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苦難の「体育館シャワー」

吉田寮は、火災で洗濯室だけでなくシャワー室も失った。
彼らの多くは、講堂横に授業やクラブ活動用に設置されている「体育館シャワー」を利用していた。

近くに銭湯もあったが、家族4人で通うとかなりの出費になる。体育館シャワーを利用したことのあった連れ合いは使い始めたが、小1の息子と小6の娘を連れて行かないといけない私は、なかなか決心がつかないでいた。

寮生は厚生施設として平気で利用しており、家族というだけで気負いしてたまるかと、ある日思い切って行ってみる。自転車の後ろに息子を乗せ、走るのが苦手な娘は後から追いかけてくる形で。

女子シャワー室は体育館の一番奥の方にある。金属の重い扉を開けると、更衣室の奥にカーテンがかけられた個室シャワーが3つ。狭い空間で泣き叫ぶ息子と二人、いちいちレバーを押さないと湯が出ないワンプッシュ式。
忙しく済ませるが、夕方はクラブ活動を終えた学生たちでごった返していることが多く、諦めて帰ることもあった。

気負いしながら利用していたある日、「普通の人が利用するとことちゃうよ!」と管理職員らしきおばさんから注意される。
「吉田寮生です」と断るが、「寮生に家族連れなんかいいひんはずや」と言い返される。彼女は昔、寮食堂で働いていたらしい。

数ヶ月通うも、気まずくなるのが嫌で、数日に一度の銭湯通いに変えた。だが、銭湯は銭湯で「躾の悪い息子」と見られ、肩身の狭い思いは変わらなかった。

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