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ウクライナ語文法シリーズその2:母音の発音


母音字の種類

ウクライナの母音字はА а, Е е, Є є, И и, І і, Ї ї, О о, У у, Ю ю, Я яの10字です。
このうちа, е, и, о, уを硬母音字、є, і, ї, ю, яを軟母音字と呼びます。

硬母音字:А а, Е е, И и, О о, У у
軟母音字:Є є, І і, Ї ї, Ю ю, Я я 

硬・軟といっても日本人の感覚的には何のことか分からないと思いますが、それで大丈夫です。慣れてくると感覚が身についてきます。非常に乱暴にいうと、軟音というのは日本語の「い」の段や小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」がつくような音だと捉えてください。
日本語で清音と濁音が区別されるのと同様に、ウクライナ語では子音の硬・軟が厳密に区別され、意味の違いに影響を与えます。 

硬母音字の直前の子音は硬子音として発音され、軟母音字の直前の子音は軟子音として発音されます。硬子音・軟子音については次回に説明します。
ここでは母音の発音を見ていきましょう。и 以外のウクライナ語の母音の発音は非常に簡単です。

また、アクセントの置かれる母音ははっきりと、長めに発音されます。そのため日本人には長い母音のように聞こえることがありますが、ウクライナ語に母音の長短の区別はありません。以下の説明ではカタカナでの発音表記の際に伸ばし棒「ー」を使っていますが、音を伸ばすことよりも強く発音することを意識してください。
これに対してアクセントのない母音は脱力して多少曖昧な発音となります。

硬母音字

ウクライナ語の硬母音字は以下の5つです。
А а Е е И и О о У у
 
このうち и 以外はそれぞれ日本語の「ア」「エ」「オ」「ウ」に似たように聞こえ、発音もそれほど難しくないと思います。
これらの文字の直前の子音は硬子音として発音されます。
 

А а

日本語の「ア」と同じように発音してもかまいません。
厳密には日本語の「ア」よりも口の奥で、舌を後ろに引っ張ってはっきりと発音されます。

ара́б   アラーブ  「アラブ人」
анана́с  アナナース 「パイナップル」
ма́ма   マーマ   「ママ」

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


Е е

日本語の「エ」と同じように発音してもかまいません。
場合によって日本語の「エ」より狭く、иに近い音で発音されることもあります。

е́ксперт  エクスペルト 「専門家」
де     デー     「どこ」
але́    アレー    「しかし」

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


И и

ウクライナ語の母音の中で(おそらく)唯一日本人には発音が難しい音になります。
日本語の「イ」よりも少し舌が後ろに寄り、曖昧な印象の音になります。
英語の pick や pit の i の音([ɪ])ですが、発音によって「ウ」と「イ」の中間のように聞こえたり、フランス語の été の母音([e])に近く発音されることがあります。
軟母音の і との区別に注意してください。і の発音の際には舌が口の中で平べったく広がるのに対して、и は口を少し開いて発音されます。

※ロシア語が分かる方へ:ロシア語の ы の発音でも実用上は問題ありませんが、音声としては厳密には異なります。より前の方で発音されます。

ти    ティー    「君、あなた」
дити́на  ディティーナ 「子ども」
би́ти   ブィーティ  「叩く、打つ、殴る」 

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


О о

日本語の「オ」と同じように発音してもかまいません。
しっかりと口を丸くしてはっきりと発音します。

оди́н  オディーン 「1」
воно́  ヴォノー  「それ(中性)」
коро́на コローナ  「王冠」 

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


У у

日本語の「ウ」とは異なり、唇を突き出して発音します。恥ずかしく思う方もいるかもしれませんが、目の前に壁があったら唇がついてしまうぐらいの勢いで思い切り唇を突き出しましょう。
このとき、厳密には舌を思い切り後ろに引っ張りますので、日本人の耳にはくぐもった「オ」に聞こえることもあります。

уро́к ウローク 「授業、レッスン」
каву́н カヴーン 「スイカ」
куди́ クディー 「どこへ」

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


軟母音字

ウクライナ語の軟母音字は以下の5つです。
Є є І і Ї ї Ю ю Я я
 
単独での発音はおおむね硬母音に子音[j](「や」行の子音。英語のyouのyの音)がついたもの(і、їを除く)で、日本語の「や」行のような発音となります。ただし、日本語や英語よりも[j]の子音は摩擦が強く発音されます。強めに発音される場合、例えば я は「ヤー」というより「ギヤー」や「ヒヤー」と聞こえることもあるほどですので、子音を意識しましょう。

子音字に続く場合、直前の子音を軟子音に変化させます。
 
また、単独の文字としては存在しませんが、「ヨ」のような音もあり、単語の頭もしくは母音の後ではйо、子音の後ではьоと書かれます。

Є є

「イェ」と発音されます。あまり気にせず「イェ」と発音して問題ありませんが、なるべく子音[j]を意識しましょう。

єди́ний イェディーヌィイ 「唯一の、統一された」
є́вро  イェーウロ   「ユーロ」
ма́є   マーイェ    「持っている、ある(三人称単数)」 

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


І і

日本語の「イ」に近い音ですが、口を横に開いてはっきりと発音することを意識してください。
また、硬母音の и との違いに注意してください。こちらの і の発音の際には口の中で舌が平べったく広がります。

Іри́на イルィーナ 「イリーナ(人名)」
мі́сто ミースト  「都市、市」
рі́зати リーザティ 「切る」 

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


Ї ї

日本語には対応するものがない音ですが、あえて言うなら「や」行の「イ」です。і の頭に子音[j]がついたものです。
子音を意識して、「イィ」と発音しましょう。
і が母音の後に現れると自動的に ї に変化します。

ї́хати  イィーハティ 「(乗り物で)行く」
краї́на クライィーナ 「国、地域」
Гава́ї  ハヴァーイィ 「ハワイ」 

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


Ю ю

уと同様に思い切り口をすぼめてはっきりと「ユ」を発音しましょう。

юри́ст  ユルィースト 「法律家、法務家」
Ю́лія  ユーリヤ    「ユリヤ(人名)」
ю́ний  ユーヌィィ  「若い」 

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


Я я

子音を意識しながらはっきりと「ヤ」と発音します。

яки́й  ヤクィーィ  「どのような(男性)」
моя́  モヤー    「私の(女性)」
стоя́ти ストヤーティ 「立つ」 

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


йо(子音の後ではьо)

子音[j]を意識しながらはっきりと「ヨ」と発音します。
ьо となるときは直前の子音が軟子音になっています。

йо́гурт  ヨーフルト  「ヨーグルト」
його́   ヨホー    「彼の、彼を」
льо́х   リョーフ   「地下室」

それぞれの実際の発音はWiktionaryを参考にしてみてください。


いかがでしたでしょうか。
母音の発音は и を除いてそれほど難しくなかったのではないでしょうか。

次回は子音の発音を見ていきたいと思います。母音よりはちょっと難しくなってきます。
ご覧いただきありがとうございました!

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