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セレモニー

夜の10時頃、やっと皆が揃い着席する。
20畳ほどの部屋に30人くらい座椅子や、クッションに座っているので、かなり狭い。
部屋の真ん中で男女分かれており、女性が若干多いようだった。

前にはシャーマンのKと主催側の男性と女性一人づつギターをもち、楽譜を前に置いている。

ヒッピーっぽい人もいれば普通の見た目の人も。20代の若者や60代くらいの方もおり、幅広い。
部屋が少し暗くなり、前に座っている男性が、始まりの挨拶をし、全員立ち上がる。長い沈黙があり、ヘルパー女性2人、男性2人がセージの煙を皆に順番に仰ぎかける。

客観的に自分はなんて変な場所にいるんだろうとふと思う。

シャーマンが儀式で使用する一種のデトックスの方法らしいのだが、葉タバコのハペの吸引が始まる。タバコの葉と灰を混ぜた粉を木のパイプで鼻の中に吹きかけられ、それを痰と一緒に口から吐き出すらしい。

友人から、”びっくりするよ”と脅かされる。

皆列に並び私も順番を待つ。自分の順番になり、シャーマンのKと向かい合う。初めてかと聞かれ頷くと、少なめにするからと言われる。まず息を止め、ハペが鼻に入ったら、ゆっくりと口で息するようにとアドバイスしてくれる。片方の鼻にパイプの先をあて、息を吹きかけられる。すごい刺激が一気に鼻孔広がり、脳にカーッと熱がくる。涙が出てきて、苦しい。息を整え、もう片方の鼻も息を吹きかけられる。苦しさに耐えながら席に戻り、落ち着くのを待つ。

周りはすごい勢いでえづいている人がいる。苦しくて、まずくて不快な喉の違和感を感じる。ハペが喉をつたい降りてきている感覚を感じ、唾を吐き出すがあまり出ない。友人は隣で工場地帯のおっさんばりに音を立てて、たんを吐いている。私はまだ羞恥心からそこまでできない。

皆えづき終わったあたりでシャーマンKが部屋の後ろの祭壇のようなところに行き、ガラスの瓶から黒いどろっとした液体を小さい紙のカップに注ぐ。

ついにアヤワスカの登場。

皆が男女分けて並び出し、一人づつその場で飲んでいく。私の番になるとシャーマンKが私の目をじっと見てからカップにそそぐ。他の人より少なく注がれる。勇気をだし、一気に飲み干す。酸味があり、苦いハーブが発酵したようななんとも言えないまずい味が広がる。なんか飲んだことある味のような気もするけど思い出せない。

アヤワスカを薄めないように水は飲まない方がいいと言われ、嫌な味を残しながらじっとしている。誰も喋らず、マントラ音楽のみ流れている。

元来だったら、シャーマンがポルトガル語のイカロと言う歌を歌うみたいだが、ここのグループは現代的なのだろう、30分ほどたつと、前列のKを含める主催者がギターを弾きながら歌い始めた。前列の常連らしい参加者も太鼓、マラカスなどの演奏で参加している。バイオリンを弾いている人もいた。事前に借りていたソングブックを開き、知らない曲ばかりで難しいが、参加することが大切と言われていたので、私も一生懸命歌う。部屋はローソクのみの灯り。

1時間くらい経ち、Kがずっと歌っていた男性に耳打ちし、違う本の歌を歌い始める。今まではポルトガル語の本だったが、これは英語の歌詞だった。

”The Universe is singing a song. The universe is dancing along. The universe is singing on the night like this. It’s a high time to dance. (宇宙が歌を歌って、踊っている。宇宙はこんな夜に歌を歌っている。踊るときが来た)

今まであまり変化を感じてなかったが、この曲を聴いてから一気に覚醒した。気持ち悪くなり、体に不思議な感覚が広がる。感覚が敏感になっているのか、燃やし続けられているセージの匂いもきつくなり、気落ち悪さが増す。

目を閉じるとブルーとオレンジのドットや、波のようなサイケデリックな模様が動いている。歌を歌い続けることも難しくなり、目を開けると壁にかかっていた布の模様が動き始め、緑、赤、紫色が見える。全てが二重に見えるようになる。他の人たちにも効いてきた様子。

やっときたか!と言う気持ちと初めての感覚に恐怖も覚える。

そうしているうちに2杯めが配られ始め、気持ち悪さを抑えながら、同様に飲む。今回も皆より少ない量だった。

吐きそうで吐けないくらいの気持ち悪さを抱え、同時に少しふわっとした気持ち良さも感じ始めた。。フラフラしながらも音楽に合わせて皆と踊る。周りも決まっているようで、異様な熱気。

心配になるくらい呼吸が荒いおじさんや、横になって、ヘルパーに扇がれているおばさんがいたりする。私もピークにキマリ始め、立っていられず、座ってブランケットを頭からかぶり、自分の世界に入る。

この時はものすごい気持ちよかった。音に敏感になるようで、体が音に包まれているような感覚だった。

アヤワスカは自分のトラウマや潜在意識が現れることがあると聞いていたけど、全くそんなこともなく、ピークの時でも冷静な自分が頭の中で、見えている幻覚や感覚を”なるほどー”と思いながら、これからどう変化して行くかの不安を感じていた。

時間の感覚がなくどれくらいそうしていただかわからないが、5分くらいだった気もするし、30分くらいだった気もする。気持ち悪さが戻ってきて、吐こうとトイレに行くが、吐けずに出る。ヘルパーの一人がが外で待っていてくれれて、念のため鍵はかけないようにと注意される。

そこからシラフに戻った。今日のトリップは終わった様子。そこからは眠気と戦いながら歌ったり、ウトウトしたりの繰り返しだった。周りも寝ている人が多い。

2度めのハペの吸引があり、刺激で目がさめる。参加者の中で楽器ができる人が順番に演奏していった。バイオリンがすごくよかった。

最後に英語の曲を皆で合唱してその日のセレモニーが終わった。Kが最後に今夜はメローだったが、明日はもっと深い旅になると皆に伝える。

2階に上がるともう朝の4時だった。約6時間のセレモニー。緊張もあってか、疲労を感じる。休む準備をしてから、外に準備されているキャンプファイアーを見に行く。皆日を囲みながら何も話さない。夏の終わりの山は冷え、空気が冷たく星が綺麗に見える。虫の声と火の音が響いていた。

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