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第五章 四谷 新宿通り

概要 
 
四谷・新宿通りプロジェクト(2004~2005年・国道20号線)     
発注者 国土交通省

 国道20号線の四谷から新宿三丁目間(延長1200m)の車道・歩道照明柱と歩道舗装、横断防止柵のデザイン、製作が仕事の中身であった。すでにデザイン案は出来ていたが、事業者である国土交通省・東京国道事務所から相談を受けた篠原がデザインをやり直すことを提案し、東京国道がそれをよしとして、結果的には、いつもの篠原・南雲・小野寺・ヨシモトポールのチームでやることになったプロジェクトだった。従ってこのプロジェクトでは委員会は設置されず、事業担当者と地元の商店街との合意で仕事は進められた。国道20号線の続きとして、皇居周辺道路との連続性が意識され、また商店街であることを考えた、より華やかさのある歩道照明柱が実現した。車道照明柱は、篠原が「鶴」と命名したシンプルで従来からの南雲デザインの水準を抜くデザイン・製作のポールが出来上がった。

開催日 2012年12月11日(火)
ファシリテーター 篠原 修

参加者                               小野寺康 小野寺康都市設計事務所                             南雲勝志 ナグモデザイン事務所                                                                                        浅山茂樹 伊藤鉄工
森田実 ヨシモトポール                                                          
北村仁司 ヨシモトポール 
丸山浩二 ヨシモトポール

仕事のきっかけ

篠原 それでは小野寺さん、過去の経緯を踏まえつつ仕事のきっかけを説明してください。
小野寺 東京国道発注で、すでに別のコンサルタントが受注し、防護柵と照明柱の製作が先行していたところで僕が呼ばれたんです。
丸山 共同溝(*1)の設計をしているコンサルタントが、実施設計を仕上げていたのですが、発注段階で切り替わりました。
南雲 東京国道が篠原先生に相談して、篠原先生がちゃんとデザインするように言ったんじゃないですか? そのあと僕が合流したんですよ。
篠原 あまり記憶に無いけど、東京国道から僕に相談があったのかな。
南雲 商店街が、バブル時代に自分たちの金で歩道照明柱を建てていたんですよね。
篠原 ガラスの大きな灯具が二つ付いた、スズラン灯のような照明柱だったね。商店街は、もちろん補助金も貰っているんだけれど、自分たちの金でつくった誇りがあるので、前のスズラン灯に思いがある。だから最初の頃は、商店街から前のデザインを大切にしてくれとかいろいろと注文があったよね。たぶん、東京国道としても話が進んでしまって、商店街を説得しきれなくなったから、僕が呼ばれて説明に行ったと思うんだ。
南雲 篠原先生は、新宿通りと言っても皇居周辺から近いし、甲州街道の始まりだから、皇居周辺との関連性が必要なんじゃないの? とおっしゃっていたんです。

*1 共同溝(きょうどうこう)                   電気、電話、水道、ガスなどのライフラインをまとめて道路などの地下に埋設するための設備のこと。

篠原 麹町が、旧銀座通りと同じ照明柱をそのまま持ってきたので変だと思ったよ。四谷新宿通りは、麹町を挟んじゃうけれど、皇居周辺から20号で半蔵門からずっと繋がっているところだから、やっぱり連続性を考えないとおかしい。でも、最初の頃は商店街の人はいい顔はしていなかったな。前のスズラン灯を踏襲してほしいということと「ここは皇居周辺みたいなところじゃなくて、商店街なんだから」とかなり強く言われました。つまり、賑やかなイメージだったのでしょう。

スズラン灯 商店街が出資して、バブル時代に建てられた照明柱。 当初、商店街からは、この照明柱の様なデザインが いいと要望があった。

小野寺 商店街はそういうのが好きなんですよね。
南雲 そう、それで前のスズラン灯を一本、近くの公園に残しているんですよ。
浅山 思い出しました。スズラン灯の支柱を、全部きれいにショットブラスト(*2)を打って塗装し直すために、伊藤鉄工に仕事が来たんですよ。あれは当時高かったと思います。
北村 スズラン灯の撤去工事も、このときの工事に入っていたんですよね。
篠原 整理すると、東京国道から僕に相談が来て、こんなのをつくりたいってスズラン灯に近いデザインを見せてくれたんだ。普通、僕はそんなことしないんですけど、東京国道の人に「四谷見付橋もそうだったけど、今までのスズラン灯を踏襲して並べたんじゃダメですよ」って話をしたんだ。それで、南雲さんを引っ張り出して、一緒に商店街周辺を回ってスケッチを描いてもらったんだよね。最終的なデザイン案は、皇居周辺事業の照明柱のデザインよりも少し華やかなデザインになった。商店街のソバ屋さんのおっちゃんと一本ウラの通りで何度か飲んだけど、彼らは、商店街を周ってスケッチを見せたときは、ピンと来てなかったでしょう?
南雲 模型を見せてから、変ったんじゃないですかね。
篠原 あのとき何案つくったの?
丸山 2案ずつ出ていたと思います。
南雲 最初は参考資料を見せて、2回目にスケッチと模型を持っていって、3回目で決定しました。

*2 ショットブラスト                        細かい砂や鋼製・鋳鉄製の小球(ショット)などを金属の表面に吹きつけたり打ち当てたりして,表面を仕上げる加工法。

照明柱のスケッチ

小野寺 最初から車道照明柱・歩道照明柱・防護柵のセットだった?
南雲 防護柵は、舗装と一緒であとで製作しました。ただ、もう発注後だったから東京国道からはデザイン料が出なくて、篠原先生に助言を頂き、工事の元請けが僕のデザイン料を出すということでまとめてもらいました。
篠原 だって、タダでは出来ないでしょ。
小野寺 南雲さんは、かなり安い値段でやろうとしていて、篠原先生に「馬鹿じゃないのか」と言われていました。南雲さんが受注したデザイン料の最高フィーは、未だにこれですよね(笑)
南雲 篠原先生に桁を一つ増やせと言われました。(笑)
篠原 「いつもどうしているの?」って聞いたら、南雲さんは直接人件費だけ出して、それを請求しているんだよ。普通のコンサルタントだったら、人件費に諸経費と技術料をのせて出すでしょ? そうすると、直接人件費の2.6倍とかになるよね。それを南雲さんは直接人件費しか要求してないもんでさ、それは儲からないのが当たり前だよ。(笑)
小野寺 参考として、僕がいつも出している土木の見積りのエクセルのデータを南雲さんに渡したら、南雲さんが「いきなり3倍ですか! まずいだろう!」と怒っちゃったので「南雲さん、家賃はどうしているんですか? 給料はどうしているんですか?」とたたみかけて、納得してもらいました。
篠原 当時をよく覚えているけど、南雲さんに「これ、一桁違うんじゃないの?」って言ったんだ。
南雲 僕としては、手が震えそうになりながら見積りを書いたんですよ。それがなんにも言わずに通っちゃって。
小野寺 最終的に大台から少し削られたけど、2倍以上は貰ったわけですね。南雲 そんなには多くない。本当に桁を増やしたわけじゃないもの。そういう気持ちで書いたっていうことです。
篠原 四谷新宿通りは、南雲さんが会社の経営者として目覚めたプロジェクトだったんだね。
小野寺 今回、地元は全然予算を出していないんじゃないの?
南雲 東京国道が全部出しています。
篠原 スズラン灯でやりましょうって言えば、地元は抵抗なかったんじゃないの?
南雲 そうでしょうね。そんなにとんでもないものじゃないから、篠原先生を入れなかったらスズラン灯になっていたと思います。
小野寺 歩道照明柱は、ボンボリ型だから商店街も理解すると思うんですよ。でも、車道照明柱は商店街が良く理解したと思いましたね。
篠原 車道照明柱はあんまり言われなかったような気がしたな。
南雲 車道照明柱は、商店街の人達自身がどんなものを建てていいかわかっていないようでした。というか、興味がないんですよ。商店街は歩道照明柱は気にしていたけれど、車道照明柱にはほとんど口を出しませんでした。

歩道照明柱の灯具 

 篠原 製作の話になるけれど、歩道照明柱は灯具のガラスが大きかったから苦労したんじゃないの? 皇居周辺事業よりもだいぶ大きいよね。
南雲 皇居周辺事業はΦ400㎜弱くらいだったけれど、新宿はΦ600㎜くらいはありました。福島県の鈴木特殊ガラス(*3)の工場まで見に行ったんですよね。この製造現場は面白かったですよ。プレス成型なんですが、ヒビが入ったりして結構失敗するんです。でもだんだん慣れてくるとうまく出来ていましたね。
篠原 型をつくっておいて、ガラスを流し込んで、上からプレスするの?
南雲 はい。上からプレスするんですけど、金型をそのプレス機に入る大きさにしなきゃいけないんで、ガラスの最大の大きさがΦ600㎜くらいになりました。
小野寺 前に現物を見たけど、大きいと思いましたね。赤ん坊を入れるのかと思いましたよ。(笑)
北村 あのガラスはなかなかつくれるところが見つからなかったですよね。製作が難しかったのでガラスの不良率が高すぎました。気泡が入ったり、割れていたり。ガラス屋さんからは、こんな不良率が高いものは、我々の製品としては扱えないと言われましたが、最後はなんとか認めてもらいました。
篠原 設計に無理があるってことか。でも、117基も建てているよね。
南雲半分くらいは失敗するんだろうと思っていたんだけれど、つくってみたらそうでもなかったですよ。三分の一も失敗しませんでした。最初はツバのところが薄くなったりして失敗していたんだけど、慣れてくるとだんだん上手くなっていました。さすが職人さんです。僕は、職人さんに「序々にいいのが出来てきましたよ!」とおだてて頑張ってもらいました。

北村 三分の一も失敗したら、かなりの不良率ですよ!(笑)

*3 鈴木特殊ガラス                        福島県西白河郡にあるガラス製造会社細かい砂や鋼製・鋳鉄製の小球(ショット)などを金属の表面に吹きつけたり打ち当てたりして,表面を仕上げる加工法。

ガラスの種が足りないとツバまでガラスが回らない。

浅山 職人さんが怒ってましたよね。南雲さんのところに「こんなの出来ない!」と言いに来ていました。
南雲 僕らが行ったときは、20個くらい失敗したのが並んでいた。ガラスはもう一回溶かして使えるから、不良品は無駄にならなくて大丈夫だけど。
小野寺 いやそうでもないんだよ。
北村 全然大丈夫じゃない!
篠原 ガラス屋さんは最初は嫌がっていたわけか。
北村 ドロドロに溶かしたガラスを、棒の先に水あめみたいに巻いて、人力でプレス機まで持っていかないといけないんです。型に垂らすときにハサミで切るのですが、その切った量が少ないとガラスが最後までまわりません。つまり、目分量なんですよ。何回もやって、やっと切るタイミングがわかってきた感じでした。とにかく、冬だったからよかったのですが、夏だったらつくれないと言われましたね。温度が高くなるので、現場で働ける人間がいないって言われました。
篠原 福島のどこ? それは灯具メーカーの関連会社?
南雲 新白河です。古びた工場でレンガの煙突があったのを覚えています。
北村 灯具メーカーが、探しても、探してもあの大きさのガラスがつくれるところが見つからなくて「このサイズのガラスはつくれないからデザインを変えてくれ」と南雲さんに言っていたが、南雲さんが「じゃあ日本中のどこでも出来ないんだな!」って言ったら必死になって見つけて来ました。
南雲 ガラスの金型も相当高かったはずですよ。そこで出来たガラスにランプを入れて、点灯実験をして確認したんですよ。職人さんには「こんなの出来るか!」と怒鳴られましたけど、最後は「いやあ、出来たじゃないですか」って言ったら、喜んでニヤニヤしてましたね。

溶けたガラスをハサミで切る
脱型直後のガラス

篠原 職人だからね。出来ないって最初は思うけど、出来ると喜ぶんだよね。歩道照明柱のガラスには、縦に模様が入っているのかな?
南雲 そうですね。縦の模様があると、キラキラとして上品だし、型ガラスじゃないと出来ない質感ってあるじゃないですか。
篠原 灯具のフレームは鋳鉄? これも細くて難しかった?
浅山 当初はそんなに難しいと思いませんでしたが、いざつくり初めたら、灯具の大きさに対して鋳鉄の首の部分がとても細くて大変でしたね。灯具はアルミ鋳物でつくることが多いですが、このときは鋳鉄でつくったからすごく難しかったです。
小野寺 首のΦ40㎜ってのは、今見ても超絶的な細さだな。
南雲 灯具メーカーには、専用の振動の試験機があるみたいなんですよ。それを何百回も試して、折れないかどうか試験したんですよね。
篠原 デザイナーとしては、なんで細くしたかったの? 浮いている感じ?
南雲 車道照明柱は男性で、歩道照明柱は女性のイメージがあって、歩道照明柱は華奢な部分がある方が、めりはりがついていいと思ったんです。
小野寺 浮いて見えるよね、逆光気味で見ると、首が無いみたいに見える。

二種類のガラスの点灯実験
模型を用いた灯具のボリュームの確認
歩道照明柱の灯具
歩道照明柱


車道照明柱の設計トラブル

篠原 車道照明柱の製作はどうだったの?
南雲 車道照明柱は、これでデザイン決定と言って、東京国道に図面を提出する前日に、ヨシモトポールから「やっぱり、あのデザインでは成立しません」って連絡が来たんですよ。上柱の二本の柱の間に、一本から三本くらい横の繋ぎ材を入れないと構造的に成立しないと言ってきたんですよ。
篠原 ああ、強度的にもたないって話ね。
小野寺 まあ、強度的に繋ぎ材を入れたい気持ちはわかりますけどね。
南雲 だけど、ずっと図面をやり取りしながら検討してきて、この設計で成立するって言っていたのに、図面を出す前日に「やっぱりこの繋ぎ材を入れないと成立しません」って言ってきた。それで僕が怒り狂って、ヨシモトポールをナグモ事務所に出入り禁止にしました。そのくらいあり得なかったんです。このデザインの特徴的な意匠を変えることになるわけじゃないですか。
篠原 確かに、横に繋ぎ材を入れると印象が変わるよね。出入り禁止になったときの営業担当は丸山さん?
丸山 当時は、私も南雲さんの担当を引き継いだばかりで、どう対処していいか全くわかりませんでした。
南雲 すぐにヨシモトポールは社内で検討したんでしょうね。設計担当者を北村さんに変えて検討を始めてくれたんですよ。北村さんと付き合うようになったのは、このときからです。

車道照明柱

篠原 出来ないって言われたときは怒っていたけど、こんな特殊な柱、ヨシモトポール以外にはつくれないでしょう? 関係を切るって言ったって簡単には切れないよね。
南雲 でも、ヨシモトポールも仕事は取れるだろうっていう油断もあったよね。
小野寺 ヨシモトポールの、チャレンジ精神がない気持ちにはっぱをかけたんだね。
南雲 そうそう。仮に一ヶ月前に言ってくれれば、デザイン的にやりようもあったけれど。
篠原 ギリギリになってって話か。
南雲 出来ないからしょうがないって言っていたら、繋ぎ材がついちゃってましたよね。
北村 とにかく、構造としてどう捉えるかということを見直しました。エンジニアとしては、絶対にデザイン図面通りの製品をつくりたかったんです。それくらい格好いいデザインでした。でも、僕が仕事に投入されたときは最悪の雰囲気で、何を言っても南雲さんには信用されませんでした。
小野寺 この細いコラム材は、鉄板を全部溶接しているだもんね、凄いよね。篠原 構造設計を見直して、鉄板を溶接してコラム材をつくることにして、すごい労力だよね。
北村 労力と言うより、結果を出して信頼を得ようという思いしかありませんでした。
南雲 一回裏切られているから、簡単には信用出来ないよね。(笑)

一難去ってまた一難

 南雲 あと、自動点滅器を入れる方向を間違えたんだよね。
北村 伊藤鉄工が、木型をつくるときに図面を見間違えて、本来は車から見て裏側になければならないのに表側に付けてしまったんですよ。
南雲 いやあ、衝撃的だったよ。(笑)
小野寺 東京国道から「一晩中立って調べろ」とか言われてなかった?
丸山 夜になって、車のライトが当たって自動点滅器(*4)が誤作動しないか確めに行きましたね。
北村 自動点滅器に車のライトが当たると、昼間だと勘違いして照明を消してしまう可能性があります。通る車の台数のデータを取れと言われて、みんなで一晩中車の数を数えました。
篠原 結局大丈夫だったから、向きは変えなかった?
北村 まあなんとか。(笑)
南雲 車のライトって、上にあまり光は飛ばないんですね。
小野寺 いやいや、あれは直線街路だったからね。あれがカーブだったら結果が違っていたかもしれないよ。
南雲 これを全部、つくり直して建替えるのは大変ですよね。
小野寺 全部建て替えろって話まで出た?
南雲 出たよ。それで「丸山さんどうする?」って聞いたら「いざってときは、私が責任取ります」って。丸山さんの退職金じゃ足らないよね。(笑) 建替えは現実的に無理だったから誤作動しなくて本当に良かったと思っています。

  *4 自動点滅器                         周囲の明るさに応じて照明器具のON/OFFを自動的に行う装置。

自動点滅器用開口部

丸山 退職金を前借りしなくて済みました。(笑)
篠原 設計トラブルで始まって、自動点滅器の問題もあったけど、なんとか完成して北村さんはどう思った?
北村 いろいろあって、当初は南雲さんに迷惑をかけましたが、僕個人としては、このデザインの照明柱が少しずつ実現していくのが嬉しかったですね。

車道照明柱の技術

 篠原 アーム部分の溶接のところは大変だったんじゃないの?
南雲 面一仕上げでね。どこから見ても溶接の跡が見えないようになっています。新宿通りは溶接コラムだからちょっとでもずれると目立つんですよね。北村 皇居周辺事業で溶接の仕上げが汚いと指摘されてから、こういう部分の仕上げには気を使っています。当時も決して汚かった訳ではなく、普通だったんですけどね。(笑)
南雲 いや、汚かったって。(笑)
篠原 柱の中間に開いている丸穴、結構特徴的だよね?
南雲 これは「扇子」のイメージだったんです。でも技術的に難しいという話が浅山さんからあったので、一回やめようと思っていたんですよ。

溶接コラムの製作風景
溶接が面一で仕上げられたアーム
試作品を前に打ち合わせ

浅山 丸穴がここにあると、鋳鉄の製作が極端に難しくなるのでやめて欲しいとお願いしました。
南雲 でも、北村さんがどうしても付けてくれって言ったんじゃなかったっけ?
北村 初めてデザイン図面を見たとき、直感的にこの丸穴を、鋳鉄とコラム材の接合構造の一部として使おうと思っていたんです。つまり、デザイン的にも効いている丸穴を、構造的にも使いたかったんです。浅山さんからは「この部分の構造をなんとか簡単に出来ませんか?」と何度も言われましたけど、この構造以外考えられなかったですね。それくらい画期的な構造だったんです(笑)
南雲 その丸穴の上半分に作業口があって、そこに手を入れてボルトを締めるんです。作業口の蓋の造形が大変だったみたいですよ。あと、北村さんが丸穴から音が出そうだって心配してましたよね。
篠原 音が出た経験はあるの?
北村 風が吹いたときに笛みたいに音が出ることがあるじゃないですか。鳴るか鳴らないかはわからなかったですけど、丸穴の縁を面取りして、風との摩擦を少なくすることで、音が出づらいように仕上げを変えてもらったんです。
篠原 南雲さんは、この丸穴を構造的に使うことは考えていたわけ? 単に扇子のイメージだから穴を開けようと思ったの?
南雲 いや、接合のことは考えていなかったです。鋳鉄があまりにも重々しいのは嫌だったので開けました。
小野寺 凄くデザイン的に効いているよね。

作業口の収まり
接合ボルトの作業性の確認

横断防止柵と舗装について

 篠原 横断防止柵や舗装もやらなきゃいけないと言って、小野寺さんに入ってもらったのは照明柱のデザインが決まったときくらい?
小野寺 もう車道照明柱も歩道照明柱も建っていました。
篠原 舗装はそんなにもめなかったっけ?
小野寺 東京国道の担当者と直接打ち合せをしました。何しろ照明柱の評判が良いので、レンガを敷きたいと提案したときは「すぐやりましょう」って感じでしたよ。
南雲 アルゼンチン斑岩を入れたいって話もあったじゃない。
篠原 ああ、麹町通りはアルゼンチン斑岩だったからね。
小野寺 東京国道は、すごく麹町通りと新宿通りのバランスを気にしていました。結局は南雲さんがデザインした防護柵ではなく、標準品が設置されましたね。

モノのデザイン

 小野寺 新宿通りの柱は、南雲さんのデザインのなかでトップクラスだと思う。歩道照明柱も商店街には合っているし。これはヨシモトポールとしても、もっとPRして良いと思う。
南雲 ただ、コスト的に、このクラスの照明柱はもう建てられない時代になりましたね。100万円を超えたら厳しいって話になっているから。でも、この新宿通りの照明柱が鋳鉄で実現したことの意味は大きくて、この後は、どんなデザインでも出来るんじゃないかって思えましたね。
篠原 新宿通りの照明柱は画期的だったわけだ。デザインもいいし。
小野寺 この歩道照明柱をつくれる技術があったら、境川整備は苦労しなかったわけですよね。(笑)
篠原 最後に南雲さんに質問したいのは、皇居周辺事業、新宿通り、行幸通りのような代表的な場所と、例えば、日向や油津などのような地方でのデザインの違いって意識しているの?
南雲 それはしていますね。皇居周辺事業や行幸通りでは、ある意味日本を代表するデザインをしなければならないという意識があります。世界中誰に見られてもいいという気持ちでつくっています。海外を意識するってことですかね。一方で、日向や油津は、地域性や地域の人達の個性が大事だと思っています。

八王子甲州街道の照明柱
新宿通りの歩道照明柱


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