優
旅をする度に人の優しさに触れる。
私も人に優しくありたいと思っている。
道で物を落とした人がいれば走って追いかける。階段でスーツケースやベビーカーを運んでいる人がいたら手伝う。エレベーターのドアをあけて待つ。ありがとうと笑顔で言う。
赤の他人への優しさは簡単だ。個人的感情がないから。
更に、優しさを与える代わりに満足感を得られる。それは双方にとっても良い影響を与えていることが多いだろう。
一方で、身近にいる人に対してはそこまで優しくできない。
時には意地悪にもなる。
頻繁にある。
なぜなんだろう。
母親の過剰な心配をうとましく思い、冷たくあしらう。
友人の話を聞き、マウンティングされたと被害妄想をする。
同僚の仕事進行に腹をたてる。
遅刻にイラつく、優柔不断にイラつく、なんなら歩くの遅くてイラつく。
一番優しくありたい人たちへの優しさが一番難しい。
歴史があり、関係があり、感情があるから。
これに気づいたきっかけがあった。
郊外で同僚とトイレを探していたところ、ヨガスタジオでクラスが行われているところを横切った時に、彼女が冗談で"ヨガ中の人に聞いてみようか”と言ったので、私は”ヨギーは優しいから普通に答えてくれるかもよ”と言ったら彼女は鼻で笑った。
”そんなことないでしょ”とヨギーである私に言っているように。
もしかしたら考えすぎかもしれない、でも私には彼女からの私に対する静かな抵抗のように聞こえた。
確かに道で見かけた赤の他人への無条件の優しさは、彼女だけでなく、身近な人には示していないと気付かされた。
知っているからこその好き嫌い、感情があるから。
他人へ示す優しさが愛する人への優しさより難しいなんて考えてもいなかった。
大切な人へ優しさを返したいものです。できますように。
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