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第1部

22
第1回~22回
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記事一覧

【1】男女の非対称

とにかく結婚しない日本人 2021年版「人口統計資料集」によると、日本人の生涯未婚率〈1〉は男性が23.37%、女性が14.06%だという〈2〉。これは5年に1回の国勢調査で出される数字で、現在(2021年5月末時点)確認できるのは2015年調査時のデータである。  過去の推移を見ると1990年以降急激に上昇中である。これから発表される2020年調査時の数字も間違いなく前回より上昇しているだろう。日本には事実婚という習慣がほとんど定着していないので、これはそのまま単身者が激増

【2】進化心理学は「科学」なのか (1) 怪しいところもある…

検証可能性についての批判 進化心理学に対しては「反証不可能な疑似科学だ」という批判がある。これはある意味では正当な批判だと思う。  人の身体的特徴、例えば体の大きさや手足の長さ、脳の容量などが過去数百万年間どう進化してきたのかということであれば、骨の化石からある程度推測することができる。ただ、これも簡単なことではない。死んだ生き物の骨が化石になる確率は非常に低く、一説には(一つの骨について)10億分の1の確率だという〈1〉。また、化石になったとしても全身骨格がそのまま残るこ

【3】進化心理学は「科学」なのか (2)問題作『進化心理学から考えるホモサピエンス』

金髪と青い目が理想の女性美?〔前回の続き〕  特に「男はなぜセクシーなブロンド美女が好きで、女はなぜセクシーなブロンド美女になりたがるのか」というQで始まる3章の一部の記述には、日本人なら誰もが違和感を覚えるだろう。  著者は理想の女性美の構成要素として、若さ・細いウェスト・豊満な胸・長い髪・金髪・青い目をあげており、それをまるで人類共通の理想像であるかのように書いているのだが、これは完全に西洋基準、というかアメリカ(の白人)基準の発想である。  4つ目までは世界共通で好ま

【4】進化心理学は「科学」なのか (3) まるで当てにならないわけじゃない

昔からよくある批判だった 前回と前々回で、進化心理学はやや胡散臭く見られがちであり、これにはそれなりの事情があることを述べてきた。  実はネット上で、明確に「疑似科学」という言葉を使って進化心理学を批判している記事は私が調べた限り1件しかない〈1〉(まさに前回・前々回でとりあげた「進化心理学から考えるホモサピエンス」についての書評記事である)。  ただ、この記事についたコメントやその他ネットで時々みかける進化心理学批判を総合すると、批判の要点はだいたいこの「疑似科学」っぽさ

【5】進化心理学で考える性差 (1)オスとメスの違い

主な参考文献 今回からやっと本題である。ここからは進化心理学、または進化生物学に基づいて人間の性的な在り方の起源について考えていきたい。この二つはとても近い関係にあり、生き物全般の形態や生態について進化論的な観点から説明しようとするのが進化生物学、その考え方を人の心理や行動にも取り入れたのが進化心理学である。    最初に断っておくと、私は大学院などに通った経験はなく特に何の専門家でもない。研究ノウハウのようなものを持っているわけではないし、英語で書かれた最新の論文を読み解

【6】進化心理学で考える性差 (2)男と女の違い

種によって事情は様々〔前回の続き〕  哺乳類の大半が一夫多妻もしくは乱婚であるのに対して、鳥類は9割以上が一夫一妻でオスとメスのつがいが協力して子育てをする。とはいえ、そうした種であってもペア外の父親から生まれた子が多数確認されており、立地の良い場所に巣を構えていたり、餌をより多く採ってこれるなど優れたオス(とそれに惹かれるメス)による浮気傾向があるようだ〈1〉〈2〉〈3〉。 先ほど例にあげたクジャク、ウグイス、フウチョウは鳥類の中では例外的に一夫多妻でオスは子育てをしない

【7】10分で振り返る人類700万年史

霊長類の中の人類 この連載は進化心理学(的な発想)を一つの柱としている。である以上、他の動物と比較するだけでなく、人間自体の進化史も一通りおさえておかなくてはならない。ということで今回は、600万年とも700万年とも言われる人類の進化史をなんとか4000字程度に押し込んで振り返ってみたい。 「そこまでさかのぼるか!?」という感じではあるが、一応、最初の最初、霊長類の登場から始めると以下の順序になる(後ろの数字は注の番号)。 ・約6500万年前:霊長類が登場〈1〉 650

【8】10分で振り返るヒトの進化史

現生人類の出アフリカ 前回は霊長類から現生人類へと至る過程をザっと追ってみた。今回は現生人類(ホモ・サピエンス)の進化史と当時の暮らしぶりを、これまた10分で読めるくらいの分量に押し込んで振り返ってみたい。  ここからは、ホモ・サピエンスを「ヒト」、それも含めた人類種全体を「人類」と呼んで区別する。前回述べた通り、ヒトの起源についてはアフリカ単一起源説が主流であり、ここでもそれを前提に考えていく。  ヒトは6~5万年前からアフリカの外への大規模な移動を始めたと考えられてい

【9】美人を決めるのは文化か本能か(前編)

美は文化に左右される? 人は誰もが異性(同性の場合もある)の顔や体形に対して、自分なりの好みを持っている。よく「見た目の好みは人それぞれ」とは言われるものの、世の中には人気のある容姿と人気のない容姿があることは誰にも否定できないだろう。もし容姿の好みが人によって完全にランダムであるのなら、モデルやアイドルといった職業は成立していないはずである。    こうした人気の偏りは文化によるものなのだろうか、それとも生き物としての生まれつきの感性によるものなのだろうか。進化心理学では(

【10】美人を決めるのは文化か本能か(後編)

なかなか反例が見当たらない〔前回の続き〕   たしかに世界中どこの国でも、役者やモデルなど、それぞれの人種や民族ごとの美しさ・格好良さを代表している人たちの顔は、輪郭も、目や鼻や口の形・大きさや位置関係も、だいたいその集団内での平均的な範囲におさまっているように思える(各パーツが大き過ぎず小さ過ぎず、位置が離れ過ぎず近過ぎずというように)。その上で完全な平均値からはわずかに外れていることが、彼らの顔に個性をもたらしているように思える。 以下のサイトを見ていただきたい。  

【11】進化心理学で考える性差(3)男が惹かれる女とは(前編)

意外性ゼロの結論 第7回以降中断していた「進化心理学で考える性差」シリーズの(3)である。この間、人類の進化史や美的感覚の普遍性についての記事をはさんだ。変な流れに見えるかもしれないが、これには一応構成上の理由がある。  今回から数回にわたって、男性と女性それぞれの配偶者選好の違いについて考えていきたいのだが、その前段階としてヒトが進化の過程で発達させてきたとされる審美感覚についての話が必要だと思ったのだ。  さて、今回の副題を見てモテ論の話だと思って読みにきた女性がいると

【12】進化心理学で考える性差(4)男が惹かれる女とは(後編)

ヒトとチンパンジーの違い〔前回の続き〕  前回はチンパンジーのオスが中年のメスを好むのに対し、ヒトの男性には20代を中心とした若い女性を好む傾向があり、その理由は文化的な要因だけでは説明できないことを述べた。では、この傾向は何に由来しているのだろうか。  チンパンジーはヒトに最も近縁な霊長類ではあるものの、第7回で触れたとおり、人類との共通祖先から分岐したのは600~700万年も前のことである。当然、生理的条件や生態はヒトと違う部分も多い。  チンパンジーのメスがヒトの女性

【13】進化心理学で考える性差(5)女が惹かれる男とは ①

いいか悪いかは別として 前回と前々回の記事では男性の女性に対する選好について考えた。「男性は若くて容姿の良い女性に惹かれる」という、極めて当たり前の事実について、それは文化や慣習によるものというより(それもある程度はあるが)生得的な、つまり生まれつきの心理である可能性が高いことを述べた。  この見方は女性にとってあまり気分の良いものではないと思う。年齢は自分の意志でどうにかできるものではないし、生まれ持った容姿も基本的には変えられない(現代の美容整形技術をもってしても変えら

【14】進化心理学で考える性差(6)女が惹かれる男とは ②

石器時代に資産家はいなかった〔前回の続き〕  前回の最後の節で、女性が男性に経済力を求める心理には進化的な基盤がある、というデヴィッド・バスの主張を紹介した。  人間社会では男性間の資源格差が激しく、より多くの資源を持つ男性を配偶者にした女性の方が、そうでない女性より子孫を繁栄させることができた。それが何世代にもわたって繰り返された結果、女性は、より豊富な資源を持ち、かつそれを自分と子供たちに気前よく提供してくれる男性を好むよう進化した、というのがバスの考えであった。