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コミュニティに笑顔と交流のきっかけを ーダンスフィットネス インストラクター 御子柴かおりさん【お仕事インタビュー #4】

好きなことを仕事にして自分の道を突き進む方々に、そのお仕事と今日までの歩み、そして未来について聞きます。4回目の今回は、アメリカの地でダンス、ダンス、ダンス!

 「家でもずっと音楽をかけて踊っています。振りを考えたり練習したり。キッチンで踊っていても楽しい」。
 
テンポ良くはつらつと話す、ダンスフィットネスインストラクターの御子柴かおりさん。
 
「レッスンでは私もMAXで踊ります。レッスンが終わると誰よりも私が汗だく。そうやってみんなと一緒に踊るのが楽しいんです。踊った後のみんなのキラッキラの表情は何にも代えがたい。本当に素敵」。
 
アメリカ西海岸のベイエリアに住み、ダンスをベースにしたフィットネスのレッスンを週10本ほど開催するかおりさん。スポーツクラブでのレッスンは、34人の定員が毎回予約開始直後に満員になり、キャンセル待ちも上限人数を上回る人気ぶりだという。

自分がほしい場所をつくる

スポーツクラブの他に、週に1回、かおりさんが「自分の原点。大切な場所」と表現するダンスのクラスがある。自ら場所を借り、集客して主催するレッスンだ。
 
「自分がほしいと思っていた場所なんです。アメリカに引っ越してきて、こういう場所を探したけれどなかった。だから自分で作るしかないと思って、手探りで始めたレッスンです」。
 
夫の仕事の都合で、幼い子供2人を連れて渡米したのは2013年のこと。頼れる家族のいない新しい町で、かおりさんは「ふらりと子供を連れて行かれて、少し運動ができて、仲間や友達に出会える場所」を探した。でも、見つからなかった。
 
それでも、そんな場所を求める人は自分だけではないはずと思わずにはいられなかった。少なくとも自分のような駐在ママはたくさんいる。
 
ないのなら、作ろう。かおりさんは子供のころから打ち込み、一時期はプロとして活動していたダンスを武器に、レッスンという場作りに動き出す。
 
「人とつながれる場がほしかったんです。自分自身が満たされていなかったから始めました」。
 
まずはズンバインストラクターの資格を取得。ズンバはラテン系の曲や振り付けが特徴のダンスエクササイズで、アメリカではおなじみの人気プログラムだ。レッスン会場は周囲の助けも借りながらなんとか見つけた。ママ友たちに、お試しで参加してみてほしいと声をかけてまわった。曲を選び、振りを考え、練習を重ね、開催にこぎつけた。
 
いよいよ初めてのレッスン。平日の昼間、10人が集まってくれた。「ものすごく緊張しました。盛り上げなくちゃと思っていたのは覚えていますが、他にはあまり記憶がないんです」。
 
がむしゃらに毎週1回のレッスンに取り組んだ。「緊張、集中、盛り上げなきゃ、元気な先生でいなきゃ、明るくみんなをひっぱらなきゃと、もう全身全霊でやっていました。レッスン後には毎回疲れ切って、気を失うように寝込んでいましたよ」。今となっては笑って話せるが、当時はとにかく必死だった。
 
自分はアメリカ人にように言葉やジョークで盛り上げることはできない。その分パワーでレッスンをひっぱる。だからこそ、かおりさん自らがエンターテイナーとして「MAXで踊る」のだそう。
 
始めて7年。今も同じ場所で週1回のレッスンを続けている。その場を通じて大切な仲間ができた。本当に自分がほしかった場所を作れたと感じているそうだ。

コミュニティに笑顔をとどける

かおりさんにはもう1つ大切な場所がある。不定期で開催する「ファミリーズンバ」。親子が一緒になって踊るイベントだ。
 
「子供にダンスを習わせる家庭は多いですが、親子で一緒に踊る機会はあまりないと思います。パパママが踊るのを見ると、子供は大喜びですよ。そうやって親子が一緒にすごす場を作りたいんです」。
 
イベントはダンスだけに留まらず、工作の時間が設けられることもある。あるときは初めにみんなでリボンを手作りし、それを波に見立てて踊った。ときには仮装をしたり、マジックをしたりと、子供たちの体力や集中力を見ながら、「子供たちを楽しませる」を焦点に工夫を凝らす。

このイベントには、かおりさん一家も総出で挑む。ステージでお手本として踊るのは、かおりさんが「最強のサポーター」と呼ぶ、娘のかれんさん。参加者と一緒に、夫も息子も全力で踊る。ダンス経験のない夫がはりきって踊る姿は、参加しているパパたちをやる気にさせるようだ。それを見て、参加している子供たちはさらに盛り上がる。
 
「みんなが本当に良い表情になるんです。もう、見ているだけで涙出ちゃう。私がやりたかったこと、これ。これこれ、これがやりたかったって、毎回思います」。
 
かおりさんは、ファミリーズンバを開催することで「やっとコミュニティの一部になれた」と感じたという。アメリカで生活を始めた当初、自分は駐在でここに来ていて、またいつどこに引っ越すかも分からない、現地の人並みに英語が使えるわけでもない、という気持ちがいつも頭のどこかにあった。それを言い訳にして、人間関係を築くことも、腰を据えて何かに取り組むことも、なんとなく避けていた。でも自ら始めたこのイベントで、自分にしかできないことはこれかもしれないと思えた。
 
「参加してくれた人が笑顔になる場を提供する。私がコミュニティに還元できることはこれしかないんです。ようやくこの土地で自分の足で立って、この社会で生きていくための自信がもてるようになりました。ありがとうと言ってもらえるのが最大のモチベーションです」。

自分にしかできないこと

実はかおりさんは、自分がアメリカでダンスを習うなら、アメリカ人やラテン系の、ノリ良く盛り上げてお尻をブンブンさせて踊るような人から習いたいと思っていたという。英語も完璧ではなく、ひょろりとした自分のレッスンに人が集まってくれるのだろうかと不安になったこともあるが、今はかおりさんのレッスンを楽しみに待っている人がたくさんいる。ダンスは言葉を使わずとも自分を表現できるツールだ。自分にしかできないことが、できている。
 
クラスやイベントで写真を撮ることがたびたびある。良い写真を撮るコツは、踊った後に撮ること。「みんなメイクも髪も乱れていない初めに撮りたがるけど、絶対ダメ。踊った後は表情が全然違うんだから。汗だくでも何でもいいんです」。参加者のキラキラの表情を見るのが何よりも好きだ。そのためにやっている。
 
「おばあちゃんになるまで続けたいです。自分が誰よりもはりきって踊る今のやり方は体力勝負がすぎるから、もう少し賢いやり方を考えないといけないですね」。
 
一歩一歩、ここまで進んできた。コミュニティに笑顔のきっかけを作るかおりさんの挑戦は、これからも続きそうだ。

スポーツクラブでのレッスンのひとコマ。中央でスマホを構えているのがかおりさん

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御子柴かおりさん
神奈川県生まれ、ダンスフィットネスインストラクター。
5歳からダンスを始め、17歳でニューヨークのカーネギーホールの舞台に立つ。大学では競技ダンス部で活動し、卒業後アマチュアを経てプロへ。英語とビジネスを学ぶためのアメリカ留学後、語学教育企業等で働きながらダンスを続ける。結婚、出産を経て、2013年アメリカ ベイエリアへ転居。多数のダンスフィットネスレッスンやイベントを主催する傍ら、ベイエリアに住む日本人女性のコミュニティを立ち上げ、代表を務める。


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