冬と制服と紅茶と。
12月。みな白い息を吐きながら、どことなくナーバスで、口数も少なくなっている。
教室の空気が重い。「ちゃんと復習しときなよー!」と先生が教室を出ていったあとも、誰ひとり口を開かなかった。プリントを黙々と見返す人、机に突っ伏する人、ブランケットにくるまりながら、のそのそとトイレに立つ人。
この光景は異常じゃなく正常。鬱屈な冬は、すべては春を迎えるためだけにあるのだ。我慢できなければ、春は来ない。
放課後は家にも寄らず、そのまま塾に向かう。わたしが通っていたのは、国語だけを教えてくれる個人経営の塾だった。
その塾の近くにあるコンビニで、わたしはホットの紅茶と、お気に入りのパンを決まって買う。寒々しい雑居ビルの二階。パーテンションで区切られた机ひとつ分のスペースで、あたたかい紅茶を口に流し込んだ。朝からフル活躍している脳に、つかの間の休息をあたえる。このまま眠ってしまいたい。10分もないこの時間が、わたしにとっては至極贅沢なものだった。
教室がだんだんと赤っぽくなる時間。半年前まではグラウンドに飛び出してた時間。
「あとちょっと我慢しなさい。」
「単語テストするよー」と先生の声が響いた。そこからまた、シャープペンをひたすら走らせる。聞く、書く、解く。ぬるくなった紅茶を流しこむ。また、聞く、書く、解く。つぎにシャープペンを置いたときには、紅茶は常温になっていた。
そうやって繰り返して、なんの色もない毎日がただ淡々と過ぎていって、冬はあっけなく終わった。第2志望校、合格。
喜ぶにも悲しむにも、どっちつかずな終わり方だったけれど。
つまらない冬が過ぎ、教室に笑い声がもどってきたこと。
あつい紅茶を味わっていいこと。
ただそれだけは、嬉しかった。
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