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ウクライナ語文法シリーズその13:対格、対格支配の前置詞

今回は対格を見ていきましょう。対格それ自体の用法はそれほど難しくありません。

今回からそれぞれの格と結びつく(支配)前置詞も説明していきます。対格も多くの前置詞と結びつきますので、例も挙げながら紹介していきます。前置詞を感覚的に使いこなしたり意味を理解するには、前置詞の個別の用法ごとの意味を覚えるというよりは、大まかなイメージとして掴んでおくのが良いでしょう。


対格の用法

対格は典型的には動詞の直接目的語を表します。

Учи́тель написа́в кни́жку. 「(その)教師は本を一冊書いた」
Наш гість зна́є І́горя. 「私たちの客人はイーホルを知っている」

その他の用法として重要なものに、一定の時間を表す用法があります。
以下の例文のうち最初の2つは無生の男性のため主格と形が変わらず見分けが難しいですが、対格です。

Ці́лий ти́ждень він працюва́в. 「彼は丸一週間働いていた」
Вона́ ходи́ла ці́лий день. 「彼女は丸一日歩いていた」
Перемо́вчав хвили́ну. 「1分間黙っていた」
Мені́ дзвоня́ть ко́жну хвили́ну. 「自分のところには1分ごとに電話がかかってくる」
 

対格支配の前置詞

対格は多くの前置詞と接続します。主なものを例文と共に見ておきましょう。

крізь 「~を通して、通じて」

イメージとしては貫通する様子です。

Ми пройшли́ крізь ліс. 「私たちは森を通り抜けた」
Крізь шум почу́лися голоси́. 「騒音の中から(騒音を通り抜けて)声が聞こえた」 

про 「~について、~のために」

多くの場合は英語の about に相当する「~について」の意味になりますが、時に「~のために」とforの意味になります。

Він співа́в про дити́ну. 「彼は子どもについて歌った」
Знайде́ться робо́та про Іва́на? 「イワンに仕事は見つかるだろうか?」 

че́рез 「~を通って、通じて、~によって、~後」

крізь と似ていますが、より広く多くの意味を表します。

Ї́хали че́рез усе́ село́. 「村中を通って行った」
Вони́ говори́ли че́рез перекладача́. 「彼らは通訳を通じて話していた」
Усього́ дося́гнеш че́рез пра́цю. 「頑張って働けば得られるものがある(直訳:全てのものが仕事を通じて獲得される)」
Че́рез Бори́са заги́нув діду́сь. 「ボリスのせいでお爺さんは死んだ」
че́рез ці́ле життя́ 「生涯を通して」
че́рез ти́ждень 「一週間後、来週」
че́рез мі́сяць 「一月後、来月」 

по́вз 「~を通り過ぎて」

空間的に何かを挟んでいるところを通り過ぎていくイメージです。

ходи́ти повз двір 「庭先を通って歩く」
повз пшени́цю густу́ 「生い茂った小麦を抜けて」 

по́при 「~にもかかわらず」

「ほんの~だけど~できた」などのポジティブな意味でも、「これだけ~なのに~になってしまった」といったネガティブな文脈でも用いられます。

по́при всі намага́ння 「あらゆる努力にもかかわらず」


これ以降の前置詞は別の格と共に用いられると意味が変わってきます。対格の時の意味は以下のとおりです。
по と з と за 以外の前置詞では対格につくときは移動や行動を表す動詞などと共に「●●の~に向かって(行く、など)」という意味になることが多いです。 

по 「~にそって、~にしたがって、~のために、~ごとに、~まで」

非常に意味の広い前置詞です。主な意味は上記のとおりですが、最初のうちは文脈からおおまかに判断した方が良いかもしれません。処格がつくと意味が変わります。

по той бік 「反対側(そちら側)に」
іти́ по лі́каря 「医者に行く」
сніг по колі́на 「ひざまでの深さの雪」
по п’ять ра́зів 「5回ずつ」
ходи́ли по че́тверо 「4人ずつ歩いた」
з бе́резня по ве́ресень 「3月から9月まで」 

з (із, зі, зо) 「およそ~」

基本はзですが、前後の語によって子音に挟まれる場合もしくは直後の語が с- または ш- で始まるときはіз に、次の語が「з, с, ш, щ+別の子音」で始まるときは зі に、数詞 два 「2」、три 「3」の前では зо になります。
ほかに属格と具格がつきますが、かなり意味が異なりますので注意しましょう。

з годи́ну 「約一時間」
з мі́сяць 「およそ一か月」
з п’ять фу́нтів 「およそ5ポンド」 

за 「~(時間の単位)で、~(値段)で、~の間、~後に、~のために、~より、~以上、~に賛成して、~に対して、~に(嫁ぐ)」

こちらも非常に意味の多い前置詞です。大まかに「後ろに向かって」、また「あるものに直接相対する」というイメージをしておくとなんとなく意味がつかみやすいかもしれません。が、そうはいっても用法が多いので例も多めに紹介しておきます。

За мі́сяць приї́де. 「1か月後(以内)に来る」
за дві годи́ни 「2時後(以内)に」
Дя́кую за хліб. 「パンをありがとう」
за ба́тьківщину 「祖国のために」
Я за пра́вду. 「私は真実に賛成だ」
дале́ко за пі́вдень 「遥か南に」
сі́сти за стіл 「テーブルに着く」
Вона́ була́ за шістдеся́т. 「彼女は60歳を越えていた」
за сто ме́трів від шко́ли 「学校から100mのところに」
говори́ти за ньо́го 「彼の代弁をする(かばう)/彼について話す」
Мені́ стра́шно за Іва́на. 「イヴァンのことが心配だ」
Це я купи́в за 100,000 гри́вень. 「私はそれを10万フリヴニャで買った」
відда́ти до́чку за си́на дру́га 「娘を友人の息子の嫁に出す」 

いずれも非常によく使われる用法です。なかなかたくさん例に触れないと感覚的に理解するのは難しいと思うので、上記の例で大まかなイメージをつかみ、あとは出会うたびに文脈から意味を推察してだんだんと身につけていくと良いかもしれません。 

між 「~の間へ、~の間を」

空間的な意味で、行動や移動の向かう先を表します。なお、具格と共に用いられると静的な位置を表します。

вда́рити його́ між о́чі 「彼の眉間(直訳:目の間)を打つ」
ступи́ти між дере́ва 「木々の間に足を踏み入れる」 

над 「~の上へ、~を超えて、~に」

空間的に上方向に向かう動きが中心です。そのほか「~以上に遙かに」という程度を表します。なお、時間帯など時間的意味を表すときは「上」のニュアンスは(少なくとも日本語的には)それほどありません。なお、これに対し具格と共に用いられると静的な位置を表します。

Ві́тер поні́с зву́ки го́лосу над во́ду. 「風が声の音を水の上へ運んだ」
Тебе́ коха́ю над життя́ 「命よりも君を愛してる」
дава́ти проду́кцію над план 「計画以上に製品を生産する」
над за́хід со́нця 「日が沈むときに」
Вона́ засну́ла над ра́нок. 「彼女は朝に(朝になる頃までに)寝入った」 

по́на́д 「~のすぐ上を、~以上、~を超えて、~に」

над と意味が近いのですが、над よりも「超える」というニュアンスが出ています。ただし、時間帯を表すときはその意味は薄れてきます。なお、具格と共に用いられると над と同様に静的な位置を表します。

по́на́д три ти́жні 「3週間以上」
по́на́д сто студе́нтів 「100名以上の学生」
ви́пустити кни́жку по́на́д план 「計画以上に本を発行する」
Він геро́й по́на́д усі́х геро́їв. 「彼は英雄の中の英雄だ(直訳:全ての英雄を超える英雄だ)」
Було́ вже по́на́д ра́нок. 「すでに朝方近くであった」 

пе́ред 「~の前へ」

空間的・時間的に「前」へ向かっていく意味です。なお、具格と共に用いられると静的な位置を表します。

прийти́ пе́ред дім 「家の前へ来る」 

під, по́під 「~の下へ、~の近くへ、~に向かって」

具体・抽象を問わず「下」方向を意味します。この「下」については、例えば「家」だったらその地下や壁のすぐ下、という意味ももちろん表しますが、そのほかに「家を中心とする空間」も表します。日本語でも「東京都下」というときはいわゆる23区以外の近郊地域を表しますが、これと似たようなイメージです。そのため、「●●(場所)に向かって」という意味が出てきます。
時間的な意味では、時間帯などでは「その時間帯がある下で」という意味合いなので単純に「~に」と訳されることもありますが、特定の日付けなどにつくと「~を控えて」という意味合いが出てくることもあります。また、非常によく使う表現として「під час+(属格)」で「~の時に、~の間に、際に」を表しますので覚えておきましょう。
具格と共に用いられると静的な位置を表します。

Вони́ пішли́ під зе́млю. 「彼らは地下へ行った(直訳:地面の下へ行った)」
сі́сти під сті́ну 「壁際へ座る(直訳:壁の下へ座る)」
диви́тися по́під стіл 「机の下を覗く」
Вони́ прийшли́ під на́шу ха́ту. 「彼らは私たちの家の方へ来た」
прийти́ під його керівни́цтво 「彼の下に就く(直訳:彼の指揮下へ来る)」
потра́пити під вплив се́кти 「カルト宗教の影響に陥る」
під ра́нок 「朝方」
Їй під три́дцять. 「彼女は30間近だ」
під нови́й рік 「新年を控えて」
під час пере́рви 「休憩の間に」 

по́за 「~の向こうへ、外へ」

何かがあってそれを越えていくまたは過ぎていく意味です。

іти́ по́за две́рі 「ドアの向こうへ行く=外出する」
по́за ці сті́ни 「この壁の向こうに/外に」 

в/у 「~(の中)へ」とна 「~(の表面)へ」

この二つの前置詞は用法がかなり近いのでセットで見ていきましょう。上記では基本的な空間的意味のみ書いていますが、いろいろな用法があります。どちらも処格と共にも用いられ、その場合は場所や時間に関して、「~に(ある)、~で(する)」を表します。

目的地を表す用法

対格と共に用いられるときにまず重要なのが目的地を表す用法です。まず、処格と共に用いられているときにも同様ですが、в/у と на のどちらの前置詞が使えるかは名詞によって異なります。
в/у は「中」というニュアンスを含むため、建物や部屋、国、都市、庭などの何らかの境界線で囲まれた場所に関して用いられます。

іти́ в кімна́ту 「部屋へ行く/入る」
іти́ в ха́ту 「家へ行く/入る」
ї́хати в Украї́ну 「ウクライナへ行く」
ї́хати в Ки́їв 「キーウへ行く」 

これに対して на は「表面」というニュアンスを持っており、場所としては屋根がなく囲われていない場所(もしくは少なくとも昔はそうだった場所)、すなわち通りや市場、地方や駅について用いられます。駅は日本人の感覚からするとちょっと違和感があるかもしれませんが、ウクライナなどの鉄道駅は駅舎もありますがプラットフォームがかなりオープンスカイですので「表面」になります。地下鉄の駅も、実際には地下にあるので覆われた空間ではありますが на で表します。
このほか、イベント・出来事も на で表されることが多いです。

іти́ на ву́лицю 「通りへ行く/出る」
іти́ на база́р 「市場へ行く」
ї́хати на ста́нцію 「駅へ行く」
ї́хати на Льві́вщину 「リヴィウ地方(州)へ行く」
іти́ на поба́чення 「デートに行く」
ї́хати на міжнаро́дну конфере́нцію 「国際会議へ行く」 

最初のうちはどちらを使えば良いのか迷うかと思いますが、間違えても大概意味は通じますので、少しずつ慣れていけば良いでしょう。

ただ、場所などに関しては上記のとおり名詞によって使い分けられることが多いのですが、下記に示すように в/у と на のどちらも使え、表す意味によって異なることも多いです。その場合 в/у は「中」、на は「表面」ということが分かっていれば、むしろどちらかしか使えないよりはわかりやすいと思います。

іде́я прийшла́ в го́лову 「アイディアをひらめいた(直訳:アイディアが頭に入ってきた)」
покла́сти коро́ну на го́лову 「王冠を頭に載せる」

ただし、場所を表す時も в/у と на で表す意味が異なる場合もあります。

іти́ на мо́ре 「海へ行く」
іти́ в мо́ре 「海へ入っていく」

一つ目は単純に日本語で「海へ行こう」などと言うときのニュアンスに近く、比較的漠然と「海」というエリアに行くということを表すのに対して、二つ目は実際に海の水に入っていくということを表します。 

なお、ウクライナ語では目的地を表す際には до+属格の構造もよく用いられます。 

時間的意味を表す用法

次に、時間的意味を表す用法を見ていきましょう。なかなか一般化しづらいのですが、в/у は後ろにつく名詞で表される時間を比較的幅を持った時間帯として、対して на はその時間を点として表すイメージとなっています。目的地を表す時に比べて感覚的な部分があるので、最初のうちはどういうときにどちらを使うのかを理論づけて考えるよりは、それぞれの表現に行き当たったときに都度覚えていった方が良いかと思います。

なお、曜日について「~曜日に」を表す時は в/у +対格で表されますので覚えておきましょう。ちなみに週は на+処格、月・年は  у/в+処格になります。

例を見ていきましょう。

Захо́дь до ме́не на хвили́нку! 「ちょっと(直訳:1分)うちに寄って行きなよ」
ї́хати в Оде́су на весну́ 「春に(春の間)オデーサに行く」
на дру́гий день 「翌日に」
на п’я́ту ніч 「5日目の夜に」
на той час 「その頃」
два ра́зи на день 「一日に2度」 

у п’я́тницю 「金曜日に」
в таку́ ніч 「こんな夜に」
у цю по́ру 「この時期に」
в його́ три́цять ро́ків 「彼が30歳の時に」

その他の表現

その他、対格と共に必ず в/у か на のどちらかを使う特定の表現がありますので、いくつか紹介しておきます。これらはあまり в/у や на の前置詞としての意味は考えずに、表現としてそのまま覚えた方が良いと思います。

сту́кати у две́рі 「ドアをノックする」
ба́чити в вікно́ жі́нку 「窓から女性が見える」
вдава́тися в па́ніку/пиху́/ту́гу 「パニックになる/うぬぼれる/憂鬱になる」
узя́ти в поло́н 「捕らえる(捕虜にする)」
в ім’я́ свобо́ди/короля́/ба́тька 「自由/王/父の名にかけて、名において」
іти́ в го́сті 「(誰かを)訪れる、(誰かのところへ)遊びに行く、お呼ばれする」
відда́ти в на́йми 「貸しに出す」
у ві́дповідь 「答えて、返事に(~と言う、~する、など)」
поцілува́ти її́ в ру́ку 「彼女の手にキスをする」
у три ра́зи бі́льше 「3倍大きい」 

ві́рити на сло́во 「言葉を真に受ける、信じる」
попа́сти йому́ на о́чі 「彼の目にとまる、目につく」
перекла́сти на япо́нську мо́ву 「日本語に翻訳する」
на па́м’ять 「記念に」
вечі́рка на честь приї́зду го́стя 「客人の来訪を記念してのパーティ」
мука́ на хліб 「パン用の(パンに使う)小麦粉」
погляда́ти на його 「彼を(ちらりと)見る」
на шви́дку ру́ку 「急いで」
бра́ти на се́бе 「責任を負う、引き受ける」
на знак 「印として、証として」

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