つゆ

梅雨の空を見上げる巫女・結の章(本文)

結の章 梅雨の空を見上げる巫女

あの日の後、彩芽は自室で傷を癒やしていた。つゆは自ら申し出て、彩芽を甲斐甲斐しく看病していた。
「癒し手の末裔のその子、きっといい巫女になるわ。」
静鶴はそう言い残し、どこへともなく去って行った。 つゆは未だに、自分にあのような妖が取り憑いていたとは信じられなかった。しかしあの日以来、自分の心の傷が少しずつ癒やされていくのを実感していた。もしあの町へ帰ることがあったとしても、今なら住人達に素直に笑顔を向けられるような気がした。もちろんそれはつゆの我儘ではあったが、彼女を覆っていた暗い影が完全に消え失せたことも意味していた。自分を身を挺して助けてくれた彩姉のおかげでこうなれた、と感謝の念を持って彩芽の方を振り返った。
「あ~、お腹空いた~。つゆー、おかゆまだ~?」
彩芽はのんびりした声で食事をねだった。そんな彩芽を微笑ましく思いつつ、つゆは笑顔で返事をした。
「はい、今お持ちします、彩姉!」
彩芽も朗らかな笑顔でいつも通り答えた。
「修行中は彩芽様、でしょ?」
二人はくすくす笑うと、相通じるようにお互いを見つめた。 季節は梅雨、じめじめして嫌な季節だという人も居る。しかしその雨のおかげで稲が育ち若葉が茂るのだ。少しでも人々の豊かな暮らしの手助けが出来る巫女になりたい、とつゆは決意を新たにし、彩芽と共に雨の滴る梅雨の空を見上げるのであった。


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