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「人気がある」=「ビジネス的に成功」とはならない現実。

先日の日曜日、「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」が最終回を迎えた。

スーパー戦隊シリーズ初の試みとして、作中に、

「ギャングラー(当作品における悪の組織)に奪われた秘宝『ルパンコレクション』を取り返し、ギャングラーによって失われた大切な人を取り戻すため、快盗の道を選んだ3人=ルパンレンジャー」。

そして「ギャングラー撲滅と世界平和のため、国際警察機構日本支部で特殊戦力部隊に任命された精鋭3人=パトレンジャー」。

…と、異なる立場と目的を持つ2大戦隊が、時に敵対し、また時に共闘する、という異色の設定だ。

キャッチコピーは「正義のアウトロー VS 絶対のヒーロー」

仕事柄、スーパー戦隊シリーズの案件を扱うことが多く、放映数ヶ月前には仕事の依頼と一緒に、宣材写真や設定資料を関係各社から頂戴するのだが、最初に話を聞いたときは「あ、今年はマズイな…。」という思いが強かった。

実のところ、設定がトリッキーな年はビジネス的に厳しい結果となることが少なからずあり、子供たちが今回の事例をどう受け取るか、それがどうしても引っかかった。

…で、放送が開始されたので、仕事も兼ねて観るようになった。

最初はピン、と来なかったのだが、数話経つと、パトレンジャー側のリーダーであり、パトレン1号に変身(パトライズ)する朝加圭一郎(演:結木滉星)の「熱血漢&真面目」という、一周回って逆に新鮮なキャラクター設定と、その熱演がフィーチャーされるようになり、毎週日曜の朝、Twitterのトレンドワードに「朝加圭一郎」が上がるまでの人気キャラクターに。

そうなると、キャラクターそれぞれの個性も負けじと拡がるようになっていき、ストーリーで各所に張られた伏線が

「あ!あの時のアレか!!」

という感じで回収されたりと、視聴者を飽きさせない内容として、毎週日曜朝には欠かせない存在になっていった。

マニアックな部分で言うと、『ルパンコレクション』自体が、過去のスーパー戦隊シリーズに登場したアイテム(変身アイテム、武器、ロボなど)をモチーフにした形状をしているため、Twitter上では元ネタ探しが一部マニアの間で毎週のように行われた。

そうなると当然、玩具もさぞ売れたろう、と思うのが普通だ。

結果を言おう。絶望的に売れなかったのだ。
関係各所の話、公開資料を総合すると、昨対比マイナス50%…。
キャラクターに関わる仕事を長らくしているが、初めて聞くレベルの落ち込みだ。

今作は、2つの戦隊が登場するが、変身アイテムは共通だ。
『VSチェンジャー』という白い銃に、双方の持つアイテム(ルパレン側が飛行機をモチーフにした『ダイヤルファイター』、パトレン側が車両をモチーフにした『トリガーマシン』)を装着することで、どちらの戦隊にもなれ、2倍楽しいし、付属品も売れる!というのが恐らくメーカーの目論見だったのだろう。

また、戦隊のビジネスモデルで特に重要な「合体ロボ」
これも、2つの戦隊共通になっており、コアとなるのが、『グッドストライカー』という、意志と感情を持ったメカで、そのときの気分(曰く「グッときた!」)で、ルパレン側、パトレン側に味方をするので、どちらのロボが登場するかは、その話の展開に左右される。

ちなみに、先の『VSチェンジャー』の話で触れた『ダイヤルファイター』、『トリガーマシン』は、それぞれ『グッドストライカー』と合体し、ルパレン側が『ルパンカイザー』、パトレン側は『パトカイザー』というロボに変形する。

互換性がある、とも言えるが、裏を返せば、遊びの幅は拡がらない。何故なら、ルパレン側、パトレン側も、ベースは一緒(VSチェンジャー然り、グッドストライカー然り)で、工夫のしようがないから。

毎週日曜の朝に、Twitterではトレンドワードになる程人気がある、というのは、いわゆる大人のファンによるものであり、本来のターゲットである「子供たち(および玩具を買い与える権限のある親)」によるものではなかった。

ちなみに、『ルパンカイザー』と『パトカイザー』を並べてバトルごっこをしたい場合は、コアとなる『グッドストライカー』が2個必要になる。
しかし、親的には同じものを2個買う気にはなれないし、それ以前に、子供的にも、どちらの戦隊に感情移入すればいいのか、困惑したのではないかと思う。

一応、ストーリー的にはルパレン側がメインで、また、人気も上という分析結果が出たらしく、本来は年末商戦に向け、パトレン側へ投入予定だった『サイレンストライカー』という戦車型のメカを、ストーリーにテコ入れを行い、ルパレン側の持ち物にしたという話も某所で聞いた。
(『サイレンストライカー』本体にパトレン側…つまり国際警察のエンブレムが入っているのがその名残、らしい)

本来の目論見であったろう「2つの戦隊=2倍の売上」どころか、昨対比マイナス50%という真逆の結果に終わった。

一方、我が家ではルパパトブームが到来し、東京ドームシティ内の特設劇場「シアターGロッソ」で開催された、出演者本人たちが登場するヒーローショー、俗に言う「素顔の戦士たち」シリーズを初めて観に行った。しかも2度。

チケットの獲得競争率は、噂レベルでは数百分の一(おそらく日にも依るだろうが)だったらしく、我が家では嫁さんのここぞ!というときに発揮する、鬼のような引きで、2回あった「素顔の戦士たち」公演の、どちらも初日を取ることかできた。

ちなみに、1回目の公演後、一部店舗で限定メニューをオーダーすると、ランダムでノベルティグッズのバッジが1個貰えるということで、後楽園ゆうえんち内にあるクレープ屋に行き、私と嫁さんとで2個オーダーしようとしたところ、バッジの在庫が切れてしまい、倉庫から運んでこないといけないので、1個で勘弁してもらえないか、というお詫びをされる羽目に。

その際、ベテランと思しきスタッフの方が「長いことやってますけど、こんなことは初めてですよ…。」と仰っていた。

2回目の公演時は、追加バッジがあるとのことだったので、改めて2セット購入したら、出てきたバッジが2人とも同じ柄(ルパレン側、パトレン側双方に味方をする新戦士・高尾ノエルのルパレン側の姿)というオチもついた(ダブったノエルバッジは、ノエル推しのデザイナーの子に差し上げたところ、今まで聞いたことのない驚きの声で叫び「いいいいいいんですか?!?!?」とひと騒ぎ)。

こうやって、大人が色々な形でお金を落としても、結局は玩具が売れてくれないことには、ビジネスとして成立しない。
それがキャラクタービジネスの難しさを示す、最たる例だと思う。

そして、この光景である。

つい1日前に完結した作品の玩具が半額以下で売られている。
これを残酷と言わずして何と言うべきか。


一方、子供たちは隣りのコーナーにある「仮面ライダージオウ」の『ジクウドライバー(変身ベルト)』と『ライドウォッチ(歴代仮面ライダーの力を使うためのキーアイテム)』を選ぶのに必死だ。

3月には新番組「騎士竜戦隊リュウソウジャー」が始まる。

だから、その商品を売る棚を空けるためにも、早く在庫となっている商品を処分しなければならない。これは大手ショッピングモール内にある玩具屋の様子だが、こんな叩き売りが出来るのは、体力(資本)がある企業だけだ。

年末年始にお邪魔した、町の玩具店では、そうもいかない。
だから、リスク回避のために商品を仕入れない。いや、仕入れられない。

こういう番組を「スポンサーが玩具の宣伝をするための30分CM」と揶揄する傾向は今に始まったことではないが、少子化、娯楽の選択肢が大幅に増えたこと、そして終わりの見えない不景気、一方で製造の大半を担う中国の人件費高騰、材料費の値上がりにより、上がる一方の商品価格…。

この時代のギャップに対し、どう向き合うか。 
今、キャラクタービジネス(特に子供向け)は、大きな岐路に立たされているのは間違いないだろう。

我々の世代で何かできる事はないのか?
そんなことを考えつつ、微力ながらも模索を続けている。

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