田中祐真 Yuma Tanaka

東大先端研特任研究員 自分の勉強も兼ねてウクライナ語をはじめとする言語とウクライナ・旧…

田中祐真 Yuma Tanaka

東大先端研特任研究員 自分の勉強も兼ねてウクライナ語をはじめとする言語とウクライナ・旧ソ連情勢に関する投稿をしていこうと思います。

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  • ウクライナ語文法シリーズ

    ウクライナ語の文法を解説していきます。格変化や活用などの説明が中心になります。 ウクライナ語学習者初級~中級のリファレンスとして使っていただけたら嬉しいです!

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ウクライナ語文法シリーズについて:はじめに

皆さんこんにちは。 少し前からはじめました「ウクライナ語文法シリーズ」について、全体の大まかな方針と参考文献等について明確にしておきたく思います。 「はじめに」なので本来であれば一番最初にこの記事を書いておくべきでしたが、遅くなりすみません。 執筆方針「ウクライナ語文法シリーズ」はその名のとおり、ウクライナ語の文法の解説を中心としていく考えでいます。 例が必要な部分ではなるべく例文を引っ張ってきていますが、いわゆる語学学習書のようにユニットごとに会話文をつけるような形式と

    • ウクライナ語文法シリーズその16:与格、与格支配の前置詞

      与格は非常によく用いられ、用法も様々です。それほど理解に苦しむようなものではないのですが、慣れないうちは違和感のある構造もあるため、少しずつ見ていきましょう。 与格の用法間接目的語 与格は典型的には動詞の間接目的語を表します。日本語の「~に」に相当します。 これらの与格で表される間接目的語は、「до+属格」に置き換えることが可能です。英語で「give A B」が「give B to A」に置き換えられるのと似たようなものです。 また、「~のために~する」という意味を表

      • ウクライナ語文法シリーズその15:処格、処格支配の前置詞

        処格は必ず前置詞と共に用いられ、単独で現れることはありません。早速処格を要求する前置詞を見ていきましょう。 в/у 「~(の中)に/で」とна 「~(の表面)に/で」 この二つの前置詞は「対格、対格支配の前置詞」でもセットで取り上げましたが、対格と共に用いられる場合は方向などを表すのに対し、処格と共に用いられると動作が行われる場所を表します。в/у と на の使い分け方は対格の時と同様で、в/у は「中」というニュアンスを含むため、建物や部屋、国、都市、庭などの何らかの

        • ウクライナ語文法シリーズその14:属格、属格支配の前置詞

          属格には非常に多くの用法があります。ここでは主なものを紹介しておきます。一部の用法は日本人にとって非常にわかりにくい、というか日本語と発想が異なるので感覚としてイメージがしづらいものもあります。 属格の用法所有・所属関係 属格は典型的には所有・所属関係を表します。日本語の「~の」にとそのまま訳すとだいたいうまくいきます。この場合、通常の語順としては「AのB」のAが後に置かれます(後置修飾)。 時間を表す用法 また、対格と同様に時間を表すのにも属格が用いられることがあ

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        ウクライナ語文法シリーズについて:はじめに

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        • ウクライナ語文法シリーズ
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          ウクライナ語文法シリーズその13:対格、対格支配の前置詞

          今回は対格を見ていきましょう。対格それ自体の用法はそれほど難しくありません。 今回からそれぞれの格と結びつく(支配)前置詞も説明していきます。対格も多くの前置詞と結びつきますので、例も挙げながら紹介していきます。前置詞を感覚的に使いこなしたり意味を理解するには、前置詞の個別の用法ごとの意味を覚えるというよりは、大まかなイメージとして掴んでおくのが良いでしょう。 対格の用法対格は典型的には動詞の直接目的語を表します。 その他の用法として重要なものに、一定の時間を表す用法が

          ウクライナ語文法シリーズその13:対格、対格支配の前置詞

          ウクライナ語文法シリーズその12:主格・呼格

          名詞の格変化を覚えたところで、それぞれの格の用法をもう少し詳しく見ていきましょう。 単純に日本の助詞で置き換えてしまえばいい用法もあれば、日本人にとっては少々理解しづらい用法もありますが、それぞれ紹介していきたいと思います。 また、ウクライナ語の前置詞は主格及び呼格を除く格(言語学ではまとめて「斜格」と呼びます)につきます。前置詞によってその後に置かれる名詞の格が決まっていたり、同じ前置詞でも後に置かれる名詞の格によって異なる意味を表すことがあります。 まずは簡単な主

          ウクライナ語文法シリーズその12:主格・呼格

          ウクライナ語文法シリーズその11:人名の変化

          一般名詞の格変化を覚えたところで、ここでは人名の格変化について見ていきましょう。 名前(ім'я)名前(ファーストネーム)の変化は基本的にこれまで見てきた女性名詞・男性名詞の典型的な変化をします。それほど難しくないのでいくつかの例をさらっと紹介します。 女性の名前はふつう -а/я で終わります。-а/я で終わる女性名詞と同じ変化です。 А́нна 「アンナ」 Ната́ля 「ナタリア」 Марі́я 「マリア」 男性の名前は子音で終わるものが多いですが、一

          ウクライナ語文法シリーズその11:人名の変化

          ウクライナ語文法シリーズその10:中性名詞

          中性名詞は単数主格の見た目上では大きく -о/е で終わるものと -я で終わるものに分けられます。 -я のときは女性名詞との区別が最初のうちは難しく感じられるかもしれませんが、見ていくうちに容易にだいたい予想がつくようになるでしょう。動詞から作られる抽象的な単語や、生き物の子どもを表す語が多いです。 中性名詞は基本的に無生物を表しますので、基本的に全て無生名詞です。つまり、単数も複数も主格と対格が同じ形になります。これは単数では生物の子どもを表す単語でも同様ですが、生

          ウクライナ語文法シリーズその10:中性名詞

          ウクライナ語文法シリーズその9:男性名詞の単数属格について

          ウクライナ語の男性名詞で最もやっかいなのが単数属格で -а/я か -у/ю のどちらになるか、というところでしょう。単数の処格や与格も複数の形を持ち得ますが、多くの場合この 2つの格ではどちらでも良いことが大半であるのに対して、単数属格はいずれか一つに決まる場合がほとんどです。 男性名詞を覚える際には、単数属格の形も合わせて覚える方が良いでしょう。 はっきりと分けられるルールは存在しないのですが、かなり多くの場合に当てはまる傾向を以下に示します(Алхангельская

          ウクライナ語文法シリーズその9:男性名詞の単数属格について

          ウクライナ語文法シリーズその8:男性名詞

          女性名詞の次に、男性名詞を見ていきましょう。 男性名詞は女性名詞の表と比べると単数の語尾がだいぶ複雑です。ウクライナ語から入った方にとって大変なのはもちろんですが、むしろロシア語を知っている方々の方がうんざりするかもしれません。ロシア語は格変化パターンがだいぶ単純化というか均一化というか、簡単になっていますので。 属格、処格、与格、呼格は複数の可能性があり、単語によってどちらか決まっているものもあれば、どちらでも良いものもあります。 具体例は格変化パターンの箇所で見ていき

          ウクライナ語文法シリーズその8:男性名詞

          ウクライナ語文法シリーズその7:女性名詞

          今回から名詞の変化を見ていきます。 最初は比較的分かりやすい女性名詞からいきたいと思います。 格変化表が出てきますので、言語オタクの方もそうでない方もそれぞれの意味でヒイヒイ言っていただけると嬉しいです! ※格の順番を修正しました(2024/01/07) -а/-яで終わる女性名詞まずは変化の比較的わかりやすい -а/-я で終わる女性名詞から見ていきましょう。 -а/-я で終わる女性名詞の基本的な変化パターンは①硬変化、②軟変化、③混合変化の 3つに分けられますが、

          ウクライナ語文法シリーズその7:女性名詞

          ウクライナ語文法シリーズその6:名詞(概説)

          今回からしばらくは名詞の解説をしていきます。 次回からは変化表が出てきますので、多くの方にとってはうんざりかもしれませんが、言語オタクにはたまらないと思います。 ウクライナ語は単語がたくさん変化しますので初級レベルのうちは非常に苦しいと思います。しかしながら、多くのスラヴ系言語は変化さえ最初のうちに覚えてしまえば、中級以上になるとある瞬間に突然、本当に突然に分かるようになってぐんぐん伸びていきます。 ここからが踏ん張りどころです!頑張りましょう! なお、これ以降の説明にお

          ウクライナ語文法シリーズその6:名詞(概説)

          ウクライナ語文法シリーズその5:文字・音の交代

          今回はウクライナ語の学習において押さえておかなければならない音の交代(чергування)について解説していきます。 なかなか難しい内容になってきますのでここで全てを覚えてしまわなくてもよいと思います。今後、名詞や動詞の変化に入っていく中で振り返って参照していただければ幸いです。 一部で少しマニアックな歴史言語学の話もしていますが、興味のない方はその部分は飛ばしてしまってください。 なお、今回以降は単語の発音のカタカナ表記を記載しません。 読み方については過去記事の母音

          ウクライナ語文法シリーズその5:文字・音の交代

          ウクライナ語文法シリーズその4:子音の発音(2)

          今回は歯茎音と硬口蓋音を見ていきましょう。 前回の唇音や軟口蓋音と比べると特に軟子音としての発音には一定の練習が必要です。 歯茎音(т д с з ц дз н л р)歯茎音は硬子音としての発音はそれほど難しくないものが多いのですが、軟子音になると聞いたときの印象が大きく変わって全く別の音に聞こえるものが多いです。 ある程度の練習が必要なものが多いので、じっくり見ていきましょう。 2文字で表される дз と дж についても発音を見ておきます。 Т т 硬子音とし

          ウクライナ語文法シリーズその4:子音の発音(2)

          ウクライナ語文法シリーズその3:子音の発音(1)

          子音の種類ウクライナ語の子音は音の体系上(音韻上)、無声子音、有声子音、鳴音の3つに大きく分けられます。日本語でいうと、無声子音は濁点がつけられるけれどついていない文字の音、有声子音は濁点のついた文字の音、鳴音はそもそも濁点がつけられない文字の音になります。有声子音のдзとджは2文字で表されます。 無声子音:п т к ф с ш х ц ч 有声子音:б д ґ з ж г дз дж 鳴音:м н л р в й ウクライナ語では、無声子音が有声子音の直前に置

          ウクライナ語文法シリーズその3:子音の発音(1)

          ウクライナ語文法シリーズその2:母音の発音

          母音字の種類ウクライナの母音字はА а, Е е, Є є, И и, І і, Ї ї, О о, У у, Ю ю, Я яの10字です。 このうちа, е, и, о, уを硬母音字、є, і, ї, ю, яを軟母音字と呼びます。 硬母音字:А а, Е е, И и, О о, У у 軟母音字:Є є, І і, Ї ї, Ю ю, Я я 硬・軟といっても日本人の感覚的には何のことか分からないと思いますが、それで大丈夫です。慣れてくると感覚が身についてき

          ウクライナ語文法シリーズその2:母音の発音