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LAの熟成庫視察ツアー

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僕たちの熟成肉の師匠に会うためにアメリカはカリフォルニアに行ってきました。有難いことに師匠が現地での調整を全て行ってくれました。熟成庫ツアーの手配、厨房見学、レストラン予約、自由な質疑応答時間、etc... 

LAにいる師匠の紹介

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現地の熟成庫の説明の前に、先ずは師匠の紹介をします。師匠の名はザックです。師匠はシェフとしてキャリアをスタートさせ、現在は世界的に有名なレストラングループの実務トップ(レストラン出店・撤退の決定)を任されています。和牛の輸出ビジネスをしているとき、師匠がレストラン出店の市場調査を行うために来日し、東京をアテンドさせてもらう機会がありました。血迷った僕は、師匠と二人で六本木ヒルズの展望台へ連れて行きました。日米のオッサン二人で夜景・・・。

後日別の人から聞きましたが、師匠は「なぜ夜景を見に行ったかは分からないが、楽しかった」と喜んでいたそうです。日米オッサン夜景同盟がきっかけで師匠と距離が近づき、熟成肉のアドバイスをもらえる関係になりました。

視察店① ブッチャー&レストラン&BARが一体化



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それでは熟成庫視察ツアーの内容報告です。先ず最初に訪れたのはハリウッドにあるGwenというレストランです。こちらのレストランは精肉店(ブッチャーショップ)とレストランが併設されており熟成庫は店内にあります。

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併設されているブッチャーの様子

・温度・・・0~2℃
・湿度・・・70~80%
・風・・・0.5~2m/s
・菌・・・特に散布等は行っていない
・熟成期間・・・30日が一般的、顧客のオーダーにより100日も対応

Gwenでは牛肉以外に豚や鴨も熟成していました。

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新しい商材の発見

そして自家製加工ハム(サラミや生ハム等)を行っていました。このお店で気になった商品にWagyu Bresaola(牛肉の生ハムです)というものがありました。お恥ずかしい話、訪問する前には牛肉生ハムの魅力に気づいていませんでした。現物を見て見栄えに心を打たれました。Gwenを訪れたのは営業時間外でしたので、味見をすることは出来ませんでしたが、bresaolaは僕たちの最初の商品になると思います。

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めちゃくちゃ美味しそう…

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そもそも既に柔らかい和牛に対して、肉を柔らかくするための技法でもある熟成には向いてないという判断が我々にはありますが、和牛のもつキレイなサシをうまく表現できる、またそれを薄く切って、お酒のツマミとしてであれば、最大限に活かせる気がします。販売の側面においても、長期保存も出来ますし、今までとは異なるマーケット(スナックやバーにもマッチします)に攻めることができそうです。

視察店② 師匠のレストラン Chi Spacca

次に師匠であるザックが所属するレストラングループのステーキレストランChi Spaccaを訪れました。こちらのChi Spaccaはカリフォルニアで初となる豚肉の加工設備を併設したレストランでもあります。牛肉と比べると豚肉の方がはるかに衛生管理が厳しいのは日本もアメリカも同じです。師匠は牛肉に限らず豚肉に関しても知識が豊富です。Chi Spaccaの熟成庫は以下の条件で管理されています。

・温度・・・0~4℃ *-2℃までは許容範囲
・湿度・・・65~87%
・風・・・0.5~2m/s
・菌・・・特に散布等は行っていない
・熟成期間・・・30日が一般的、顧客のオーダーにより100日以上も対応

骨付きで熟成させる意味
熟成肉の一塊42~45パウンド(約20Kg)で、熟成肉を保管するラックはプラスチック製を使用。ステンレス製のラックは品質はいいが高価なのでプラスチック製を採用。ラックは定期的に煮沸洗浄しているとのことです。熟成肉は骨付きが適しており、その理由は熟成過程で肉の形を綺麗に保つためです。熟成過程では、水分が抜けていき肉が縮んでいき、骨がないと形が崩れてしまうのです。熟成期間は平均で21日~28日が一般的ですが、75日を過ぎると香りに違いが出てきます。そして180日を経過すると、さらに強い香りとなります。香りの強さは好みに左右されるので、正解があるわけではありません。

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ほんの少しだけのサシが一番楽しめる。

僕たちはChi Spaccaでステーキを頂きました。焼き加減を聞かれたのでレアと答えましたが、このお店ではステーキはレアでしか提供していないとのことでした。僕たちは基本、シェフが一番美味しいと思う焼き方でお任せします。ステーキの味は絶品でしたが、味以上に驚いたことが2つあります。

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熟成のプロでも温度計を使う慎重さ

一つは火入れの温度です。55℃ぐらいで細菌が死滅し始めるので肉の芯温を55℃程度になるまで火入れと寝かしを繰り返すのが一般的だと思っていました。Chi Spaccaでは芯温は37~38℃までしか火入れしないとのことです。また。熟成肉は水分が少ないので、温度計を使わないと正確に火入れできないと教えてもらいました。熟成肉の場合、火入れの途中の感触(肉を押して焼き加減を知る)での判断はプロでも困難とのことです。

ホルスタイン(乳牛)が一番美味しい

もう一つ驚いたことは、ホルスタインを使用していたことです。僕たちはてっきりアンガス牛を使用しているとばかり思っていました。月齢36ヵ月くらいのでホルスタインとのことですが、やはり生産者には拘りがあり、全てのホルスタインがOKではないそうです。しかし、大きなヒントを得たと確信しました。ホルスタインの熟成肉には霜降り和牛ステーキ以外の市場を作る可能性がありそうです。

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総料理長のライアンさん

視察店③ 長期熟成肉 APL

最後にAPLというレストランを訪れました。残念ながらAPLのレストランの地下にある熟成庫を見学させてはもらえませんでした。オーナーが将来の競合になりうる同業他社には無料見学させないとのことでした。その考え方は分かります。師匠はかなりご立腹でしたが笑 

APLを選んだ理由
APLでは75日や120日以上の熟成肉がレギュラーメニューにあるのです。師匠は、色んな熟成肉を味見し違いを理解し、僕たちが美味しいと思う熟成肉を作るべきだとアドバイスしてくれました。120日熟成ともなると水分がかなり抜けている感じがしました。口の中の水分が持っていかれるイメージです。生ハムを大量に頬張ったときの感覚に似ているかもしれないです…。もちろん熟成香も強いぐらいでした。

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ちょっとした気付き
ですが、何よりも焼き加減に問題がありちょっと火を入れ過ぎている状態でした。前述の通り、水分が少ない熟成肉において、火の通り過ぎはご法度です。熟成肉に限らずステーキを語る場合、焼き加減が非常に大切になります。自分の感に頼らず温度計を堂々と使っていたCHISPACCAのシェフの偉大さも実感しました。「ステーキをたくさん楽しみたい」という理念のある僕らからすると、これはある意味良い体験ができたと言えます。

お店こだわりの専用ナイフ
但し、ひとつ面白かったのは、専用のナイフですね。刻印もされてるのは当然ながら、ステーキが出てくるタイミングでナイフケースから取り出してくれました。ステーキが食べ終わるとナイフケースに入れにまた来てました。専用ナイフというお店のこだわりはかなりいい勉強になりました。

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熟成肉作りで最も大切なこと

師匠曰く、熟成肉作りで最も大切なことは、熟成過程でのリカバリー(修正)だそうです。前述した環境作りは基本ですが、湿度コントロールや風の当て方は簡単ではありません。熟成肉の過程をチェックしながら環境を調整することで、最終製品を作り上げることが大切です。長期的な視点で考えたとき、品質の安定化を実現するために熟成期間中の修正力が大切であることは腑に落ちました。これは肉の仕入れ費用を無駄にしないことにも繋がります。師匠に熟成の進捗状況(写真と動画)を連絡し、オンライにはなりますが、都度アドバイスをもらえることになりました。修正力をつけながら熟成肉作りを進めていきます。

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