「なんとか納めてやろう!」と思って!
山田、小杉:お~~~っ(笑)
西海:さらに考えて強度を増す断面の工夫もしましたし、山田さんとも会話をしながらなんとか納められたんですよね。そこで決めた断面形状を鋳物会社さんにフィードバックして鋳造できるかチェックしてもらいました。
山田:この頃って、この仕事に対して西海さんの意思がすごく強く感じられ始めたように記憶してるんですよね。
小杉:そうそう、やり切ろうっていう気持ちの強さをすごく感じた。
山田:ある意味、上司のアドバイスを無視して、ですからね(笑)
でも本当にできましたもんね。今こうして見ると随所に工夫してあるのがよくわかりますよね。
小杉:鋳物会社さんとの会話は?鋳物製品は、我々だけで決めるんじゃなくて、最終的には鋳物屋さんがチェックしてOKをもらえないと鋳造できないよね。
西海:そういう意味では今回は3次元データを多く使いましたね。デザイン自体も二次元だけでは表現できない形状でしたし、製品形状と鋳造性についてはかなり密にやり取りしました。

201218 断面着色と解析画像

最終段階で突き付けられた「構造的にNG」
山田
:断面が決まって、西海さんの設計は完了?あとは製造という段階ですか?
西海:それがですねぇ・・・・・・。最終図面を北村に見せて確認したところ、フットライトもバナーポールも、ポールの鋳物と基礎コンクリートとの接合構造にNGを出されてしまって。
山田:どういう意味のNGですか?
西海:簡単に言うと差し込んで横からボルトで止める構造を考えたんですけど、差し込む以上は隙間が残ってガタガタ揺れる、やがてボルトが切れる、隙間から水が入って抜けない、そういう理由です。
山田:あんまりやらない構造ですか?
西海:そんなことはないんですが、応力レベルや、製品のどの位置に使うかを考えると、基礎コンクリートとの接合部は最重要接合部なので安定しない構造ではNGだと。
小杉:もう、すぐにでも鋳物の製作をスタートしなきゃいけない時のNGは焦ったよね。
西海:納期がない!なんとかこのままやらせてください!と北村に食い下がりましたが、やはり、「構造は正しく決めなきゃいけない、時間が無いなら、無い中で正しい構造を決めないといけない。納期については鋳物会社さんに自分が調整する。だから構造を考え直しなさい」と。
小杉:この段階で鋳物の形状を変えるってことは、木型を修正するってことだから大問題だったよね。NG出されて実際どんな心境だった?
西海:全くやらない構造ではないので、今でも接合構造の一つの方法だと考えています。でも今回の製品のあの位置でと考えると正しい構造ではないと認めて、なんとか正しい構造を考え直しました。

最初からわかっていた、寸法精度の課題
山田
:そこの構造を何とか考え直して、そしたらもう大丈夫ですよね?
西海:いや・・・・・・まだあって(苦笑)
小杉:スリップジョイント部分の寸法精度がなかなか出なかったんだよね?
西海:摩擦力で固定する構造なので、1mmでも寸法が狂うと成立しないんです。
山田:どう解決したんですか?
西海:鋳物を再度、機械加工に出して削ってもらい精度を出しました。最初から寸法精度の課題があるとわかっていたのに、要求仕様をしっかり鋳物会社さんにも伝えられてなかったのも原因でしたね。
山田:それは今までにやったことのない、新しい事に挑戦したことで起きたことですか?
小杉:そうですね。想像できてなかった部分がどうしてもありましたし、その部分で問題が起きましたね。

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グッドデザイン賞受賞とこの仕事で得られたもの西海:作るのも難しい製品だったので、製造現場の人ともたくさん話せましたし、いろいろ経験をできた件名でしたね。スリップジョイントの仕上がりも、器具の納まりも、普通の人が見たらどうなってるんだろう?と思うほど綺麗に仕上がっているので、とても満足してます。
山田:私も達成感と充実感を感じてます。このフットライトとバナーポールでグッドデザイン賞を受賞できました。
小杉:苦労した甲斐がありました。グッドデザイン賞という形で評価もしていただきましたし、高崎市は弊社工場の近くというのもあって、工場の社員も喜んでくれました。

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ボラード昼夜

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山田:西海さん、今後もこういう仕事に挑戦したいって思いますか?
西海:はい、自身の成長のためにはやっていきたいです。
小杉:確実にスキルが上がるからね。でも今回、北村さんからのアドバイスを無視してやったとこなんていいよね、西海。その心意気みたいなのずっと持ち続けて欲しい。
西海:まだまだ経験不足なので、発言に説得力をもてるようになりたいですね。同じことを言っても、北村とボクでは説得力が違いますから。
途中でもうこれ以上は無理だなと思ったところも、もうひと頑張りしたら結果としてできた。
山田:でもそういうふうに思える誠実さと、ここは譲れないっていう技術者としての矜持もあってすごくいいなと思います。この仕事をしている期間のヨシモトポールさんの社内の出来事は聞いたことがなかったので面白かったです。ありがとうございました。
小杉西海:ありがとうございました。


■事業全体を監修された福島さんより
技術に基づいたデザインが実現できたことが非常に意義深いと思っています。
ずっと以前から北村さんと話していたこと(デザイナーの要求する形を実現するのとは異なる、もっとヨシモトポールの技術をベースにした形の提案ができないか)が少し実現できた気がして嬉しく思っています。
読んでいて最初の打合せの時からずっと悩ましい顔をしていた西海さんを思い出しました。
良いご経験になったなら非常に嬉しいです。

■編集後記
山田さん、ありがとうございました。
今回、山田さんのデザインの要求レベルは非常に厳しく、しかしこの厳しいプロポーションだからこそ「スリップジョイント」の構造・外観の仕上がりの優位性が際立ったと思います。
厳しい要求レベルの中で苦悩した小杉・西海を最後まで信頼していただき感謝申し上げます。特に西海は単に技術的スキルが上がっただけではなく、メーカーのエンジニアとしてどういう姿勢・心持で仕事をしていけばいいのかを学ばせていただきました。また、福島さんからのお声がけで、グッドデザイン賞へ応募し受賞できました。審査委員からの評価は、モノづくりを生業としている私達への最高の言葉でした。ここに転載します。
ありがとうございました。

■グッドデザイン賞 審査委員の評価
金属ポールがそのまま突き出すことが当たり前となっている公共柱の施工状況に対し、新たな技術開発からのあらたなたたずまいの創出という地味ながらも画期的なデザインアプローチが高く評価された。素材とその複合、施工技術開発により、軽やかで空に溶け込むようなポールを生み出しており、時に空間に溶け込み、あるいはそのまちならではの存在感を公共空間設計者が自由に検討できるパブリック部材として全く新しい。公共工事においては高い安全基準を満たすことが必須であるが、この分野を熟知した老舗企業が、こういったアグレッシブなデザインアプローチを行い製品化したことに敬意を表したい。








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