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【タイ駐在日記】ルミナリエをタイで企画。イタリアの現地職人を訪問した話

ルミナリエの説明をざっくりと

• ルミナリエとは、お祭りなどのデコレーションに使われる、木製(アルミ)の型と電飾からなる飾りつけのことである。
• 歴史の記録上にルミナリエが初めて登場するのはおよそ600年前で、当時サレント地方(今のイタリアのかかとの部分)を支配していたナポリ王国の宮廷で貴族たちがお祭りのデコレーションとしてルミナリエを使用するようになったのが事の初めであったとされている。
• 地元サレント地方では、その中心都市レッチェの絢爛豪華なバロック建築群にインスピレーションを受けたルミナリエが、個性的なスタイルを確立していくようになった。
• 今日21世紀のルミナリエでは、LED電球が使用され、木製の型枠もより複雑なかたちに、そしてより巨大化した。

僕が初めて神戸でルミナリエを見たのは大学生のときでした。
関西に住んでいたので、神戸のルミナリエが綺麗だとは聞いていましたが、実物は想像以上で感動したのを覚えています。

ルミナリエ

本題はルミナリエの荘厳な光の芸術性ですが、神戸ルミナリエの説明をしておきます。日本最大のルミナリエの歴史、現状、収支を理解しておいたうえで、僕が実行するときの工夫点まで落とし込みます。

神戸ルミナリエについて

神戸ルミナリエは、1995年1月17日に兵庫県南部地方を襲った阪神・淡路大震災の記憶を次の世代に語り継ぐ、神戸のまちと市民の夢と希望を象徴する行事として開催しています。大震災が起こったこの年の12月、年初の悲しい出来事による犠牲者への慰霊と鎮魂の意を込めた「送り火」として、また、間もなく新しい年を迎える神戸の復興・再生への夢と希望を託して「神戸ルミナリエ」が始まりました。未だ震災の影響が色濃く残り、復旧途上にあった神戸の夜に初めて灯った、イタリアからやってきた荘厳な光の芸術に連日感嘆の声があがり、震災で打ちひしがれた神戸のまちと市民に大きな感動と勇気、希望を与えました。そして、会期終了直後から継続を求める強い声が市民や各界から寄せられ、翌1996年の開催が決定しました。以来、市民や来場者、趣旨にご賛同頂いた事業者の皆様のご支援と地元の皆様のご理解・ご協力により毎年途切れることなく続けることができ、2017年には第23回目の開催を迎えました。

神戸ルミナリエ主催者はイベント化したくないという想いから無料化を一貫しており、協賛と募金で運営されています。ただし、当初の鎮魂の目的は失われ観光客目的に主催されているという意見や、神戸の地元企業やお店に利益が還元されていない部分もあるので賛否両論あります。また、経費問題で毎年開催が危ぶまれています。クラウドファウンディングもトライしたようですが、目標金額に到達しなかったようです。

ここに平成27年度神戸ルミナリエの収支表があります。

『平成27年度神戸ルミナリエ収支表』

収支:約469百万円
支出:約455百万円

約14百万円の黒字ですが、収支資料によると、開催期間を短縮したことによる警備費14百万円の削減と製品仕様の見直しによるコスト削減が要因だと記載されています。収支に関しては、改善余地はまだまだあります。

神戸ルミナリエに関する説明を一旦終え、ルミナリエの荘厳さに感動しイタリアのルミナリエ工房を訪れた体験談に焦点を当てます。Noteの後半では、僕がルミナリエを実行する場合の考え方や工夫点を述べます。

大学生のときはルミナリエの運営の仕組みやルミナリエがどのように作られているのか理解していませんでしたが、単純に感動しました。以降、僕の中に感動の代名詞としてくすぶり続けました。


タイで「土地の有効活用ビジネス」を模索


大学時代から8年ほど月日は流れ、僕がタイはバンコクに駐在しているとき、日本の本社から「タイでも土地の有効活用ビジネスを模索しろ」という命令が飛んできました。厳密にいうと組織論上では僕は土地活用ビジネスを遂行する必要はありませんでした。面白そうだと思ったので、直属の上司に内緒で個人的に取り組んでいました笑。僕はバンコクにルミナリエを持ち込めないか考えました。調べてみると、以下2点が分かりました。

・イタリアにルミナリエ工房があること
・神戸ルミナリエはイベント企画会社「アイ・アンド・エフ」今岡寛和氏がプロデュースしていること

アイ・アンド・エフ社に問い合わせしてみようかとも考えましたが、イタリアのルミナリエ工房に直接問い合わせるほうが面白いと思い、ルミナリエ工房に直接コンタクトを取りました。僕は自分で直接コンタクトを取ることが多いです。理由は単純で直接見たり聞いたりするほうが理解できるし、モチベーションが上がるからです。

世界最大手のルミナリエ工房2社(Malianolight工房とDECANA工房)とアポが取れました。場所はイタリア、ルミナリエ発祥の地、レッチェから南に35kmほど行ったところにある、サレント半島のスコッラーノ村(Scorrano)です。

実費でイタリアの田舎町へ突撃訪問


事業アイデアとしてまだまだ確度が低いアイデアなので、会社の出張費では許可が出せないとのことでした。当然といえば当然です笑。僕はイタリア旅行も兼ねて自費で行く腹づもりでしたので内心では「そりゃそうやな」と思っていました。出発にあたり、タイでの上司(現地法人社長)から餞別として旅費の足しに現金で5,000バーツ(16,000円)頂きました。本社には内緒にするからということで有給5連休まで頂きました。上司は僕に「色々と経験して考えてトライすることが大事やで!」と後押ししてくれました。面白い上司でした笑

初めてのイタリアでした。サレント地方は、とても落ち着いた町が多く、気候もよいので気持ちが良くなる場所でした。文章で説明するりも写真の方が伝わりやすいと思います。

Magileの中心にある公園

Magile中心地の広場

宿泊したホテルに面した通り

街中での小規模ルミナリエ設置現場

無事にイタリアに到着しMagile(マリ)という町に宿泊し、ルミナリエ工房を訪問しました。最初に訪れたのはMalianolight工房です。

• 1898年に設立され最も長い歴史を持つ老舗会社
• 社長は3代目
• 2015年と2016年の神戸ルミナリエを受注

ここの社長は絵にかいたようなダンディなイタリア人でした。オフィスもすごく洗練されたオシャレな空間でした。ノコノコと一人でやってきた僕に仕事場や工房の歴史を丁寧に紹介してくれました。神戸ルミナリエを受注したことも初めて知りました。訪問前はルミナリエの作品はイベント企画会社「アイ・アンド・エフ」の今岡さんがデザインを手掛けていると思っていました。実際はMalianolight工房が全てデザインしているとのことでした。
海外にルミナリエを持ち込む場合の一連の流れはこうです。①概算予算と作品テーマの共有 ➁会場となる現地の状況把握(有効敷地面積、支えとなる建物の確認、クレーントラックの仕様や台数、風の影響)*支えとなる土台も彼らで準備できるので、会場に支えがなくても対応可能です ➂作品イメージを3D画像で確認④必要な部品は制作するが、ほとんどのパーツは既製品(過去作品で使用した部品)で対応⑤各種部品を海上コンテナで輸送 ⑥現地にイタリアから設営職人を送りこみます ⑦現地で施工し作品完成 ⑧期間終了後に解体し終了

過去作品や制作過程の説明を受けました 笑顔が素敵です

神戸で使用した製品の一部

木製部品をカットする機械

木製パーツは倉庫で保管し繰り返し使用します

作品で使用する電飾

近郊までは自社トラックで木製パーツや電飾を運びます

海外の案件では海上コンテナで製品に必要な部品や土台を輸送します

隣町でMalianolight工房の作品があるので一緒に見学させてもらいました

音楽に合わせて電飾が光りだします

広場には音楽団が楽器を演奏するイベントもあります

Malianolight工房の方たちとの1枚
右から社長、社長の奥さん、僕、従業員

現地に足を運んで良かったと感激したのを今でも覚えています。そうです、現地会場の安全性の確認や資金の準備は必要ですが、ルミナリエは僕でもプロデュース出来ます。

次に訪れたのは、DECANA工房です。
• 1930年創業の2大ルミナリエ工房(もう一つはMarianolight工房)の一つ
• 社長は3代目
• 神戸ルミナリエの初期から長年に渡り担当1995~1999,2002~2006,2011

DECANA工房は南イタリアの穏やかな雰囲気をまとった大家族で経営されています。DECANA社工房では、海外案件担当者は3代目社長の息子さん(4代目目社長)が対応しており、訪問したときも息子さんが対応してくれました。この息子さんのキャラクターがとても面白いのです。彼は幼少期のころはゴーカートレーサーの選手でジュニアの世界大会で3位に入賞した強者です。今は家業であるルミナリエ工房の仕事に明け暮れていますが、趣味は車とドライブで大きな犬を3匹ほど飼っています。彼はとても優しく、工房見学が終わった後、一人だと僕が時間を持て余すだろうということでサレント地方のアテンドもしてくれました。

DECANA工房の仕事場には大きな白い犬がいました

工房では職人さんが木製パーツを制作中

アットホームな感じのオフィス

レッチェの大広場でのルミナリエ設置作業現場

右から3代目社長、僕、社長の従妹(ルミナリエ設置責任者)

夜には近くの町でルミナリエの作品を見学
右から3代目社長、僕、社長の父親(2代目社長)

2代目社長の現役時代に最初の神戸ルミナリエの仕事を請け負ったとのことです。2代目社長は自らデザインも手掛けDECANAを世界規模まで広げた立役者です。今は現役を退いて悠々自適な生活をされています。DECANA工房も先述したMalianolight工房と同じ工程の流れをとります。海外案件の場合は、現地の会場確認や準備に時間がかかるので半年程度はリードタイムを見る必要があります。概算で一億五千万円ほどあれば神戸ルミナリエ級のルミナリエを提供できるが、予算に合わせて対応が可能ということでした。

仕事場訪問を終えた翌日、サレント地方を息子さんに案内してもらいました。ゴーカートをしていただけあって運転技術は半端じゃないです。今はアウディに乗車していますが、以前はフェラーリを運転していたそうです。お小遣いを地道に貯めて購入したフェラーリは移民に盗難され、そのときは失意のどん底だったと話してくれました。お小遣いでフェラーリを買う??? あんまり深くツッコめなかったです笑。車間距離10メートルでもアクセル全開で小刻みに運転するゴーカート運転に助手席で怯えていると、普通の運転の方が好きならゆっくり運転するよ、と落ち着いた運転に切り替えてくれました。

愛車と写る息子さん めっちゃ優しいナイスガイ

観光に合わせて自宅にも招かれました。彼の自宅には体重80Kg程度はあろうかという大きな犬がいるのですが、僕は見た瞬間、本能で危険を感じました。心の中では、「うわ、ケルベロスやん…」と警戒レベルMAX状態。

謎の塔が両サイドにある豪邸

ケルベロス

警戒態勢MAXの僕を見て、息子さんは「噛まないから車から降りてきて」と誘導。見たらわかる、噛むやつやん。案の定、ガブ…。ゴメン、敵だと思ったみたいって、そりゃそうやろ笑 噛まれて引き千切られた服を不憫に思った息子さんは僕にシャツをくれました。ありがとう。海辺のオシャレなレストランに連れて行ってもらったりと面倒見のいい彼のおかげで充実したイタリア訪問となりました。

彼からもらったTシャツ

海辺のレストラン

彼の言葉で印象的だったのは、「もし俺が異国の地で一人だったらどこに行っていいか分からないし、誰かと一緒にご飯を食べるほうが楽しい。当たり前のことをしただけだよ笑」 3代目社長、あなたの息子さんは立派に成長されました。このセリフを聞いたときは、彼が日本に来たときにはフルアテンドして恩返ししようと決めました。彼の人間力に触れることが出来たいい出会いでした。やっぱり現地に足を運んでみるものです。Malianolight工房の方たちも素晴らしい対応をしてくれましたが、どちらか1社を選ぶとなると、DECANA工房を選びます。理由は単純で息子の対応に心を動かされたからです。

バンコクでオーナーへプレゼン!しかし思わぬ自体に…

バンコクに戻ってからは、土地探しと資金調達をする必要がありました。僕の会社の裏側に広大な土地があるのを知っていました。早速、土地の持ち主であるオーナーにコンタクトを取りました。オーナーは僕の会社が入っている建物のオーナーでもあります。提案資料を作成するために、タイのスポーツチームのGMをされている方にアドバイスをもらいました。スポーツチームがスポンサー契約を獲得するプレゼン資料を勉強させてもらい、神戸ルミナリエの集客規模の過去実績から集客数を想定しオーナーにプレゼンしました。また土地活用の代替案としてフットサル場建設の案も提出しました。オーナーは、オーナーの友人が集まる会合で本件を紹介してみるので少し時間をくれと回答をもらいました。このときタイミングが悪く、タイの国王が亡くなり、タイ国内での全イベント禁止が発表されました。そうこうしているうちに僕の帰任が決まりバンコクでのルミナリエ案は消えてしまいました。後から知ったのですが、会社裏の敷地にフットサル場が建設されていました。何はともあれ、ルミナリエを実現できず今日に至ります。

日本で企画するときのポイントを考えてみました。


まず、大前提として僕がルミナリエを実行する場合は、お祭り(エンターテイメント)として行います。単純に楽しんでもらうために開催します。ルミナリエという光の芸術品で非日常的な空間を演出し、その空間でお客さんに楽しんでもらうというシンプルな目的です。

神戸ルミナリエの実績データから分かるように、資金繰りは大きな課題です。
平成28年度神戸ルミナリエのデータから収支内訳を見てみましょう。

収入の内訳
協賛費:200
補助金:139
募金等:71
飲食店舗負担費:51
その他収入(オフィシャル商品):8
合計:469

支出の内訳
作品制作費:117(企画設計費10、素材調達費39、設営撤去工事費67)
会場運営費:35
警備費:131
運営費:65
飲食店舗費:43
広報費:15
収入対策費:31
事務局費:23
合計:455

大まかな戦略として、ファンコミュニティの構築からスタートします。ファンコミュニティ構築手順としては、ルミナリエにまつわる作品作り、その作品を絡めたイベント企画事業によるファン作りを考えています。
支出の会場運営費、運営費、飲食店舗費、広報費、収入対策費はファンコミュニティのメンバーで対応できると考えています。キングコングの西野さんが書かれていましたが、お金を払ってでもイベント運営に携わりたいと思わせることが出来れば、上記は支出ではなく、収入に変わります。警備費に関しては、入場制限を行うことでかなりの警備費を削除できると考えていますが、ここでは単純計算するために支出は作品制作費と警備費のみに絞ります。117+131で248(百万円)が支出です。本件の場合、企業を絡めたイベントやルミナリエを行う行政と連携することで、協賛費と補助金の可能性は十分あります。一番重要なポイントですが、募金という形をなしにして、参加費を頂戴する形をとります。この参加費は収支をかなり底上げできるポテンシャルがあると睨んでいます。また、クラウドファウンディングによる資金調達も考えています。このイベントを通した儲けは次のイベントにまわすという循環型がいいと思います。かなり大雑把な説明になりましたが、

最後に神戸ルミナリエの来場者数データをご紹介し、ルミナリエのポテンシャルを感じてもらえればと思います。

「来場者数」

開始当時(平成7年)の延べ来場者数(11日間)は2,542,678人、一日平均は231,152人
平成29年では、延べ来場者数(10日間)は3,396,000人、一日平均は339,600人

平成27年度のデータから、一日あたりの費用は、全支出から作品制作費の企画設計費と資材輸送費を引いた金額を日数で割り返すことで一日あたりの概算費用として算出しました。一日あたり40.6(百万円)の支出となります。
仮に神戸ルミナリエ規模で来場者数が見込めるとなると、入場料が1,000円で339,600人×1,000円となり一日あたり339.6(百万円)の収入が見込めます。
少なく見積もって、神戸ルミナリエの約12分の1の来場者数でペイできる計算です。

どう転んでも来場者数が見込める導線作りを仕掛けます。

YT&H

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