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激走(闘?)KOUMI100

 マイラーを目指して100マイルのウルトラトレランレースにせっせとチャレンジしてた時もあったけど、悪天候によりことごとく距離が短縮されたりしてマイラーのチャンスを逃しているうちにモチベーションが下がっていった。エントリーフィーだって3万○千円とか半端無く高くて、近頃の天候不順を考えるとコスパ悪すぎやろ。そもそも自分にとってウルトラトレイルは旅の一つの形であって順位やタイムを目指すものではないのだから、レースにこだわる必要なんかない。そんなわけでマイラー熱はひと頃に比べて随分と醒めていた。
 それでも100kmくらい走れる身体をずっと維持したいので、年に最低1回はそのバロメーターとして100kmを超える距離を走ることにしてる。どうせ走るなら一度にできるだけ長い距離の方がいいのでトレランよりも200kmを超えるジャーニーランを選ぶ。こちらはプライベートイベントに近いので○千円とかエントリーフィーも破格に安い。コスパで語るべきではないけどコスパ最高!

 ところが今年は走るつもりでいたジャーニーランが主催者の体調不良で中止。メジャーなウルトラトレランレースはコロナ禍で軒並み中止。今年は長い距離走れないかなぁと思ってたところへKOUMI100の一般枠の募集を知る。

35kmを5周、つまり175km。ん?
 100マイル(160km)より長いやんか。でもジャーニーよりは短いし誤差やな。でも同じとこグルグル回るなんて旅らしくなくて好きじゃないなぁ〜。と思いつつも、年に最低1回は100km以上走りたいという気持ちが優ってエントリーすることにした。今年は開催されるレースがほとんど無いので優先枠で大半埋まって一般枠は狭き門だからゼロ次関門で落ちるだろうと思いきや、あっさりとエントリーできてしまう。もしかして誰もが敬遠するようなヤバいレースなの? もしそうなら魔が刺したとしか言いようが無いが、エントリーした以上は完走を目指す。
どうやら完走率が低い難易度高いレースだと後で知る・・・
こうして僕のKOUMIへの道が始まった。
 KOUMIには4周目からペーサーをつけることができる。順位やタイムはどうでもいいが、走る以上は完走したいのでペーサーをつけることにした。とは言え過酷なレースなので誰でもいいってわけじゃない。走力はもちろんのことだがトレランの経験値が豊富でなきゃならない。そして何より大事なのは気持ちが通じ合えること。引っ括めて言うと絶大に信頼できるってことだ。迷うことなくワラーチ仲間のタッキーに頼んだら快諾してくれた。昨年のOMMストレートA完走のバディでもある。
 今回はコロナ対応で、主査者側はエイドでペットボトルの水しか提供しないので食べ物は全部各自で用意しなければならない。周回毎にエイドに戻って自分で食べ物を用意して食べて着替えて・・・できないこともないけど時間が掛かるしなんだか寂しい。温かいもの食べたいし。誰かサポートして欲しいなぁと思ってたところ、エントリーを表明したFacebookの投稿でワラーチ仲間の麻さんが「サポートやります」ってコメントくれたので即座にお願いした。
最強のペーサーと最強のサポーターを得てモチベーションが高まる。
 趣味?でやってる稲作やら畑が忙しく、なかなか走り込めないまま本番がどんどん近づいてきて焦る。不安なので今年5回目参戦のワラーチ仲間のゆかさんにアドバイスをもらう。聞くほどに簡単に完走させてもらえそうなレースでは無さそう。コースマップ見ながら、ここの登りは走らない、ここの下りはゆっくり走る、など経験者のならではの情報を得る。それでも実際のコースを見てないとリアルにイメージできない。ゆかさんも試走は行った方がいいと言う。色々あって動けなかったけどレース一週間前の日曜日に意を決して試走に行く。実際、一周回ってみるとゆかさんの言ってたことがよ〜く分かるし、区間毎の所要時間も把握できた。本来なら脚を休める期間なので35kmも走るのはNGだけど、試走に行って本当に良かったと思う。
 そもそもウルトラトレランは旅だと思ってるから一部であっても試走なんかしたら楽しみが半減するだけという考えなんだけど今回は特別。旅を放棄して完走のためにできることがあれば何でもやろうと言うスタンスに変えた。なのでレース中の写真撮影も一切封印。いつもなら○百枚も撮るのが当たり前なのに。スマホのカメラではなく超小型のミラーレス一眼レフを愛用してるので、立ち止まってザックのサイドポケットからカメラを取り出して電源オンしてシャッターをパシャリ、そしてザックのサイドポケットにまた収納。大した時間ではないけどチリも積もれば山となる。自分らしくないけどその時間を惜しむ。レース中に撮った写真はゼロなのでこの後の写真は全て、試走の時に自分で撮った写真とペーサーかサポーターが撮ってくれた写真なのだ。
まずは試走時の写真で簡単にコースを説明。

スタートから2.5kmほどは、キャベツやブロッコリーの畑が広がる長閑なロード。緩やかなアップダウンがある。

その後林道に入る。傾斜は緩いが距離があるので早歩きで進む。谷筋なので雨降りじゃなくてもジメジメと濡れている。雨が降ったら間違いなく川になる。

最初は轍のハッキリした林道だったが、奥へ進むとあまり使われていないのか草で覆われてシングルトラックのようになっているところもある。草の間に石が転がってるので慎重に脚を運ぶ。

その後、キャタピラで地ならしされた幅広の林道に合流して間も無く、A1(本沢温泉入口)に着く。
その後はロード。

最初少しだけ登るがすぐに長い下りに入る。ここはゆっくりと走る。

下りきったところで別のロードに合流。そこから急坂を登るとA2(稲子湯エイド)に着く。

稲子湯から少しロードを登ったところからトレイルに入る。

最初は緩やかだがその後傾斜がきつくなる。

昨年の台風の被害で酷く荒れた箇所があり足場がかなり悪い。夜間にここを通る時は要注意。

標高2100mの最高地点に到着。フラットで開けたスペースなので一息つくのにちょうど良い。
ここからは尾根伝いに下る。

前半はかなりの急傾斜なのでゆっくり慎重に下るが、やがて緩やかになり極楽トレイルへと変わると快調に走れる。

舗装路に合流しトレイル区間が終わる。

ロードを下ると稲子湯エイドに戻る。往路はA2だが同じエイドが復路ではA3になる。ここらからはさっき走ったロードを逆走してA4(本沢温泉入口エイド、往路のA1)へ向かう。
さっきとは逆なので少し下った後、緩やかだが長い登り坂をひたすら歩く。
A4からは整地された緩やかで幅広の林道を下る。ここはペースを抑えてゆっくり走る。

ロードに合流すると2kmほどでスタート地点へ戻り1周35kmが終わる。
所要6時間ほど。
まぁこんなもんかって感じ。しかしこれを5周となると変態の世界だ。同じところをグルグル回って何が楽しいんやろか。エントリーした以上、完走を目指して頑張るけど、たぶん最初で最後かな。
そんな風に思って試走を終える。
 直前の1週間はタイムテーブルや補給計画を綿密に作成してペーサー、サポーターと共有する。走るための装備だけでなくセルフエイドの備品もあるので、ペーサーやサポーターとの擦り合わせも含めていつもの倍くらい手間暇が掛かった。
そして前日の金曜日、いよいよ現地へと向かう。
セルフエイドのためテント、テーブル、椅子などいつも以上に荷物が多く、車の後部は山盛り満杯。

 平日で酷く渋滞している首都高を抜け、中央道長坂ICで降りる。降りてすぐのスーパーに立ち寄り、食料や飲料を調達する。
宿泊するバンガローに入り、チームで一緒に走る松下さんと合流。その後会場に向かい選手受付を済ませる。
 台風の影響でずっと雨が降り続いてる。コースコンディションが最悪であることは容易に想像できるが、過去にも最悪と呼べるコンディションを経験してるのでなんとかなるだろう。(その後、想像を絶するコンディションを経験するとはつゆ知らず。)
 18時より、雨の降りしきる中、セルフエイドのテントを設営しサポートの場所を確保。なるべくコース寄りに設置したいところだが既にフライング気味にかなりのテントが張られておりスタートゲートからはやや奥まったところになった。長丁場なので時間的には誤差だが気分の問題だ。
 そのあと近くの温泉で身体を温め、夕飯を済ませてバンガローに戻るとパッキング開始。ここから気持ちがレースモードに切り替わる。必携装備を詰め、雨が降ってることを前提にウェアリングを選定する。行動食は周回毎にチャック付袋に小分けにしてあるので2周目以降の分はサポーターに預ける。ようやく就寝。
 3時起床、会場へ入る。相変わらず雨が降り続いてるが、覚悟はできてるので何とも思わない。心地良い緊張感。知り合いにも何人か会いお互いに健闘を祈る。

行ってきまーす。
【1周目スタート】(10/10 5:00)
3km弱のロード区間の後、林道に入る。
道というより川だ。ワラーチにとっては流れている水はさしたる問題ではない。シューズは水が侵入してさぞかし重いだろう。排水性の高いシューズもあるようだがワラーチの排水性は最強なのだ。
 1時間半ほどでA1到着。多少泥濘みはあるもののワラーチで支障の無いレベル。試走時とあまり変わらないペースだ。A2まではロード区間。登りは歩き、下りはゆっくり走る。ロードの下りは心肺への負担が無くは走りやすいが地面が硬いので脚への負担が感じてる以上に大きい。柔らかな着地を意識して走る。
 A2からいよいよトレイル区間に入る。標高1500mから最高地点の2100mまで急登し、急降下する。コースの中で一番きつい区間だ。トレイルの上を水が流れていてまるで沢登りのような箇所もある。林道と同じで流れる水はワラーチにとってあまり問題ではない。ストックで脚の負荷を抑えながらゆっくり登る。きついけどやっぱり山道は気持ちがいい。先のことは考えずに一歩一歩無心に登る。時計も見ないし高度も確認しない。見たところで速く登れるわけじゃないから。
 下りはかなり泥濘んでいてワラーチには難所だ。ソールと地面の滑りに、足裏とフットベッドの滑りが加わる二重苦で踏ん張りが効かない。フットベッドはノンスリップシートというエンボス加工が施された塩ビのシートを使ってるので濡れにはめっぽう強いのだが、粘度の高い泥でエンボスが埋まると滑り止めの機能を失ってしまう。山の下りでそんな状況になると足とワラーチがバラバラに動き、ものすごいテンションが紐やソールに掛かってワラーチが崩壊することがある。自分のワラーチはそんな過去の経験を踏まえて、紐の材質や結び方、ソールとフットベットの重ね方など独自に工夫しているので崩壊の不安は無い。不安定だけど走破(踏破)はできる。ただしシューズよりも時間が掛かるのは致し方ない。時々、水溜りで泥を落としながら騙し騙し急坂を下るとやがてなだらかになり下り基調の走りやすいトレイルに変わる。この落差が大きくて地獄から天国に移ったかのように感じる。思わず「ヤッホー!」と叫びたくなるくらいに気持ちがいい。
 トレイル区間が終わりロードをしばらく進むと再びA3(稲子湯エイド、往路A2)に着く。ここからは往路と同じロードを逆走してA4(本沢温泉入口エイド、往路A1)へ。走ろうと思えば走れるくらいの登坂が延々と続くが焦らず、速足でしっかり歩く。A4からは幅の広い林道を緩やかに下る。ここも試走の時とは打って変わって泥沼だ。滑らないよう慎重に脚を運ぶ。下界の家々がチラホラ見えたら間も無くロードに出る。ここから2kmほどで仲間の待つスタート地点。そう思うとたった2kmが長く感じる。人の心は厄介だ。
スタート地点に戻る。仲間からの「お帰りぃ〜」の声に応えてレースのフィニッシュでもないのに思わずストックを握った両手を振り上げる。いつものトレランなら1回だけど今回は何度振り上げることになるのやら。
【1周目ゴール】(10/10 11:00)LAP6:00
 セルフエイドでは椅子に座らせてもらい、温かいカレーライス、味噌汁、デザートに甘酒、豆乳、みかんをいただく。セルフエイドだからこその贅沢。本当に有り難い。

 食べている間に行動食やモバイルバッテリーを入れ替えてもらい準備万端。居心地良過ぎて長居したくなる気持ちを断ち切って2周目へ。
【2周目スタート】(10/10 11:11)
 2周目の林道に入る。雨は小降りになったせいか、川のように流れていた水がだいぶ治っている。水が流れていないので泥が何度もシューズで捏ねられて粘度が高くなっている。ワラーチには好ましくない状況。足が洗えそうな水溜りを見つけては足を突っ込んで洗うが、水と一緒に小石が足裏とフットベッドと間に入り込んで痛い。その度に立ち止まっては小石を取り除く。
A1からロードを走りA2へ。そして2度目のトレイル区間に入る。路面コンディションが悪化してる。500人ものランナーが繰り返し踏めば土がどんどん粘土と化していくのは当たり前。特に最高地点の手前の水溜りが深くえぐられて酷い。底の方は粘度の高い泥なので万が一ワラーチがそこで脱げたら掘り出すのも至難の技だ。なるべく端の方を進むが狭いところは逃げ場がない。細心の注意を払って進む。
 最高地点で一息ついて下りに入る。ここもやはり1周目より泥が深くなっている。足裏とフットベッドの滑りが酷くかなりペースを落とさざるを得ない。登りはそうでもなかったがシューズランナーにどんどん抜かれる。
やがて斜面が緩やかになり走りやすいトレイルに入ってようやくペースを戻しロードへ抜ける。
 A3、A4までのロードを淡々とこなした後、林道を下る。ここも1周目より泥沼が酷くなり走り辛いが、斜度が緩いのでトレイル区間ほどではない。2周目で大幅にペースが落ちたことをつらつらと考える。雨は小降りになったからと言って3周目で路面コンディションが改善するとは思えない。1周目がほぼオンタイムだったし完走の可能性が無いわけじゃない。スタート地点に戻れば不測の事態に備えて地下足袋がある。4周目からはペーサーが入るが3周目は独り、それも夜だ。地下足袋なら2周目の遅れをリカバリーできるかも。ワラーチに拘るか完走に拘るか? 考えた末に、3周目は地下足袋に履き替えることを決心した。
 林道の途中で陽が沈み急に暗くなってきたので早めにヘッドランプを装着する。ロードに入ってすぐ、道の脇の水路の水で足を洗いリフレッシュしてスタート地点へ向かう。

泥塗れの生還。予定より大幅に遅れてしまった。
【2周目ゴール】(10/10 18:25)LAP7:14
 3周目は夜通し走ることになるため長袖に着替える。温かい食べ物、団子、フルーツをいただいてカロリーをたっぷり補給する。
そしてワラーチを脱ぎ地下足袋に履き替える。
【3周目スタート】(10/10 18:59)
 エイドに30分以上滞在していたようだ。やや長居し過ぎた。
ロードの後、林道に入る。ワラーチと打って変わって泥沼に足を突っ込んでも足裏とフットベッドが滑ることはなくガシガシと前へ進む。これなら遅れをリカバリーできるかもと期待が膨らむ。
 ところが林道をしばらく上がったところで事件発生。ヘッドランプが点滅するかのように一瞬暗くなる。これはバッテリーの残量が減ったことを示す合図、その後、照度を落とし自動で省電力モードに入る。フル充電のバッテリーに入れ替えたはずなのに何故だ。フル充電だと思い込んで確認を怠っていたのかも。省電力モードでも走るのに困るほど暗くはないが、いつまで省電力モードが続くのかわからない。消灯する前に予備のバッテリーに交換しようと立ち止まり、リュックをおろしiPhoneのLEDライトで照らしながら交換する。
電源オン。
あれ? 何故か点灯しない。予備バッテリーもフル充電のはずなのに。マジでヤバい。バッテリーが尽きたら前へ進めない。iPhoneのLEDライトではトレイル区間は照度的に心許ないし、片手にスマホ持ちながらあの激坂を登り下りなんて考えたくない。ここでレースは終わってしまうのか・・・
 ややパニックに陥るも対処について思案する。A1まで辿りつけばA2まではロード。この区間ならサポーターが車でアプローチできるので、エイドで充電済みのバッテリーを持って来てもらえそうだ。そう思って電話を掛けるがなんと圏外。まだ谷なので電波が届かない。とにかく電波の届くところまで辿りつかなければと省電力モードのヘッドランプで先を急ぐもしばらく走ると突然切れて真っ暗闇に。そこからはiPhoneのLEDライトを使って進む。そんなに明るくは無いけど全体を照らしてくれるので意外と使える。バッテリーの消費もさほど激しくないし、スマホならモバイルバッテリーで充電できる。林道とロードならiPhoneでもなんとか前へ進める。
 高度が上がり、ようやく圏外を抜け微弱な電波が届き始めたところでサポーターに電話が繋がる。状況を説明してバッテリーを持ってきてもらうことに。やれやれ。だいぶ時間をロスしたのでペースを早める。A1を出てしばらくロードを走ったところでサポーターと合流しバッテリーを入れ替える。無事点灯。しかしながらこれは失格級の大失態。今回はたまたま対処できただけで下手すると生命に関わることだってある。大いに反省。これからはバッテリーの満充電を厳重に確認し、ヘッドランプ自体の予備も持つようにしよう。そう心に誓う。
 A2から3度目のトレイル区間へ。路面状況は相変わらず酷いが地下足袋なので脚は運びやすい。快適性や脚への負担など総合的にはワラーチがベストだが、TPOで地下足袋を使うのは有りだなと思う。例えばOMMで藪漕ぎをするような場合も地下足袋が安心。トレランに限らずだが山行ではワラーチの予備にワラーチではなく地下足袋を携行することであらゆるシチュエーションに対処できるのではないかと思う。安全第一だ。
 地獄の激坂を下り切り、緩やかな極楽トレイルをご機嫌に走ってたら何かに蹴つまずいて上半身から派手にダイブ。油断大敵。ロングレースは何が起こるかわからない。幸い大したダメージは無く気を引き締めて再スタート。トレイル区間が終わりロードに入って水を飲もうとしたらまたもや事件。
「あれっ?ボトルが無いっ!」
どうやらダイブした時にすっぽりと抜け落ちたようだ。またしても失態。これがワンウェイのウルトラトレイルなら迷わず転倒地点まで戻ったかもしれないが、遅れを取り戻したいし、A3はすぐだし、周回毎にコース途中で4回も500mLのペットボトルの水がもらえるので水不足にはならない。次の周回で見つかったらラッキーくらいに考えて前へ進む。(結局4周目で同じ場所を通ったが見つからないまま終了。) 
レースだからいいようなもんで、水も下手すると生命に関わるので大いに反省。何かと反省の多いレースになってしまった。
 A3からA4へ向かうロードを走る頃、雨上がりの澄み切った夜空にキラキラと輝く満天の星と三日月。月の光に照らされて青白く浮かび上がるロードが幻想的。それまでの激闘が嘘のように静かで平和なひとときに足取りも軽くなる。実際のところこの区間のタイムは3周目が一番短かった。やっぱメンタル大事。
色々とアクシデントはあったけど無事に3周目を走り終えてスタート地点へ戻る。
【3周目ゴール】(10/11 2:46:20)LAP7:47
 残念なことに地下足袋に履き替えても遅れをリカバリーできないどころか2周目よりもだいぶ時間が掛かってしまった。
関門の9:00まで6時間14分
2周目も3周目も7時間台だ。1周目のペースで走れば・・・
可能性ゼロではないが限りなくゼロに近い。
とは言え、3周目は最後までしっかり走れたし脚はまだ残っている。完走は難しいとしてもペーサーと一緒に4周目を走りたい。というかあの泥沼地獄はペーサーにも味わって貰わねばKOUMIに参加した甲斐が無いと言うものだ。
しっかり食べて飲んで4周目へいざ出陣!
【4周目スタート】(10/12 2:46)

前線基地から戦場へ。
それにしては2人とも爽やかな笑顔。泥だらけの地下足袋とペーサーのピカピカのシューズがこれから起きることを物語ってる。
調子良く走りだしたものの気持ちとは裏腹に脚が重い。思ってたよりも疲労が蓄積してる。何しろ粘度の高い泥沼に突っ込んだ足を繰り返し引き上げて抜くという動作は、普通のランニングでは使わない脚の筋肉を酷使する。そもそもワラーチでの走りは、脚の筋肉をなるべく使わないでアキレス腱の伸長反射と重心移動で前へ進むから省エネルギーなのに、これだけ長時間に渡り“足を抜きながら走る”のは経験が無い。
いや待てよ。これは田植えと同じじゃないか。

そう、これ。
KOUMI対策には坂練だけでなく田植え練も必要だ!
話を戻す。スタート直後はロードなので走りやすいんだけど、いざ走り始めてみるとどうにも走る気力が湧いてこない。張り切ってスタートしたペーサーに申し訳ないし、ロードは走らなきゃと思うから余計に焦る。林道に入り登り始めると、歩いてもいいんだと思えるので気持ち的にはむしろ楽。真っ暗闇の林道をペーサーと2人、普段はあまり話さないよようなことを色々と話しをしながらゆっくりと進む。路面コンディションは4回目だからもう慣れたけどペーサーは初めてだから、1周目からどう変化したとかワラーチだとどんなことになるかを解説したり、自分なりの長距離走への向き合い方とかについて話す。
 今回改めて感じたことだけど、身体的な限界を別してメンタル的な距離耐性はかなり強い方だと思う。これまでいわゆるジャーニーランと呼ばれる超長距離を何度も走ってきたことで身についたのだろう。ゴールまであと何キロあるのだろうなんて考えてたら200kmとか500kmは走れない。一歩の連続が百歩であり、百歩の連続が万歩なのだ。一歩無くして万歩無し。今この瞬間に一歩前へ進むことだけが大切であって先のことはあまり考えない。
なので時計もほとんど見ない。実は3周目くらいでApple watchのバッテリーが切れだけど放置。どうせ見ないから。一歩に集中してると時間も消滅する。もちろん時計の針は時間を刻んでるが、思考の時間は止まってる。こう考える時にいつも思い出すのは、以前に読んだ本に書いてあったクロノス時間とカイロス時間のことだ。クロノス時間は時計が刻む物理的な時間。カイロス時間は思考が作り出す時間。無心に何かに集中してるとカイロス時間が止まる。良い意味での思考停止。
“瞑想”に近い。
※注:“迷走”しない程度に思考は働かせること。
そうこうしてる間にA1に到着。

毎度、エイドの灯りと人の声に癒される。
A2へ向かう頃には夜がすっかりと明け、明るくなる。

 A2までのロードの下りはそこそこ走れたので脚は大丈夫そう。そしてA3から4度目のトレイルに入る。面白いのはここからだ。気持ち的にはそのくらいの余裕がある。しかし登りはさすがに脚が鉛のように重い。気持ちに脚がついてこない。

 5周目の速いランナーに追い抜かれながら登りつめると傾斜が緩やかになり最高地点に近づく。
最高地点の手前にSNSですっかり有名になったあの水溜まり(落とし穴)がある。

一見すると普通の水溜りにしか見えないが・・・

実はかなり深い。軽く膝下まで沈む。片脚だけが沈むと体が大きく傾いて転倒する。3周目はそれで泥水の中を泳いだ。
 4度目だから慣れたもので、なるべく水溜まりの端を歩いたり、両側に足の踏み場があれば水溜まりを避けるなどして慎重に進む。ペーサーは「なんじゃこれぇー!」って感じで子供みたいにはしゃいでる。そのエネルギーは自分にはもう無いけど、楽しんでもらえたなら頑張ってここまで来た甲斐があるってもんだ。そういう状況を楽しめる人間だからこそペーサーを頼んだんだけどね。

そう言う自分も笑顔なので泥沼を楽しむ気持ちは自分にもあったみたい。何事も楽しんだもん勝ち。
そして最高地点到着。

ここでゆっくりしたいところだけど、こういう標高の高いところでじっとしてるとあっという間に体温が下がり低体温症の危険がある。身体がゾクゾクって震え出すとヤバいので先を急ぐ。

激登りから激下りへ。
 登りの途中から左膝の内側の裏側辺りに痛みを感じていた。心配なので一歩一歩、足の置き場を確認しながら亀のようにゆっくり下りる。 
傾斜が緩やかになり極楽トレイルに入ったのでさぁ走ろうと思いきや膝の痛みが酷くなる。これまでに経験の無いところが痛む。一度経験した痛みなら無理していいのか悪いのか判断したり、あるいは走り方でカバーすることもできるかもしれないが未知の痛みは侮れない。ジャーニーランで2回くらい前に進めなくなったことを思い出す。ペーサーと一緒にフィニッシュゲートの花道を進みたい気持ちと、ここで無理して長引くような故障になってはいけないという不安が交錯する。

 歩き方を変えても痛みは治る気配もなく、後者の気持ちがどんどん強くなってきたところで、それを察してくれたのかペーサーからも「途中リタイアが良いのではないか」と声を掛けてもらう。ここでリタイヤを決意。トレイル区間の終点のロードまでサポーターに車で迎えにきてもらうようペーサーに段取りしてもらう。
 歩けないわけじゃないのでトレイル終点までは辿り着ける。どうせリタイアなんだからと思い「走り足りないだろうから極楽トレイル走って先に行ってていいよ」と言ったんだけど「ペーサーは最後までランナーと一緒だ」と聞かない。やっぱ最高のペーサーだ。

ついにトレイル終点に到着。
【4周目 23km地点でDNF】(10/12 11:06)総距離:128km 総時間:30時間
 物語があっけなく終わってしまったような物悲しさを感じつつ、もう走らなくて良いという安堵に包まれて路肩に腰を下ろす。
 実はペーサーのタッキー、最初の林道入ってからコース上のゴミ(ジェルやペットボトルの容器がほとんど)が気になったらしく、僕のペースが遅いこともあって、ゴミを拾いながらペーサーをやってくれた。自分は情けなくも屈んでゴミを拾う余力が無く「ここにもあるよ」と口先だけの参加だったけど、ゴミの多さは看過できないレベルだった。故意にポイ捨てしたとは思わないけど、ゴミを落とさないよう常に注意を払うべきだろう。自分もゴミ袋をすぐに取り出せるようザックのサイドポケットに入れて行動食の空き袋はすぐに収納するようにしてる。KOUMIに限らずゴミ袋を必携装備にしてランナーの意識を高めた方が良いのではと思う。

これがそのゴミ。
サポーターが車で迎えに来て山を下り、本部でDNFを伝えて僕のKOUMIは終わった。

 完走できなかったのに不思議とやり切った感があるのは、きっと独りじゃなくてチームで存分にレースを楽しんだからだろうなと思う。
またKOUMIにチャレンジするか?
実を言うと、レース中はもういいかなと思ってた。だけど終わってから再チャレンジしたいという気持ちがジワジワと湧いてきた。周回毎のペース配分や補給の仕方、エイドでの休み方など改善の余地がある。旅を楽しむレースでは無いけど周回ならではの物語がある。究極の非日常という点ではジャーニーランもKOUMIも同じだ。何よりチームでチャレンジする楽しさを味わえたことが大きい。今後もコロナ関係なく今回みたいなセルフサポートでいいんじゃないかと思うくらいにチームプレイが楽しかった。

いつか自分が完走できたら、今度はペーサーだったタッキーが選手として走って、自分がペーサーになって完走をサポートする・・・な~んて早くも妄想が始まる。

レース後、Twitterで交わしたやりとりの中で胸に刺さった言葉がある。
「KOUMIの借りはKOUMIでしか返せない」
正に至言也。
(完)

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