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10年後も、憧れのキラキラお姉ちゃんって思ってくれる?

年の離れた妹は、まだ高校生で北海道の実家に住んでいる。

この土日、オープンキャンパスのため、上京してきた。

私の家に一泊し、日曜の夜の飛行機の時間まで、面倒を見てほしいと母から頼まれていた。

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土曜日、オープンキャンパスの後に、表参道で妹と合流した。

早めのディナーは、食べログ3.7のイタリアン。テレビでも何度か取り上げられている有名店で、ピザが絕品だ。

お腹いっぱいに食べた後、まだ時間は早いが、一日動き回って疲れていたようだったので、寄り道せずに帰ることにした。

私の家は、表参道から10分ちょっと歩いたところにある。小さいけれど、築浅の綺麗な物件だ。

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部屋には、いくつか花瓶を置いていて、近所の花屋で買った花を生けている。

本棚に収まらない本は、無造作に積み重なっているものの、海外の絵本、美術展の図録、tokyo art book fairで買ったzineなど、装丁の美しいものが多く、良いインテリアになっている。

入った瞬間、妹が、おお、と声をあげたので、私は得意げだった。

オーガニック系のデパコス化粧品が並ぶ洗面台を抜け、サロン専売のシャンコンが置いてあるお風呂には、ちょっといい入浴剤をいれた。

お風呂上がりは、ZARA HOMEで新調した真っ白なシーツの上で、映画を観ているうちにいつのまにか寝ていた。

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翌朝、参院選の投票を終えたあと、六本木ヒルズにあるロブションのブランジェリーに行った。

パンをテイクアウトして、テレ朝夏祭りの賑わいを横目に、東京タワーの見えるベンチに座って食べた。

「古着が見たい」というので、代官山や神南とも迷ったが、妹の洋服のテイストを考慮し、下北沢に行くことにした。

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大学時代に通い詰めた下北沢は、駅が新しくなって、北口がないことに戸惑ったものの、そつなくエスコートし、おすすめの古着屋を何軒か紹介した。

妹が買い物をしている間、夏場は行列の絶えないかき氷屋の整理券をゲットし、歩き疲れてきた頃に、一緒に抹茶のかき氷を食べた。

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空港に向かう途中、妹が「この人知ってる?」とスマホを見せてきた。数ヶ月前、取材が決まりかけた芸能人だった。「うん、まだ話題になる前に、取材する予定だったよ。色々あって流れちゃったけど。」と答えると、「すごい!」と感動してくれた。

保安検査場まで妹を送り届けたあと、かき氷屋さんで撮った妹の写真とともに母親に連絡し、今回の任務は完了した。

無事、憧れのキラキラ東京ライフを送るお姉ちゃんを見せることができて、その時は満足していた。

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空港からの帰りの電車、だんだん後ろめたい気持ちになった。

そんなに憧れるようなもんじゃないんだ、今のお姉ちゃんは、と。

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妹に見せた姿は、決して偽っていたわけではないけど。でも、この憧れのキラキラお姉ちゃんは、砂上の楼閣だ。

表参道の近くに住めるのは、会社の近くだと補助をもらえるから。今の会社をやめたら、もうこんな場所には住めない。

部屋になんとなく飾っている花たちの名前はわからないし、本もたくさんあるけれど、1/3はろくに読めていない。化粧品は、今の職業柄、色々な人にもらっただけ。

ご飯は、毎日贅沢をできるわけもなくて、たまの外食は、食べログ頼り。普段は、コンビニで缶ビールと適当なお弁当を買って済ます。

下北に詳しいのは、大学時代、精神的に不安定で、大学もバイトも行けず、深夜に下北を歩き回るだけの日々があったから。

そして、妹が目を輝かせた、あの芸能人への取材だって、私の力不足で実現できなかったようなものだった。

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さらに切ないことに、妹へ感じる後ろめたさは、昔の私への後ろめたさだった。

東京でキラキラ活躍することを夢見た田舎の高校生。それは、今の妹であり、昔の私。

昔、なりたかった私に、表面上は近づいてる。だから、昔の私が、今の私に会ったら、きっと、すごいねって、言って憧れを抱いてくれる。今の妹のように。

だから、今、後ろめたくて、切ない。

私は、あの時なりたかった私に、本当はなっていない。

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10年後、妹もきっと東京で働いているだろう。

そして、仕事の話、プライベートの話、同じ立場で、もっと深く私のことを話すだろう。

東京で、なんとかそれっぽく生きている、ただの疲れた会社員のことなんて、見破れるくらいに。

その時、私は妹にとって、キラキラしたお姉ちゃんでいられるだろうか。

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今のうちに、この楼閣の砂が崩れる前に、基礎を固めなければいけない。順番は違ったかもしれないけど、きっと間に合わないことはない。

花の名前を覚えて、積んでいる本を読んで、美味しいお店にたくさん行って、面白い経験を積もう。

それを糧に、やりたい仕事をして、つくりたいものをつくって(またあの芸能人に取材をしてもいい)、

それで稼いだお金で、身の丈に合った生活をしたい。

その時は、港区に住んでないだろうし、もはや東京にもいないかったりして。それでも、憧れのキラキラお姉ちゃんでいられるように。

見ててね、妹。と、私。